2.説得力のある肉体
「にしても、よく無事だったわね?」
「……その……、私が、距離を取りすぎて」
メルの屋敷に荷物を取りに戻った頃は、まだ触れることができる程だった。だがそこから家へと向かう帰り道、師匠に噛んだ頬の治療をされた。かつてない方法をとったそれは非常に長く、しかも何故か上衣の前が全開になっていた。
(ほ、本当に何故、というかいつの間に)
知らぬ間に起きた怪現象も相まって、治療だと思ってみても上手くいかない。家の中でも師匠の視界にいると思うだけで、湯気が出そうなほど熱くなり、何も考えられなくなってしまう。だから柱の影や家具の後ろに潜んで過ごそうとし、彼には呆れたように笑われた。
――余所の家に連れてこられた猫みたいだな。
そう言って壁に懐くニコを捕まえ、大丈夫だと背を撫でる。そして何もしないと約束し、再び釦を外して魔法の印を書き換えた。
(た、ため息は深かったですが……)
今までそんなことはなかったのに、彼の指の動きがむず痒い。しかも軌跡が膨らみの上を通った時は、ぞわりとした感覚が湧き上がり、つい体が震えてしまった。幸い印が狂うことはなかったが、描き終えた後、彼はニコを遠ざけ深い、深い溜め息を吐いていた。
絶対に、何かを我慢させた。でも我慢してくれないと、ニコは大変なことになってしまう。けれどそれを、嫌というのはまた違う、と思う。だから。
「き、今日も、待ってと、お願いすれば……」
まだ許してもらえるだろうか。伺うように見上げたニコに、イアンは天を仰いで軽く呻いた。
「……ならせめて、その顔だけは止めなさい」
「か、かお?」
首を傾げたニコに向かって身を屈め、イアンは紅い瞳で湖水を射抜いた。
「恥ずかしそうにお預けされると、食らい尽くしたくなるものよ」
「……」
ごくりと唾を飲み込むニコの目の前で、作り物の胸がぽよんと揺れた。
流石、素の肉体構造は師匠と同じなだけある。低い地声で告げた『彼』の言葉は、説得力に溢れていた。
ご訪問感謝です。
次は、えぇと……
に、二月中に一度は現れますね……!




