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FANTASY OF OWN LIFE  作者: 矢吹さやか
12/24

#012 【第二話 了】

 さて、出番だ。

 隣室からお呼び出しがかかり、楽器を手に中に入る。

 ロン皇子とリース王女以外の面々から、ほぅ、とため息交じりの感嘆が入る。

 うん。私もさっき見たからわかる。これは人目を引く容姿にスタイルだ。サラがうらやましい。私もこんな人になりたかった!いや、まだこれからなれるかもしれないけれど(顔の造作以外)。

 でもこの顔は先生に似てるな……。ゲームキャラが現実の人間に似てるとか、普通あり得ないんだけれどな……。


「本日は、かような立派なお席にご紹介いただき、誠にありがとうございます。吟遊詩人のサラと申します。初めての方もいらっしゃいますが、以後お見知りおきを。

伺ったところによりますと、このお茶会は、ロンバート皇子様並びにリースレット王女様のご結婚のためのお打ち合わせを兼ねているそうでございますね。実はロンバート皇子様、リースレット王女様からそれぞれリクエストをいただいておりますので、それに合わせて曲をいくつか披露させていただきます。」


 下げていた顔を上げて、ロン皇子とリースレット王女が目を瞠る。

 だろうなー。知らないもんなー。言ってないし。


 まずは1曲目。

 静かな滑り出しから、ロン皇子のリクエストに応える曲を披露する。

 歌い始めてからお茶会メンバーは、うっとりと歌を聞いている。

 酒場は薄暗かったし、ステージに明かりが集められていたからわからなかったけど、サラの歌を聞いている人たちはこんな顔しているんだ。ちょっと怖いかも……。

 でも、リース王女は、歌の内容に少しはっとしている。そうそう、ロン皇子のお気持ちにも気が付いてあげてね。


 2曲目。

 女性の気持ちを切なく歌うバラードである。同じくうっとり聞かれたが、途中で何かを感じたロン皇子がリース王女を伺う。もちろん顔は赤いままだ。でももしかすると、王女の機嫌が悪い感じ、というのが誤解だったのかもしれないと思っているのだろう。少し表情が和らいでいるような気がする。

 うんうん。リース王女は優良物件ですぜ、皇子。しっかり見てあげてくださいませ。


 そして、本日のメイン曲である3曲目。

 お祝い事にふさわしい賑やかな始まりであるその曲は、周囲に反対されても、愛する二人が一生懸命お互いをさせながら生き、子どもをなし、幸せに暮らす物語の歌だ。反対している周囲は二人の生活を見守りながら、次第に応援するようになり、みんながハッピーになる、そんな内容だ。

 歌い始めはみんな同じようにうっとりしていたが、徐々に内容に思うところ、惹かれるところがあったのだろう。徐々に表情が柔らかくなり、自分が頑なに思っていた感情が溶けていくような体験をしているようだった。


 曲が終わった時、その人数にふさわしくないほど大きな拍手をもらい、またその拍手は鳴りやむことがなかった。その光景を目にして、私はお茶会イベントの成功を確信した。

 あぁ、私の歌で幸せになれそうな人がいるんだ。その気持ちはとても良いものだった。


 そして、拍手が止み終わった時、ロン皇子とリース王女の周囲の人たちは、口々に自分たちの今までの振る舞いに対して謝罪を口にしていた。

 きっとこの二人の結婚は大勢の人に祝福されるだろう。そう思わせる光景だった。

 サラの仕事はここで終わりだ。


 片づけて引き揚げようとしたその時、ロン皇子が言った。

「サラ様、本日は誠にありがとうございました。本当にお招きしてよかったと、心から思っております。きっとリースレット王女も、同じように思っていることだと思います。」

「ええ、サラ様。ロンバート皇子のおっしゃる通りだと思います。こんな素敵な歌を、私は今まで聞いたことがございません。内容も曲もすべてが素晴らしかったです。」

 リース王女もそれに倣って同じように賛辞を送ってきた。

 その他の方も、口々に同じように賛辞を送ってきた。

 酒場のステージで受ける歓声とは、また違うものだった。


「サラ様、厚かましいようで申し訳ないのですが、もう一曲ご披露いただくわけには参りませんでしょうか。」

 ロン皇子からアンコールのご要望が出た。快諾して何の曲がよいか、という話をしようとしたところ。リース王女が横から口添えした。

「サラ様。お願いできるのであれば、私は、サラ様が一番好きな曲を歌っていただきたいと思います。」


 一番好きな歌か……。実はあるんだけれどないんだよね……。そう、このゲームにその歌はないのです!でもせっかくだから久しぶりに歌おうかな。

 ぶっちゃけて言うと、私の年齢からはとてもあり得ない選曲なので、今まで誰にも言ったことはない。家族でカラオケに行ったときに歌うくらいだ。私の祖父が好きだったその曲は……『マイウェイ』だ。

 アカペラで歌うしかないか。


「かしこまりました。私の知っている曲の中で最も私が好きなものを披露させていただきます。この歌は私の故郷の歌です。初めて人前で歌うので、失敗しても笑わないでくださいまし。」


