102 本性の人
「ここでいいわ」
私は足を止めて、ゆっくりとふり返った。シンヤが無表情にこちらを見下ろして、腰元から拳銃を取り出した。
銃口が私のほうを向いた。頭を狙っていないことがまだ救いだったが、それでもそんなことが慰めになるわけではない。
私は自分がなるべく強気に見えるように、持てる力を最大限ふりしぼって顔を上げた。そうして、不自然になりがちな口元を引き絞った。
「あそこで何をしていた?」
彼は尋ねた。
私は目を細めた。
「何も。ネットサーフィンをしていただけよ。シンヤ、何故、銃を私に向けるの?」
「とぼけた子ね、まったく」
シンヤは肩をすくめた。
「あんな時間にネットサーフィン? ホテルをこっそり抜けだして? 馬鹿馬鹿しい。あんた、言い訳くらいもっとちゃんと考えて行動しなさいよ」
「何で? おかしい?」
「おかしいなんてもんじゃないわ。私が店内に入った時、あんた、驚きもしなかったじゃないの。まるで私が来るってこと、分かっていたみたいに」
「シンヤなら、いつでもすぐに駆けつけて、ちゃんと私の護衛をしてくれると思ったからよ」
「新橋のビルの時のように? あんた、あの時にはもう思い出してたんでしょう? 私が藤堂とかいう川嶋モトキの親友を殺した時のこと。だから私、あんたを殺しに行ったのよ。分かってて、あんたはあそこに行ったんでしょ? 何でその後も、トワに私のことを言わなかったの? 言ったらあんたを殺してやろうと思ってたのに」
「シンヤ……」