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二話 理想郷への招待

初作品です。温かい目で見てくだされば幸いです。

休日ということもあり、駅前の通りには多くの人が行き交っていた。


楽しそうに会話する学生たち。

買い物袋を提げた家族連れ。

スマートフォンを片手に歩く若者。


誰もが、それぞれの休日を楽しんでいるように見えた。

そんな人混みの中を、俺は黒いサングラス越しに眺めながら歩いていた。


「……人、多すぎだろ」


つい、本音が漏れる。


「休日ですからね!」


隣を歩く日向が、飛び跳ねるように元気よく答えた。

元気良すぎかな?


「それくらい分かってる」

「じゃあ、そんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃないですか」

「……顔に出てるか?」

「ものすごく」


即答だった。


「サングラスしてるんだけどな……」

「龍太さん、分かりやすいですから」


日向は楽しそうに笑った。

俺は小さくため息をつく。


まったく、どうしてこうも簡単に考えていることが伝わるのだろう。


人付き合いが苦手な俺にとって、他人に感情を読み取られることは、あまり気分のいいものではない。

だが、日向に限っては少し違った。


彼女は俺が不機嫌そうにしていても、無理に機嫌を取ろうとはしない。


かといって、放っておくわけでもない。

ただ、自然に隣を歩いてくれる。

その距離感が、絶妙と言うか、なんというか…


「それにしても、楽しみですね!」


日向が弾んだ声で言った。


「世界初の次世代AI搭載型フルダイブMMORPGですよ! 今までのゲームとは全然違うんですよね?」

「……らしいな」


俺はスマートフォンを取り出し、保存していた公式サイトの画面を開いた。

そこには、壮大なファンタジー世界の映像が映し出されていた。

果てしなく広がる草原。

雪に覆われた山脈。

雲の上に浮かぶ巨大な島。

そして、空を飛ぶドラゴン。


「……ふふっ……」

思わず足が止まる。


「龍太さん?」


日向が振り返った。


「……やっぱり格好いいな」

「ドラゴンですか?」

「ああ!」


画面の中では、巨大な赤いドラゴンが翼を広げていた。

鱗の一枚一枚が、まるで本物のように輝いている。

翼が動くたびに風が巻き起こり、周囲の木々が大きく揺れる。


その姿は、子どもの頃にテレビで見た黒龍を思い起こさせた。


あのとき感じた興奮。

胸の奥が熱くなるような感覚。

何年経っても、忘れることはない。


「……これ、本当に会えるんだよな」

「公式サイトには、世界中に色々なドラゴンが存在するって書いてありましたよ」

「……黒龍も?」

「それは分かりませんけど」

「……そうか」


少し残念だった。


日向はそんな俺を見て、くすくす笑った。


「龍太さん、本当にドラゴンが好きですね」

「……悪いか?」

「いいえ。好きなことを話している龍太さん、楽しそうですから」

「ウッ…そうか?…そう見える…のか?」

「えへへ、見えますよ」


俺はスマートフォンをポケットにしまった。

こういうことを真っ直ぐ言われると、どう返していいか分からない。


「……ほら、行くぞ」

「はい!」


日向が嬉しそうに隣へ並ぶ。

俺たちは駅前の商業施設へ向かった。

目的のゲームショップは、駅前の大型商業施設の三階にあった。


店の名前は、ゲームズ・フロンティア。

最新ゲームから昔の名作まで幅広く取り扱う、地域でも有名な大型ゲーム専門店だ。

エスカレーターを上がり、三階の通路へ出る。

すると、遠くからでも分かるほど大きな看板が目に入った。


『GAME'S FRONTIER』

青白い光を放つ立体文字。

その下には、巨大なデジタルスクリーンが設置されていた。


画面には、発売されたばかりの『アヴァロン〜理想郷を求めて〜』の宣伝映像が流れている。


「……でけぇな」


俺は思わず呟いた。

店舗の入り口は、まるで近未来の宇宙船の格納庫のような造りだった。


銀色の金属を模した壁。

青い光が走る床。

透明なガラス扉には、ゲームのキャラクターたちが立体映像として映し出されている。

剣を構える騎士。

杖を掲げる魔法使い。

巨大な斧を担いだ獣人。

そして、その背後には一頭のドラゴン。


