6.怖れ
予想外の反応に、医務室二人の目がミュゼットへと向けられる。困惑、或いは驚き。恐らくそんな感情が込められていたのだろう。ミュゼットは自らの失敗を悟ったように、ぱっと口元に手をやった。
「――っ! ご、ごごごめんなさい、わたし……!」
顔を青くし、じり、と後ずさる。見覚えのある反応に、ニコは悪いことをしたなという気持ちになった。
(……、ええと、ひとまず落ち着いて頂くには……)
――大丈夫ですよ。
まずその一言が大事だろう。
だが、それで場が収まる気が全くしない。むしろ声を掛けない方が良い気さえするのだ。
とはいえ、この空気を放っておくのも問題が、などと考えあぐねる間にも、彼女は震えながら後退していく。
明らかに周囲が見えていない。
その様子に、イアンがちょっと、と声を掛けた。
「あなた、落ち着きなさい。でないと後ろ――」
「わ、わたし、本当に知らなくて……っ、許して下さい……!」
すみませんっ、と叫びながら身を翻したその瞬間。ミュゼットの体ががつっと棚にぶつかって、並べられた薬の瓶がぐらりと揺れた。
(あ、――)
つい、腰を浮かせて手を伸ばす。だがたったの一歩で届くような距離ではなく。
がしゃんと音がして、床に硝子の破片が飛び散った。
「ひ――」
砕けた瓶と零れた液体。それを目にした彼女の顔が、みるみるうちに絶望へと染まる。
「ごっ――、ごめんなさいっ、ごめんなさいごめんなさい……っ」
「ちょっ、素手で触っちゃ」
「! 痛っ――」
ルーチェの制止も間に合わず、ミュゼットが摘まんだ破片を取り落とす。遅れてその指先に、ぷくりと赤い血が膨らんだ。
「あちゃー、やっちゃった」
「もっ、申し訳……!」
「あのね、謝罪はもういいから。とにかくちょっとこっちへ来なさい。ルゥ、片付けは任せたわよ」
「りょーかいです」
イアンがミュゼットを押しやって、隣の区画へ姿を消した。軽い調子で返したルーチェは掃除道具を取りに行き、散った破片の処理を始める。
ニコは待機となったわけだが、五年も世話になっている馴染みの場所だ。人が動いているのに、何もしないのも落ち着かず。
「私も、お手伝い致します」
割れたのは水薬の入ったものだ。僅かに粘性があり、匂いが強い。浄化魔法を使えば早く処理出来るだろう。
「ルゥ、良ければその辺りに――」
声をかけながら水溜まりへと近づいたとき、視界の端で茶色のふわふわがびくっと揺れた。
「……と思いましたが、ややこしいお薬だと良くないですし、やはり向こうで待っていますね」
もっともらしい理由を口にして、もと居た領域へ引き下がる。多少、不自然だったかもしれない。だが、彼女が落ち着いて治療を受けられるのなら、それに越したことはない。
そう、一人納得していた時だ。
不意に、赤毛の少女が掃除道具を手放した。
展開的に早く駆け抜けたい……!
と思っていますが、あと何話か医務室でぐずぐずしています。
すみません(T^T)




