3.兄妹というのはそこはかとなく似るもので
扉の方を振り向けば、そこには一人の小柄な女性が立っていた。
親と同じ枯色の髪に翡翠の瞳、それに合った淡い色の装いと、緩く結い上げた髪。
無垢な少女のように愛らしい姿だが――これに騙されると大変なことになる。彼女はこのウサギのような見た目の内に、抜け目ない狼を飼っているのだ。
「お前……また一段と詐欺に磨きがかかったな」
「まぁ、そんな。ありがとうございますわ。そう仰るお義兄さまはお変わりなく変人で」
とてもようございますわ、とフォルスの義妹――メルは柔らかに微笑んだ。
(……)
喧嘩を売っているのか?と突っ込みたくなるような会話だが、これが二人の普通の挨拶である。
仲睦まじい兄妹に、父ティエンも嬉しそうだ。
一応注釈しておくが――フォルスはともかくとして――メルは外でこんな明け透けな物言いはしない。爪も牙も、際限なく沸く毒も、必要時に効果的な方法で使うそうだ。
ご機嫌な様子で机についた彼女に茶を出せば、笑顔と共に感謝の言葉が返される。
ニコにも会えて嬉しいわ、と続けた彼女の言葉は本心だろうが、何となく玩具を見る目が混じっている気がしなくもない。
「さてと。それでは早速お義兄様のお求めのものを――と言いたいところなのですが、只今取り込んでおりまして。申し訳ございませんが先払いでも結構です?」
「初めからそのつもりだっただろ。全く……」
払い過ぎたら取り返せないんだぞと溢す兄に、妹はふふと楽しげに笑った。
「その時は私の名にかけて、見合うものを提供いたしますわ」
「一体何をくれるんだか……」
「それはもう、お義兄様が喜ぶものに致します」
かなり自信があるようだ。
非凡な研究者が与える知識、それに相応のものを差し出すのは難しいはずだが。
(……メル様なら持っていらっしゃいそうです)
何せ二十五歳という若さで、この支部を取り仕切る人間なのだ。義兄を唸らす品の一つや二つ、出てきてもおかしくはない。
ニコが事の成り行きを見守っていると、とうとうフォルスが諦めたように溜息を吐いた。
「どの分野が良い」
「それはもう少しお待ち下さいませ。今部下たちが取り合いをしているところですの。――あぁそれと、ニコは衣料部門でお預かりしておきますわ。ふふ、例の印とあなたを眺めて、お洋服を創作したがっている子がおりますのよ」
「……そうですか……」
眺めるだけでは済まないと、何となく分かる。
計画したことは実行しなければ評価出来ないのだ。
長年被験者として過ごしてきた時間が、ニコにこの先の成り行きを思わせた。
お願いねとの念押しに、ニコは大人しく頷いてみせる。
実害がない以上主は却下しないし、そもそも止めても止まらない。その辺りは兄妹よく似ていた。
「そうそう、随分会えていなかったもの。下着も新しく合わせ直しておきましょうね。きちんとしたものをつけないと、形が崩れてしまうもの」
「いえ、それはまだ今のもので――」
「ダメですわ。ニコはお義兄様のものなのだから、主人が満足できる形にすべきですの」
「……ええと、お師匠様は別にそこに興味はないのですが……」
欠陥のある身体があれば良いわけで、局所の形なんぞにこだわりはない。
そう突っ込めば、彼女はあらと零して義兄の方へ視線を流した。
気づいた彼がそうだな、と呟きニコを見る。
「確かに何でもいいんだが……窮屈そうにされてると毟り取りたくなるよな」
「……」
知らないうちに、自身の大事なところが薄氷の上に立っていた。
主の気分で守られてきた胸を押さえ、ニコは大人しくメルの言葉に従うことにした。
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こいつ何でこんな事ばっかり言うんだろう……
しかも嘘じゃないところが怖い。