「……おお」


俺は無意識に足を止めた。

ドラゴンの立体映像が、ゆっくりと翼を広げる。

まるで、今にもこちらへ飛び出してきそうだった。


「龍太さん、すごいですね!」


日向が目を輝かせる。


「あ、ああ……」


俺はサングラス越しに、その映像を見つめた。

正直に言えば、ここまで期待していなかった。


ゲームショップなんて、ただゲームを売っている場所だと思っていた。


だが、この店は違う。

入る前から、まるで別世界へ招かれているような気分になる。


「……最近のゲーム屋って、こんななのか」

「龍太さん、あまり外に出ませんもんね」

「……必要ないからな」

「でも、今日は来てよかったでしょう?」


俺は少し考えた。

目の前では、ドラゴンが大きく口を開け、青白い炎を吐く演出が流れている。


「……まあ、悪くない」


日向は満足そうに笑った。


「ふふっ。龍太さんの『悪くない』は、すごく気に入ったって意味ですよね」

「……よく分かるな」

「違いますか?」

「…………」


否定できなかった。

俺は再びスクリーンを見上げた。

そこには、大きな文字が浮かび上がっていた。

『あなたの選択が、世界を変える。』

その言葉に、なぜか胸が高鳴った。


選択。

世界。

自由。


どれも、俺が昔から憧れていたものだった。


「……面白そうじゃねぇか」


自然と口元が緩む。

日向が隣で嬉しそうに笑った。


「じゃあ、入りましょう!」


彼女に促され、俺たちは店内へ足を踏み入れた。


「……マジかよ」


店に入った瞬間、思わず声が漏れた。

広い。

想像していた以上に広い。

天井は高く、店内にはいくつもの売り場が整然と並んでいた。


壁一面には大型ディスプレイが設置され、最新ゲームの映像が流れている。

天井から吊るされた案内板には、各コーナーの名前が表示されていた。


『家庭用ゲーム』

『レトロゲーム』

『VR関連機器』

『ゲーム周辺機器』

『キャラクターグッズ』

『新作・予約商品』


「……すげぇな」

俺は思わず周囲を見渡した。


普段は通販でゲームを購入することが多い。

わざわざ店まで足を運ぶ必要がないからだ。

だが、こうして実物が並んでいる光景を見ると、少しだけ気分が高揚する。


「龍太さん、せっかくですし、色々見ていきませんか?」


日向が提案した。


「……アヴァロンを買うんじゃなかったのか?」

「もちろん買いますよ。でも、まだ時間もありますし!」


俺は時計を確認した。

午前十時二十分。

まだまだ、午前だ…俺の中に流行る気持ちがあるが…


「……まあ、いいか」

「やった!」


日向は嬉しそうに歩き始めた。

まず向かったのは、家庭用ゲームのコーナーだった。

棚には、色とりどりのパッケージが並んでいる。

アクション。

RPG。

シミュレーション。

ホラー。

パズル。

どれも見慣れたジャンルだが、知らない作品も多かった。


「龍太さん、これ知ってます?」


日向が一本のゲームを手に取った。

パッケージには、巨大なロボットが描かれている。


「……ああ。前作はやった」

「面白かったですか?」

「……まあまあ」

「それ、どのくらい面白いんですか?」

「……十点満点で七点くらい」

「結構高いですね!」

「戦闘は面白かった。ただ、ストーリーが少しな」


俺はパッケージを眺めながら説明した。


「主人公の行動に幅がない。選択肢が多そうに見えて、結局、同じ結末に進むんだよ。マルチエンディングってわけでもないしな」

「なるほど……」

「あと、装備の種類が少ない。せっかく素材を集めるなら、もっと色々作れるようにしてほしかった」


気づけば、少し熱く語っていた。

日向は黙って聞いている。


「……あ」


俺は途中で口を閉じた。

またやってしまった。

好きなことになると、つい話しすぎる。

普段はまともに会話もできないくせに、こういうときだけ饒舌になる。

自分でも面倒な性格だと思う。


「……悪い」

「え?」

「……また、自分の世界に入ってたかなってな」


日向はきょとんとした。

そして、優しく笑った。


「全然いいですよ。私、龍太さんのゲームの話を聞くの好きですから」

「…………」


また、それだ。

この子はどうして、そんなことを平然と言えるのだろう。

優しい性格が故になのだろうけどな。

なんとなく気恥ずかしくなってしまい俺は


