8.許しを請わねば済まぬこと
「ふふっ、本当に仲がよろしいですわねぇ」
――ね、お二人とも。そう呼び掛けられ、ニコは肩を跳ねさせた。
(っ、いつの間に……)
抱えていたものを離して振り向けば、そこには屋敷の主人、メルが笑みを浮かべて立っていた。
可笑しそうに見上げる碧玉に、慌てて床へ降りようとする。
だが、師匠の腕は弟子の身をしっかり捕らえて離さなかった。
「……お、おはようございます」
已む無く上から頭を下げれば、メルはくすくすと笑いながら挨拶を返してきた。
「今日も抱えてもらっているのね?」
「お、お師匠様が勝手に」
好きで抱えられている訳ではない。
ちら、と視線を流せば気づいた師匠がニコを見上げて緩く微笑む。
思い切り、顔を背けて俯いた。
「まぁ……。何があったのかとても気になる反応ですわ」
「そうだろう。こんな顔で逃げられたら他の事なんてどうでもよくなる。一体何があったんだか……。詳しく知りたいところだが――こいつは何も言わないしな」
だんまりを決め込む弟子を示し、これじゃまともに話すことも出来ないな、と師匠が上機嫌に不満を語った。
「あら? お義兄様はご存じない?」
「俺の記憶にあるのは夜だけだ。あれを覚えているにしては……、まぁ……という訳だ」
どういうわけだ。
曖昧にした内容がとても気になる。
「心当たりは寝起きだが、半覚醒だと無意識だからな」
「相変わらずですのねぇ」
呆れたような義妹の声に、師匠がまぁなと胸を張る。
そこは偉そうにすることではない。
一々突っ込みたくなるものの、声を出すと今度はニコが抉られる。
「尋問を続けるのでしたら、朝食はお部屋に運ばせましょうか」
「そうだな……」
師匠が悩む。ニコはぶんぶん、と首を振った。
「折角の妹の気遣いだしな」
ぶんぶんぶん、と首を振った。
だが弟子の必死な姿など目に入らないようで、兄妹はにこにことしながら話を進める。
このままでは先程の二の舞になる、そう感じたニコは師匠の肩を押し返すのを諦めて――。
「……ゆ、許して、ください……」
小さく彼の耳に囁いた。
ぴくり、と厚みのある肩が僅かに揺れる。
「――長くかかると出掛けるのが遅くなるからな。一旦この辺りにしておくか」
唐突に引いた義兄に、メルがまぁ、と声を漏らして目を細める。
「そうですわね、それがよろしいかと思いますわ。丁度、私もお願いしたいこともございましたし」
(――、お願いしたいこと?)
首を傾げた師弟にまた微笑みかけ、メルは口を開いた。
「宣伝です。お出かけの際、我が商会の新作を着て頂きたいなと思いまして」
一旦、この辺りにされるそうです。