 と言って、ゆっくり朗々と歌い始めた。


 私は、その歌を歌っている間、自分の心にものすごく響いているのを感じていた。引きこもっていろいろ恐れている私、家族に迷惑をかけて諦められている私、何とかしなきゃいけないと思っている私……。そして、先生のような女性に憧れる私。

 ちゃんと前を向いて歩いている先生は、私が気が付かないうちに大きな大きな存在になっていたんだ。今日も先生がいるおかげで、不思議な体験ができたんだ。私も先生みたいになって、同じように悩める人を助けられるような、そんな女性になりたい。

 今、私には逃げるだけではない、前向きな希望が、夢ができたような気がした。

 そんなことを考えながら歌っていると、自分の歌声で涙が出てきた。いやいや、これゲームでしょ。どんなエンジン積んでるの??と突っ込みながらも、溢れる涙は止まらない。

 見ると、聞いている皆も泣いている。私と同様、いろいろと感じているのだと思う。

 すごい一体感があり、今は帝国・王国なんて関係ないとばかりの雰囲気になった。


 あぁ、私、このイベントやり遂げたんだ……。サラになって、たった1日弱だけど、なってよかった。なれてよかった。


 そう思ったとき、もう忘れていたけれど、アナウンスが入った。


『お時間になりました。楽しいひと時をお過ごしいただけましたでしょうか。今からログオフいたします。信号が鳴り終わりましたら目を開けてスタッフの指示に従ってください。』


 あ、終わりなんだ。まだ歌い終わっていないんだけどな……。気持ちは十分伝わったかな。

 うん。私的には満足かも……。


 ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴーん。


 時計の時報みたいな音が鳴って、私は意識を取り戻した。いや、正確には意識はあったわけで、現実に戻ってきたということなだけだ。の筈なのだけれど、何だか頭がぼーっとしている。


 ものすごく素敵な体験だった……ように思える。記憶が実に曖昧だ。

 自分の力で、多くの人を幸せにしたのだと実感し、そして私自身も幸せだと思えた時間だった、と思う。

 と、仮想世界の出来事に思いを馳せていると、係りの人がやってきて、いきなりクラッカーを鳴らした。


 ぱぱーん!ぱぱーん!

「おめでとうございます!お客様は最高スコアを更新されました!すごかったです。モニターしていた私たちも驚きながら拝見しておりました!最高スコアを出されましたお客様には、記念品と、『FANTASY OF OWN LIFE』のゴールドカードを進呈いたします。」


 と言って、記念品と思しきものを私に渡してきた。お礼を言いながら品物を受け取った。

 でもスコアなんてなかったような気がするのだけれど。


 ゴールドカードは帰りに受付で発行してもらえるらしい。

 そう言って、受付まで案内します、と係りの人が先に動き始めた。


「控室の方で、お連れ様もお待ちになっておられますので、ご案内いたします。」


 あ、そうだ。私、友だちとここに来たんだったな……。

 あれ?誰に連れてきてもらったんだっけ。え?私が連れて来たんだっけ?VRに長いこと滞在していたせいか、夢見心地のままのような気がする。時計を見ると午前11時15分。ここに来たのが10時半くらいで、30分コースだったからこんなものか。説明受けたりしてたし。


 控室に通されると、そこにいた女の子が声をかけてきた。

先生・・!お帰りなさい!どうでしたか?私はすんごく面白かったです!飛行機のパイロットになったんですよ!青空を飛び回って、気持ちよかったです。ずっとこのまま飛んでいたかったなって。」

 ものすごくはしゃいでいる。


 あぁ、そうだ。ようやく自分の思考がクリアになった。自分がこの子をここに連れて来たんだ。

 私の名前は、皆川紗良みながわさら。そしてこの子は、引きこもっていた知り合いの家の娘。家庭教師をしていたんだけど、中学校は通う気がなくて、毎日家の中にいる女の子だ。

 あまりに見かねて、気分転換させてあげようと思って、『FANTASY OF OWN LIFE』に連れて来たんだ。たまたま当たったチケットを使って、二人で来たんだったな。

 あれ?でもチケットって1人分だったような気がするのだけれど……。

 私自分でお金払ったんだっけ?


 いくつか記憶が飛んでいるところがあるようなのだけれど、女の子に声をかけた。

水月・・ちゃん、よかったよ。連れてきた甲斐があったね!私はね……あれ?何になったんだっけ。なんか人前で歌っていたような……。」

「先生、アイドルになったんですか?」

「うーん。なんか違うような。でもものすごく幸せな気分になって、幸せすぎて泣いちゃった気がする。」

「えー、先生泣いたの?幸せで泣けるとか、うらやまし過ぎるんですけれどー。」


 そうだ、水月ちゃんは、学校でいじめに遭って、現在引きこもり中。高校進学で他県の全寮制の学校を目指している。ちょうど私が就職するまでの間、面倒が見られるからと、週に3回勉強を見ている。女の子同士でもあるから、いろんな話をしたなぁ。

 そんな水月ちゃんが、ものすごくいい顔をしている。

 連れてきてよかったな……心からそう思った。


「帰ろうか、水月ちゃん。」


 第二話 了


第二話完結しました。


ここまでお読みいただいた皆様、ありがとうございます!


第三話は7/26更新分からスタートします。

よろしくお願いします!

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