「……そうか」


それだけ答え、俺は棚へ視線を戻した。

次に向かったのは、レトロゲームのコーナーだった。

古いゲーム機。

懐かしいパッケージ。

昔ながらのドット絵。

最新のゲームとは違う魅力があった。


「わあ、これ懐かしい!」


日向が小さな携帯ゲーム機を指さした。


「私、小さい頃これで遊んでました!」

「……へぇ」

「龍太さんは?」

「……あんまり持ってなかったな」


日向が少しだけ表情を曇らせた。

俺はすぐに気づいた。

しまった。

余計なことを言ったかもしれない。

日向は、俺の過去をある程度知っている。

親戚の家で虐待を受けていたことも。

十八歳で家を出たことも。

だから、昔の話になると気を遣わせてしまうことがある。


「……まあ、テレビは見てたからな」


俺は何でもないように続けた。


「ゲームより、アニメの方が詳しいかもしれん」

「そうなんですね!」


日向の表情が明るくなる。


「じゃあ、今度おすすめのアニメ教えてください!」

「……ドラゴンが出るやつばっかりだぞ」

「ふふっ、龍太さんらしいですね」


その笑顔に、少しだけ安心した。

次に向かったのは、VR関連機器のコーナーだった。

ここは、他の売り場とは雰囲気がまったく違っていた。

白と銀色を基調とした展示台。

透明なケースの中には、最新型のフルダイブ機器が並んでいる。


従来のVRゴーグルとは異なり、現在主流になりつつあるのは、ベッドセット型のフルダイブ機器だった。

専用の寝台に横たわり、頭部に接続された神経感応ユニットを通じて仮想世界へ意識を接続する。


もちろん、実際に意識が身体から抜けるわけではない。

脳の感覚情報を高度なAIが処理し、視覚、聴覚、触覚などを仮想空間に再現する仕組みだ。


……と、公式の説明には書かれていた。

正直、技術的なことはよく分からない。

だが、一つだけ理解している。

寝ながらゲームができる。

素晴らしい。

実に素晴らしい。


「……これを考えた奴は天才だな」


俺は展示されている機械を見つめながら呟いた。

日向が首を傾げる。


「どうしてですか?」

「……寝ながらゲームできるから」

「そこですか!?」

「重要だろ」

「確かに楽そうですけど……」


日向は苦笑した。

展示台には、俺が自宅で使っているものと同じシリーズの機械が置かれていた。

黒いフレーム。

身体を包み込むような寝台。

頭部を覆う半球状のユニット。

かなり奮発して購入したものだ。

正直、安い買い物ではなかった。

だが、日々の生活費を節約し、少しずつ貯めた金で手に入れた。

自分のために、ここまで高価なものを買ったのは初めてだった。


「龍太さんの家にあるの、これですよね?」

「ああ」

「いいなぁ。私のより新しいモデルです」

「……性能は大して変わらんぞ」

「でも、黒くて格好いいですよね」

「……だろ」


思わず即答してしまった。

日向が笑う。


「やっぱり黒が好きなんですね」

「黒は何にでも合うからな」

「ふふっ、何ですかそれ」


俺は展示機の前で腕を組んだ。

ドラゴンが登場する仮想世界。

……最高じゃないか。


「……早く帰って遊びてぇ」

「まだ買ってませんよ!」


日向の突っ込みに、俺は小さく笑った。

周辺機器のコーナーには、ゲーム用のコントローラーや音響機器、専用アクセサリーが並んでいた。

その隣には、キャラクターグッズの売り場があった。

ぬいぐるみ。

フィギュア。

キーホルダー。

ポスター。

そして、ドラゴンの模型。


「…………」


俺の足が止まった。

黒いドラゴンのフィギュア。

細かく再現された鱗。

大きく広げられた翼。

鋭い牙。


「……格好いい」


思わず呟く。

値札を見る。

二万八千円。


「…………」


高い。

たかがフィギュアに…

いや、造形を考えれば妥当なのかもしれない。

だが、二万八千円。

ゲーム一本どころではない。


「龍太さん、欲しいんですか?」

日向が隣から覗き込んだ。


「……いや」

「でも、ずっと見てますよ?」

「……見てるだけだ」

「買わないんですか?」

「……高い」


日向は値札を見て、目を丸くした。


「わっ、本当ですね!」

「……だろ」


俺は名残惜しくフィギュアを見つめた。

いつか。

金に余裕ができたら。

そのときは買ってもいいかもしれない。

