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堕ちた勇者がすくうモノ  作者: かにみそ
第一章「二人目の勇者が堕ちるまで」
27/27

動乱編-6

おっと5分くらい誤差誤差^^まだ月曜日月曜日^^


…すみません。遅れました。

世界の奴隷(スレイヴニル)の連中と別れた後、優也はその足でガイルの家へと向かい、グレイシス一家の無事を確かめようとした。

しかし、家の中はもぬけの殻でガイルの姿も見当たらなかった。どうやら入れ違いになったようだと、家の外へ出て今後の予定を検討する。


前線は優也がほとんど片付けたので問題ないだろう。とすると後は王城か…。

今更愚王と会うのはいい気分ではないのだが、コリィさんの無事も確かめたいし、城に向うことにしよう。


優也は夢幻の扉(カオスゲート)を開くと、その門を潜るのだった。















***


レイテシア城内。外廊下に面した庭園は今、戦場と化していた。


「王女殿下ッ!!王を連れてお逃げ下さい!!」


全身から夥しい量の血を流し、カーネウスは叫ぶ。


「ええい!!グズ共めッ!!こんなトカゲ一匹相手にできぬのか!!王国騎士が聞いて呆れるわ!!」


苦虫を噛み潰したような表情で、唾を撒き散らしながら王は言った。

その巨体で、兵たちを塵を払うかのように吹き飛ばす黒い龍。―――アビスデーモン。

悪魔の名を冠する魔物の内、完全な龍の姿をしている珍しい魔物だった。

しかし、他の龍種と違い、その知能は著しく高い。古龍種にも匹敵する知能を持っている為、戦術をもってその巨体に立ち向かうのは愚策だった。

そんなアビスデーモンに対して、カーネウスは善戦していた。しかしただの人の身で立ち向かうには、アビスデーモンの力は圧倒的過ぎた。


もしカーネウスが一度でも攻めの姿勢を見せていたのなら、すでにこの場の人間は一人残らず死に絶えていたであろう。

しかし、この守りもいつまで保つかも分からない。少しでも崩れれば、一瞬にして死に至るだろう。


その血だらけの姿と、攻めることのないカーネウスの姿勢に王は罵声を浴びせる。


「クソ共が!!さっさと殺すのだ!!!」


王が兵の一人を足蹴にする。するとそれを視界に入れたアビスデーモンが王に向けて、ブレスを放つ態勢を見せた。


「お父上ッ!!!」


コリィが王に向かって駆け出した。


「いけません!王女殿下!!」





―――最悪の形で、ついに守りが崩れた。




飛び出すコリィをカーネウスは止めるが、もうすでに遅かった。

待ってましたと言わんばかりに口を歪めて、アビスデーモンはその鋭い爪をコリィに向けて振るう。



「―――え…?」


眼前に迫る爪を見て、コリィは思う。


私は一体なんの為に生まれて来たのだろうか…。

こちらの勝手な事情で、勇者召喚を行い、異世界の人を不幸にして、その償いも出来ぬまま―――。

―――誰のためにもならない自分は、このまま死ぬべきなのではないか…。



そう思い至り、コリィは静かに目を閉じた。



―――しかし、その死が訪れることはなかった。



***


























「ふぅ…どうしてこう毎回、間一髪なのか…。」


アビスデーモンの爪を左手で受け止めながら、優也は呟いた。その背中にコリィが問う。


「―――ユ、ユーヤ様…どうして?…なぜ…、ここに…?」


振り返った優也はコリィに当たり前のような声で言った。


「そんなの―――コリィさんを助ける為に決まってるだろ?」


自分を無視して話す優也に、怒ったのかアビスデーモンがブレスを放って来た。周囲の兵が慌てて防御の態勢をとるが、放たれたブレスの熱が兵たちに届くことはない。放たれたブレスは直ぐに、(アギト)たちが食らうことによって消滅したのだ。


