第43話 仲間というより保護者の加入
「ご愁傷様」
「まじで、なんなんだよあのワーム……」
結局あの日は打開策を見いだせず、俺たちはダンジョンから逃げ帰ることになった。
受付さんと管理人さんに、いつも通りとなる簡単な報告をすると、休憩所の探索者たちが驚いているようだった。
もしかして、あの連中もあの黒いワームと戦ったことがあるのかもしれない。
「でも、急にそれだけの強さの魔獣が出たとなると、例の死亡事件はそいつのしわざかもしれないね」
「あとはボスくらいだろうけど、そうか……あれ以上のを相手にしないとダンジョンを踏破できないんだな」
まじかよ。【中級】になっていきなり難度が上がりすぎだろ。
だいたいなんだよあのワーム。生き物なんだから、金属みたいな音で爪や剣を弾くなよ。
「あいつの死体ドワーフに渡して武器や防具にしてやる……」
「その前に経験値と宝箱に変換されるだろうね」
「珍しいわね。善がそこまで捨て鉢になるなんて」
「揉む?」
しかたがない。だって今までは、こんなにもどうにもならない相手とは出会ってなかったんだから。
紫杏に頼らずに、自分だけでなんとかできたので、探索者として前進できていたのだ。
だけど、あのワームは今のままでは倒せる気がしない。
あと、ここでは揉まない。夜に揉む。
「おっけ~!」
紫杏には伝わってしまったらしく、嬉しそうに了承された。
「一言も言葉を発していないはずなのに、なんで言いたいことわかるの?」
「サキュバス的愛の力だよ!」
「シェリルじゃないんだから、いちいち自分の種族名を頭につけるのやめなさい」
紫杏ならあの黒いワーム倒せるか? 倒せそうだけど、それで前に進んだところで、一緒に異世界に行く資格を得られないしな。
なら、【感度強化】だけ使ってもらうのはどうだろう。
……無理そうだな。斬撃で一応体にほんのわずかに傷はついたが、痛がる素振りなんてまるでしなかった。
「斬撃だけは、一応ほんの少しは意味があったはずなんだよな」
あれを効いているとは言えないけど、わずかとはいえ体に傷はついていた。
なら、斬撃を繰り返して倒せるかというと……無理だろあんなの。
「ああ、もう~わからん! 魔法か? 魔法攻撃なら効くのか?」
助けて魔法のエキスパート。俺は大地と夢子を見つめた。
「あの傷の中に毒とか炎突っ込んでくれよ。あんなやつは、えぐい方法でやられてしまえばいいんだ」
「人のことなんだと思ってるのさ」
「でも、中から焼くのはありじゃない?」
ここらでいったん魔法のスキルレベルを上げてみるか?
俺は紫杏に頭をなでられながら机に伏すが、答えを見つけることはできなかった。
「重症だね……でも、無理はいけないよ」
「聞こえてないみたいね」
「……」
◇
「先生の考えた戦法はきっと正しいです。あれは多分鎧だと思うので」
合流したシェリルも黒いワームについて考えてくれていたらしく、そんなことを言った。
「鎧……? たしかに、生物というよりは金属っぽいなと思ったけど」
「ええ、現に先生が鎧を斬ってくれたときに、その隙間からいつものワームの臭い匂いがしましたから」
金属の匂いかと思って油断していたら、急に臭い匂いが香ってきて最悪でしたとシェリルは笑う。
つまり、あれだけ頑丈だったのは本体に攻撃が届いていないからってことか?
もしかして、本当に中から焼くのが正解なのでは……。
「夢子! 夢子が必要だ!」
「ええっ!? し、親友に彼氏をとられそうになってる!」
「違う! 大地でもいけそうだ!」
「どっちもいけるの!? でも、結局親友にとられそうな状況からは、変わってないんだけど!」
ああ、今すぐに試したい。
俺の【魔術:初級】程度じゃ、どうせ本体に攻撃でしても効かないだろうしなあ。
斬撃を鎧の隙間に飛ばせるような技術は、残念ながら剣術の範疇外みたいだし、近づいて普通に刺すか?