もっとも、今の生活では、そんな余裕がいつできるのか分からないが。


「……行くか」

「はい!」


俺たちはようやく、新作ゲームのコーナーへ向かった。

新作コーナーは、店内でも特に賑わっていた。

多くの客が集まり、壁一面の大型スクリーンには『アヴァロン』の宣伝映像が流れている。

中央には、巨大な特設展示台。

その上に、何十本ものゲームパッケージが整然と並べられていた。


「……おお」


俺は思わず声を漏らした。

日向も目を輝かせる。


「龍太さん! ありましたよ!」

「……ああ」


目の前にあるのは、ずっと楽しみにしていたゲーム。

『アヴァロン〜理想郷を求めて〜』

パッケージには、壮大なファンタジー世界が描かれていた。


中央には、白銀の城。

その周囲には、広大な森や山脈。

空には浮遊する島々。

そして、遥か上空には巨大なドラゴンの影。


「……やっぱり、いいな」


俺はパッケージを手に取った。

表面には、銀色に輝くタイトルが刻まれている。

光の角度によって文字が変化し、まるで本物の魔法陣のように浮かび上がって見えた。


「龍太さん、裏も見てください!」


日向に促され、パッケージを裏返す。

そこには、大きな文字が書かれていた。

『あなたの物語は、あなた自身が創り出す。』

その下には、ゲームの特徴が説明されていた。

本作では、すべてのプレイヤーに専属のサポートAIが生成されます。

サポートAIはプレイヤーの性格、行動、選択、経験を学習し、一人ひとりに最適化された冒険を提供します。

固定された職業という概念に縛られることなく、プレイヤーの行動や成長に応じて、オリジナルの職業が自動生成されます。


さらに、プレイヤーの選択や行動によって、専用のクエストが生まれます。

何気ない会話。小さな発見。偶然の出会い。

その一つひとつが、新しい体験へとつながっていきます。

同じ世界に生きていても、同じ物語を歩む者はいません。

あなたの選択が、あなた自身の理想郷を形作るのです。


「…………」


俺はしばらく、その文章を見つめていた。

行動一つひとつが、新しい体験になる。


「……すげえ」


思わず声が漏れた。

日向が嬉しそうに笑う。


「すごいですよね!」

「ああ……」


俺はもう一度、説明文を読み返した。

普通のゲームなら、最初に職業を選ぶ。

戦士。

魔法使い。

盗賊。

僧侶。

決められた選択肢の中から、自分に合ったものを選ぶ。

だが、このゲームは違うらしい。

プレイヤーの行動によって、職業そのものが生まれる。

つまり。


「……ドラゴン専門の職業とかも、作れるのか?」


俺は小さく呟いた。

日向が首を傾げる。


「ドラゴン専門?」

「ああ。例えば、ドラゴンの素材で装備を作ったり、ドラゴンを研究したり、もしかしたらドラゴンそのものにになんてな……」


言いながら、頭の中に次々と想像が浮かんでくる。

龍の鱗を加工した鎧。

龍の牙から作る剣。

龍の魔力を宿した装飾品。

ドラゴンの生態を研究し、その力を装備へと変える。


「……面白そうだな」


自然と笑みがこぼれた。

日向はそんな俺を見て、嬉しそうに微笑んだ。


「龍太さん、もうやりたいこと決まってるんですね」

「……まあな」

「私はどうしようかなぁ」


日向はパッケージを見つめながら考え込んだ。

「回復魔法とか、使ってみたいです」

「……日向らしいな」

「そうですか?」

「ああ。面倒見いいし」


日向は少し驚いた顔をした。

そして、頬を赤くした。


「……ありがとうございます」

「…………」

しまった。

何か変なことを言っただろうか。

俺は少しだけ視線を逸らした。

日向も照れくさそうに笑っている。

妙な沈黙が流れた。

その空気を誤魔化すように、俺はパッケージを持ち直した。


「……買うか」

「はい!」


日向も自分の分を手に取った。

二人でレジへ向かう。

店内には、相変わらず多くの客がいた。

みんな、これから始まる新しい冒険に期待しているのだろう。

俺も同じだった。

普段なら、人混みの中にいるだけで疲れてしまう。

だが、今は不思議と気にならなかった。

頭の中は、これから始まるゲームのことでいっぱいだったからだ。


会計を済ませ、店を出る。

手には、『アヴァロン』の入った袋。

日向も同じ袋を大切そうに抱えていた。


「買えましたね!」