「おい。真っ黒な龍、お前言葉が理解できるんだろ?なぁ、俺の下僕にならないか?」


人間風情が巫山戯るなと言わんばかりにブレスを連続で放つアビスデーモン。その全てを消されようやく気付いたようだ。今だに掴まれたままの爪が全く動かないということを。


「もし、抵抗するならこのままお前の爪を握りつぶす。全部の爪を握りつぶしたら、羽を引きちぎる。んで次は尻尾。次に脚、腕、最後に頭だ。―――さて、どうする?」


笑みを浮かべて質問する優也をアビスデーモンは見つめる。確かに笑ってはいるが、その目が全く笑っていなかった。

慌てて首を縦に振り、頭を低く下げるアビスデーモン。その様子に優也は満足そうに頷きながら、アビスデーモンの額に自分の血をつけた。


一連の様子を眺めていたコリィが優也に問う。


「い、一体何をして…?」


「ん?テイムしたんだけど…?なんかかなり便利なんだよね。このテイム契約ってやつ。」


コリィも含め、周囲の兵は優也の言っていることが理解出来なかった。

本来テイムとは、最下位の魔物を使役する程度のものである。

テイム契約の性質上、自分よりも強い魔物とは契約できない―――魔力量が自分より多い魔物とは契約ができないという性質があるのだ。

故に、この世界に現存する多くの魔物とは、テイム契約ができないというのが常識なのだ。


しかし今目の前で強大な魔力を誇るアビスデーモンと契約した男がいる。つまりこの男はアビスデーモンを上回る魔力を保有しているということになるのだ。


果たしてそれは人間と言えるのだろうか。兵たちは、不思議そうな顔で首を傾げる優也に戦慄した。


「何をしているのだッ!!!その醜悪な顔の者を含めてさっさと殲滅しろッ!!!カーネウスッ!!何をグズグズしておるのだ!!」


王が顔を赤く染めて怒りを撒き散らす。

その様子にどうすればいい?とアビスデーモンは優也に視線を送る。


「んー…。愚王がどうなろうと知ったこっちゃないんだが…。恨んでないっていうと嘘だし、いっその事殺すのもいいよなあ。お前こいつ食べたい?」


何気ない風に言う優也を、一拍遅れて兵たちが取り囲む。


「ユーヤ様!貴方のことを思えば、その怒りは当たり前のものでしょう…しかしどうか見逃して下さい!」


コリィは優也に懇願した。


「ん?なんで?」


「え…?」


「コリィさんは関係ないだろ?俺が殺したいのは愚王。あのクソオヤジを殺さないとこの国に居られないしね。」


ニッコリと笑みを浮かべる優也を目にし、コリィは悟った。この国が、彼をここまで歪ませてしまったのか…と。


「この無礼なゴミをさっさと消し去れッ!!!!」


優也が手をくだす前に、血管が切れてぽっくり逝くのでは?と思うほどの剣幕で、怒り散らす王に言う。


「あんたさ…周りのこと考えたことある?そんなでも一国の王なんだろ?」


問いかける優也に、王は怒りのまま罵声を浴びせる。


「だまれクソムシがッ!!だまれッ!!!だまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれえええぇぇぇ~~~~~~~ッ!!!」


溜息混じりに優也は詠唱を始める。

突如膨れ上がった魔力の多さに兵は、動けずにいた。誰しもが思ったのだ―――動けば死ぬと。





「『生まれるは爆炎』『生み出すは大波』『創られるは大地』『創り出すは暴風』『聖をもって束ね、魔もって制す』『現れるは、破壊の化身也』『―――今ここに、俺が全てを決めよう』」






優也が現在使用できる最大の魔法。全属性と属性外の全魔法、それらを統べた、合成魔法が紡がれる。





「―――『終局判決ッ』」





この時、大戦から約五〇年の時の中で、レイテシア王国領内にて最も高威力であろう魔法が行使された。


優也が指差した城の先、城内の塔の上半分を消し飛ばし、遥か彼方の山が大爆発を伴って中腹から消え去る。

遠く離れたこの場所まで、その爆発の熱が遅れて届いた。


地形を変えるほどの魔法を目に、王は口をパクパクさせながら、驚いていた。


「ふぅ…さっき魔力使い切ったからこの程度の威力しかでないが…今ある残りの魔力でもここを消し飛ばすくらいは容易だぞ。俺がお前に求めるのは、今後の俺に対する不干渉だ。」


