2.変人の親が務まる人
ニコの前で、主が一時停止する。
「ビックリした?」
「……やかましい」
楽しそうに笑った義父の顔に、主は苛立ちを吐き出した。図星を刺されて臍を曲げるとは、ニコの主は子供である。
(とは言いましても……)
驚くのも無理はない。主が妹君に連絡を取ってからたったの3日しか経っていない。
その話を聞いて遥か西方より訪れる――それは人間の物理的能力を超えていた。
「偶然、ではないのですよね?」
挨拶の後に尋ねたニコに、彼は勿論、と答えてみせた。
「偶然ならそれはそれで運命を感じて素敵だけどね」
ひとまずどうぞ、と爽やかに微笑んでティエンは背後の扉を開け放つ。
その奥の部屋こそ、フォルスが会う予定であった支部長の部屋であった。
中は品のよい落ち着いた調度で整えられ、彼女が不在であっても美しく保たれている。主とは真逆の様相だ。
彼らの父はそんな部屋で茶の用意を行いつつ、口を開いた。
「印の公開があっただろう。それで我が家の財政担当者とか、息子が欲しがりそうなものだとか、王都の秋の状況だとか――そんなことを考えたら、出現日が絞れてきちゃってね」
本人の趣味だと知ってはいるが、主人の親に任せきりにはさせられない。そっと手伝いに傍に寄ると、彼はにこっと微笑んだ。
「だからまぁ総じて言うなら、愛の力かな」
「気色悪い」
ニコが言葉を返す前に、一刀両断されてしまった。声の主は長椅子で嫌そうに口を曲げている。
そんな姿すらも嬉しげな笑顔で眺める義父に、彼は深々とため息をついた。
「……あのな、簡単に本店空けるなよ」
「大丈夫だよ。私などいなくても有能な部下がいるからね。君に会うと言ったら許してくれたし」
つまりは情報を聞いてこいということだろう。長が1週間以上も本拠地を抜ける許可には、フォルスから商売の種を得よという部下の念を感じる。
「それに商人として正しく最新の情報を持たないとね。それでグランの墓前に報告に行くんだ」
「いちいち起こすな。眠らせとけ」
「いやいや、私だって君が記憶を再現する度に報告してる訳じゃないさ。でも今回は特別だから」
にこにこと笑った。腹黒さや企みなど感じさせない、誠実そうな笑みである。
「魔法の研究やってて良かったでしょ。ついでに君からの感謝の言葉も伝えておこうか」
「……うるさい」
主の語彙が底辺になっている。これが親というものの力のようだ。
(……きっと『グラン』様も、すごい方だったのでしょうね……)
フォルスは幼き日、一度魔法という力を見限ろうとした。
そんな彼に、魔法研究という大志を抱かせたのはかの老いぼれである。
会ってみたかった、と頭の中で誰かが言った。
そうだ。ニコにとっても、感謝を叫ぶべき相手のはずなのだ。
想像のなかで彼の祖父を思い、天井を見上げてみたとき。
「まぁ、楽しそうになさってずるいですわ」
拗ねたような声が入ってきた。
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次は妹のターンです。