「ああ」

「早く帰って遊びましょう!」

「……珍しく意見が合うな」

「いつも合ってますよ?」

「……そうか?」

「そうですよ!」


日向は楽しそうに笑った。

俺も少しだけ口元を緩める。

帰り道。

日向はずっと、ゲームの話をしていた。

どんな景色が広がっているのか。

どんな人たちと出会えるのか。

どんな職業が生まれるのか。

そして、どんな冒険が待っているのか。

俺は時々相槌を打ちながら、頭の中で自分だけのドラゴンを想像していた。


もし、本当に自由な職業が作れるなら。

俺は、ドラゴンに関わる何かをやってみたい。

戦うだけではない。

育てる。

研究する。

装備を作る。

あるいは、ドラゴンと共に旅をする。


「……いいな」


思わず呟く。

日向がこちらを見た。


「何がですか?」

「……いや、ゲームのこと」

「ふふっ、楽しみですね」

「ああ」


俺は素直に頷いた。

こんなに何かを楽しみにしたのは、いつ以来だろう。

少なくとも、ここ数年では記憶にない。

仕事をして、食べて、寝る。

そんな生活を繰り返してきた俺にとって、久しぶりに心が動いた瞬間だった。

アパートに戻った頃には、昼を少し過ぎていた。


「ただいま……」


誰もいない部屋に向かって呟く。

もちろん、返事はない。

ここは俺だけの空間なのだから。

玄関で靴を脱ぎ、買ってきたゲームを机の上に置く。


「…………」


俺はしばらくパッケージを見つめた。

ついに買ってしまった。

ずっと楽しみにしていた、新しい世界への入り口。


「……よし」


まずは腹ごしらえだ。

冷蔵庫を開け、卵を取り出す。

炊飯器には、昨夜のご飯が残っていた。

器に盛り、卵を割る。

醤油を少し。

軽く混ぜて、ご飯にかける。


「…クックック…完璧だ」


一口食べる。

うまい。

やはり卵かけご飯は最高だ。

食べながら、ゲームのパッケージを眺める。

そこに描かれたドラゴンの影。

広大な世界。

自由な冒険。


「……早くやりてぇな」


いつもなら、食事のあとに昼寝をするところだ。

だが、今日は違う。

食べ終わると、すぐに食器を洗った。


そして、部屋の奥に置かれた大きな機械へ向かう。

ベッドセット型フルダイブシステム。

黒いフレームに覆われた、近未来的な造形。

俺がこれまでの給料を少しずつ貯めて購入した、高価なゲーム機だ。


「……頼むぞ」


俺は機械の側面にあるカバーを開いた。

中には、専用のゲームカセットを挿入するスロットがある。

買ってきたパッケージを開封する。

中に入っていたのは、小さな黒いカセットだった。

表面には、銀色の文字で『AVALON』と刻まれている。


「……格好いいじゃないか」


思わず笑みがこぼれた。

カセットを手に取り、スロットへ近づける。

カチッ。

小さな音とともに、カセットが収まった。

次の瞬間。

――ヴゥン……。

機械の内部から、低い起動音が響いた。

黒いフレームに沿って、青白い光が走る。

寝台の側面にあるディスプレイが点灯した。

『ゲームカセットを認識しました。』

『AVALON〜理想郷を求めて〜』

『システムを起動します。』


「…………」


俺は思わず息を呑んだ。

胸の奥が、少しずつ高鳴っていく。

これから、どんな世界が待っているのだろう。

どんな冒険が始まるのだろう。

そして。

俺は、あの黒龍のような存在に出会えるのだろうか。


「くっ……マジかよ」


自然と笑みがこぼれた。

いつもの退屈な日常。

仕事をして、食べて、寝るだけの毎日。

そんな生活に、今日から一つ、新しい楽しみが加わる。

俺はベッドセット型の機械を見つめた。

青白い光が、静かに点滅している。

まるで、新しい世界が俺を招いているようだった。


「……さて」


俺は小さく息を吐いた。


「始めるか」


そして、起動ボタンへ手を伸ばした。

――ピッ。

『ようこそ、アヴァロンへ。』

その文字が、ディスプレイに浮かび上がった。


――第二章「理想郷への招待」完。


次章「未知なる世界へ」――アヴァロンへ接続した龍太を待っていたのは、専属サポートAIとの出会い。そして、自分だけのアバターを作り出す、最初の選択だった。新たなる世界へflying GET

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