「クッ―――!この悪魔めッ!!誰が貴様の言うことなど聞くものかッ!!」


恐怖に染まった顔のまま、王は優也の申し出を断った。


「…コリィさん。こいつもう殺していい?面倒くさいんだけど…。」


「お、お待ち、く、ください!!!」


顔を蒼白にしたコリィが、優也を止めた。

優也が怠そうに溜息を吐いた時、外廊下の端から、女性の声が響いたのだった。



















***


ほの暗い笑みを浮かべるユーヤ様に、コリィが恐怖を感じていると、聞き覚えのある女性の罵声が聞こえた。




「この!!!クソジジイィィィィ~~~ッ!!」






「―――ぬ?ミ、ミレーユッ?!貴様今までどこに!?ぶへぼッ?!」


廊下から助走をつけ、王の顔面に飛び膝蹴りを放ったのは、ミレーユ―――レイテシア王国第一王女である、ミレーユ・ゲーテ・レイテシアであった。


「お姉様?!そ、それにお母様も…!!」


突然の姉の登場にコリィが驚きの声を上げる。

お母様は、飛び膝蹴りによって吹き飛んだ王の側へと向かったようだ。


「あなた?大丈夫?」


王を助け起こしたお母様に、王は返事する。


「お、おう…セイラよ…無事帰ったか…。」


「ええ、ミレーユと共に帰ってきました。」


「そうか…そうか!では共に敵を倒そうぞ!!今がミシェリアの仇を取る時!!」


「…はぁ…。」


拳を握り優也を睨みつける王に、お母様―――王妃、セイラ・ゲーテ・レイテシアはこれ見よがしに溜息を吐いた。


「お母様?もうこの耄碌ジジイは救いようがありません。殺しましょう。」


「ミレーユ。このゴミのような男も、一国の王であり貴方の父親でもあるのですよ?」


突如自分を罵り始めた二人の女性に、唖然とした表情で王は視線を泳がせた。


「あ!それとコリィ!!」


「は、はい?!」


唐突に自分の名前を呼ばれたコリィは、声を裏返しながら返事をする。


「貴方、そこのコーサカユーヤが好きなんでしょう?!」


「え…?えええ?!?!」


いきなり姉に自分の気持を暴露され狼狽するコリィ。


「だったら全てを投げうってでも相手を幸せにしなさいよ!!貴方の気持ちはその程度のものなの?!」


姉のその言葉にコリィは、ハッとした。トモエユーヤを追って姿を消した彼女の真意に気付いたのだ。

姉は恐らくトモエユーヤが好きなのだろう。実の妹を殺されてでも愛せるとはどんな想いなんだろうか…。コリィには想像も出来なかった。

しかし、コリィにも譲れないものがある。自分の気持ちをバカにされたままではいられない。


だから―――。




「お父上ッ!!!」


「?なんだコーリアよ…。お前も我を愚弄するのか?」


「いいえ…私は今ここで宣言致します!!」





大きく息を吸い込んでコリィは、ここに宣言する。







「私は、―――私は!!コーサカユーヤ様と結婚し!!子を授かることを宣言します!!!!!」







コリィの宣言を聞いて、姉―――ミレーユはニヤリと笑い頷いた。




***

















一体全体どうしたことだろう。自分を置いてけぼりにして、いつの間にかコリィさんと結婚して子供を作ることになっていた。何を言っているのか分からないって?うん、俺も分からない。


「そ、そんな宣言無効に決まっているだろう!!」


「いいえ、あなた。私と、ミレーユが証人になりますわ。」


「な、何を言っているのだセイラよ!?」


「クソお父様?これでコーサカユーヤ様は事実上王族の一員とみなされますねクソ野郎。とすれば、王族の生死を左右する判決は全国家の決議によって決められます腐れオヤジ。クソお父様の一存ではコーサカユーヤ様をどうこうできなくなったわけですとりあえず死ね。」


辛辣な物言いで王に言い放つミレーユ。それを聞いてワナワナと震え出す王。


「無効だと言ったら無効だ!!コーリアにそのような意思などないわ!!!」





「いいえ、お父上。―――では、見ていて下さい。」





コリィはそう言い放つと、優也の前へとやって来て言った。


「ユーヤ様…これから私はもう、貴方だけの物です。」





微笑みを浮かべつつ、コリィは優也と唇を重ねた。

その光景を尻目にミレーユを王に問う。





「これでも文句あるわけ?」


「ただの接吻に意味などないわ!!!さっさと殺せッ!!目障りだッ!!何をしている!!兵どもッ!!」


駄々をこね続ける王に、青筋を立てながらミレーユは言う。


「あんたさ…国をなんだと思ってんの?娘の仇?ハッ!バッカじゃないの?!国はテメェの持ち物じゃねえんですよ!!国を潰す気か耄碌オヤジッ!!―――いい加減にしろッ!!」


そう言ってミレーユは思いっきり王の金的を蹴り上げた。ズルズルとその場に蹲る王。…あれはきっと痛い。

優也は顔を少し顰める。周囲の兵も皆同じような表情で顔を歪めている。


意識を失った王が兵によって運ばれていった。王妃はこちらに向けて一礼すると、王に付き添って城内へと向かっていった。






優也が王妃に会釈を返していると、腕の中のコリィが優也を呼んだ。


「ユーヤ様?」


「ん?…何だ?」


コリィに視線を向けると、コリィは優也に向けて満面の笑みを浮かべつつ言った。












「おかえりなさい。―――ユーヤ様。」









優也の帰還を祝福するかのように、夜空に浮かぶ星々が瞬いていた。

コリィのその言葉は、やがて、優しい響きを伴い、静かに夜空へと消える。







―――この日、レイテシア王国に、無能な勇者が帰還し、そして新たな英雄が誕生した。

読んでくださってありがとうございます!


次回から1章の事後処理的な話です。幕間を挟みます。

2章はその後になりますので、お楽しみに^^

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