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『報酬:金貨』を狙ったはずが『報酬:一生の愛』ばかり来るんですけど!?   作者: 夜凪灯
プロローグ

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1/9

プロローグ

 その日、カナミは追いつめられていた。


 廊下の突き当たり。

 後ろは壁で、逃げ道なし。

 そして目の前には、三人の女子。


「……ええと。みなさん、ちょっと落ち着きませんか?」


 カナミは引きつった笑みを浮かべながら、一歩、後ずさった。けれど、すぐに背中が壁に当たって、それ以上は下がれない。


 まず正面に立っているのは、気の強そうな美人だった。腕を組んで、じっとこちらを睨んでいる。怒っているようにも見えるが、頬が少し赤くて、妙に怖い。


 その隣には、にこにこと柔らかく微笑むお嬢様っぽい少女。見た目は穏やかなのに、一番逃がしてくれなさそうな目をしていた。


 そしてもう一人。

 楽しそうに口元を緩めた、からかうのが好きそうな女の子。今も面白がるように、じっとカナミを見ている。


 どうしてこうなった。

 本当に、心の底からそう思う。


 カナミはただ、少しばかり要領よく生きていただけだ。

 困っている相手に手を貸して、必要な言葉をかけて、うまく立ち回って、そのぶんの見返りをもらう。

 綺麗事だけで生きていけるほど、この世界は優しくないのだから、それくらい当然だろう。


 なのに……


「何か言いたいことは?」

「あります、ありますとも!」


 即答してから、カナミは咳払いした。


「まず最初に言っておきますけど、みなさんが考えてるようなことじゃないです。たぶん誤解です」


「誤解?」

「はい。大変な誤解です」


 三人の視線がいっせいに集まる。

 ものすごく居心地が悪い。


 だいたい、そんなふうに見つめられる理由がわからない。

 いや、少しはわかる。少しはわかるけれど、認めたら負けな気がするので、できれば気づかなかったことにしたい。


「私、別に変なことした覚えないんですよね」

「へえ」

「夜遅くまで付き添ったり?」

「困ってたからです」

「やたら優しくしたり?」

「必要だったので」

「思わせぶりなことを言ったり?」

「言ってません」


 三人とも、まるで示し合わせたみたいに黙った。

 その沈黙が痛い。そんな目で見ないでほしい。


 カナミは視線を逸らしながら、心の中で言い訳を並べていた。

 仕方なかったのだ。全部、ちゃんと理由があった。


 それに、カナミが欲しかったのは別にこんなものじゃない。


 欲しかったのは、もっと単純なものだ。

 金貨とか、生活の安定とか、ちゃんと明日を生きるための、現実的で役に立つもの。


 それなのに、どうしてみんなこうなるのだろう。

 気の強そうな彼女が、一歩だけ近づいてくる。


「じゃあ聞くけど。あんた、私たちにしたこと、全部なんとも思ってないわけ?」

「え、いや、それは……なんとも思ってないわけじゃなくてですね」

「私は嬉しかったですわ」


 柔らかい声で、お嬢様みたいな少女が言う。

 その言葉は穏やかだが、逃げ道を塞ぐみたいにまっすぐだった。


「ですから、きちんとお返ししたいと思っていますの」

「お返し……」


 嫌な予感しかしない単語だった。

 からかうような笑みを浮かべた女の子が、くすりと笑う。


「カナミってさあ、自分がどれだけ期待させるか、ほんと分かってないよね」

「期待って」


 もうだめだ、とカナミは思った。

 何を言っても墓穴を掘る流れになっている。


 三人とも、本気なのか冗談なのかわからない顔をしている。けれど、その目だけは妙に熱っぽくて、冗談で済ませてくれそうにはなかった。


 カナミは恐る恐る口を開く。


「……ちなみに、みなさんは私に何を求めてるんです?」


 すると、三人は一瞬だけ顔を見合わせた。

 最初に答えたのは、腕を組んだままの彼女だった。


「責任……かな」


 次に、お嬢様みたいな少女が微笑む。


「ちゃんとしたお返事を」


 最後に、楽しそうな女の子が肩をすくめた。


「逃げないって約束?」


 それと同時に、カナミの視界の端で、見慣れた文字がちらついた。


【期待値:上昇】

【獲得可能報酬:——】

【報酬受取条件:受諾】


 カナミは心の中で天を仰いだ。


「ええと……少し考える時間をいただく、とかは」

「だめ」

「だめですわ」

「なし」


 ぴしゃりと返されて、カナミは黙り込んだ。


 窓の外から差し込む夕陽が、廊下をやわらかく照らしている。

 金色の光だった。


 ——本当なら、こういう金色を追いかけていたはずなのに。


 カナミは引きつった笑みのまま、そっと息を吐く。


 金貨が欲しかっただけだ。

 ただ、それだけだった。


 なのに彼女のもとには、金貨より重たくて、扱いに困るものばかり集まってくる。

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