101 脅迫と寡黙
港のほうへ、かなり長い時間歩かされた。私はホテルに備えてあったパジャマのままだったので、寒さが肌に痛かった。
二歩後ろをついて歩くのはシンヤ。彼は目立たないように腰に手を回して歩いている。 はたから見れば、ホテルの宿泊客が二人連れ添って散歩しているように見えるだろう。だが、その実、ゆがんだ関係。
五時近くになっているだろうか、朝の光が空を起こしはじめている。薄ぼんやりと周りの風景が認識できるようになってきた。
人気のない通りを通って、人口芝の生えた広場に入る。その向こうは綺麗に整理された港公園だった。
ホテルからかなり離れてしまった。トワは起きているだろうか。
すぐ後ろにいるのに、シンヤの存在感はまったくない。これが彼の本来の姿なのだと認識する。普段のあの話し方、あの素振り、あれこそが作り物だった。
たっかたっかたっかたっかたっか……時間は震えるように過ぎていく。
公園に入ってもまだ歩き続ける。
私は歩きながら、少しだけ後ろを向いた。
「どこまで行くの?」
「……ネットカフェで何をしていた?」
私の質問を無視して、シンヤが低く尋ねた。いつものあの華やかさは息をひそめ、それは本当に表情のない声だった。
私は息を止め、意識して歩調を乱さないように歩いた。
「何をしていたの、コトコ」
間を置かず、再び同じ質問を繰り返した。
公園は静けさを保っている。人気のないことを強調するように、海鳥が大きく鳴く声が響いていた。
広場を横断して、倉庫の陰に入る。