いや、鎧だけじゃないよな。あのスピードを見るに攻撃力や耐久力だって、きちんと上がっていると見た方がいい。
シェリルのような身のこなしができないのなら、不用意に近づいたところで危険なだけだ。
「ちょっと、往来の場で変なこと叫ばないでくれる?」
「紫杏の発言からしたら、僕たちよりも善だけは両刀ってことになるね。一番ひどい風評被害なんじゃない?」
もっともだ。うちの紫杏がすまなかった……。
「あれ、俺たちを助けにきてくれたのか?」
「いや、さすがに叫んだ数秒後にかけつけるのは無理よ」
「むしろ、ちょっと助けてもらおうと思って」
なんだろう珍しいな。
二人ともマイペースにダンジョンを探索していたはずなのに、急に俺たちの力が必要だなんて。
「よくわかんないけど、別にいいぞ」
「せめて、内容を聞いてから承諾しなよ」
「危なっかしいわねえ……」
だって、二人が俺を困らせるようなお願いするとは思えないからな。
紫杏も当然ながら、二人に協力するつもりのようだ。
「げぇっ……な、なんですか。今日はお説教されるようなことしてませんよ」
「珍しいこともあるものだね。人狼って説教されるのが趣味なのかと思ってたよ」
「そんなわけないじゃないですか! この腹黒! ショタ! 陰険! あうっ!! お、お腹が……」
こりないなあ……。
腹部を押さえながらその場にうずくまるシェリルに同情してしまう。
というか、外でお腹くだすのはつらいよな……。
「あの、大地。さすがに外では勘弁してやってくれ」
「………………しょうがないなあ」
「なにするんですか! 人狼の尊厳がたれ流しになる寸前でしたよ!?」
一応解除したらすぐに調子が戻るんだな。
てっきり、人狼の尊厳を一度処理しないと、大惨事になるのかと思っていた。
「いずれうちのパーティに加入してもらうんだから、仲良くしてくれよ……」
「ううっ……先生に免じて許してあげます!」
「うんうん。偉いねえ、シェリルは」
「ですがっ! 私のほうが先輩なので、私の言うことは聞いてもらいます!」
「うんうん。ちょっと反省が必要かなあ、シェリルは」
結局、シェリルは紫杏の言葉に恐れをなし、大地と夢子の話をようやく聞くことができるようになった。
……やっぱり、単純な力の前にひれ伏すようになっているんだな。獣人だけでなく人狼も。
「それで、二人をどう助ければいいんだ?」
「僕たち二人でボスインプを倒そうと思うんだけど、魔力を温存したいからボス部屋まで連れて行ってくれない?」
「ということは……二人も【中級】に昇格するつもりなのか」
「できるかはわからないけどね。なるべく急いで昇格するつもりだよ」
それはいいんだけど、やっぱりいつもの二人らしくないな。
慎重派な二人なので、もっとスキルを鍛えたり、レベルを上げて、万全の状態で昇格するのかと思っていたのに。
「大量に死者が出たダンジョンに潜り続けて、その原因らしき魔獣と会ったのに戦おうとする友人がいるからね。さっさと合流しないと危なっかしくて見てられない」
「あんたたち三人とも、どんどん前に進むタイプだからね。私と大地もさっさとパーティに入って、場合によってはあんたたちを止めるべきって話し合ったの」
たしかに、俺は基本的には急いで異世界に行きたい。
紫杏は俺の行動をほとんど肯定してくれる。
シェリルは俺以上に前へ前へと進みたがるタイプだ。
うん……このパーティ、ストッパーみたいな人いないな。
「悪いけど、二人が加入してくれるならすごく助かる」
「ということで、インプダンジョンを手伝ってもらえる? ボスは僕と夢子だけでなんとかしてみるから」
なんとか活路が見えた気がする。
そしてなによりも、大地と夢子がようやくパーティに加入してくれる気になったのは非常に喜ばしいことだ。
ワームめ。絶対倒してやるから待ってろよ。
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