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浮気な騎士と赤髪姫  作者: 白椿
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禁呪と対価。

短くてすいません^ロ^;




「なるほど…、そういう事でしたか」


 ルーン邸の二階にある書庫。レオノーラの取り出した濃紫の水晶を見るなり、ルーンは合点がいったとばかりに深く頷いた。


「そういうことって、どういうことですか?」


 ルーンの淹れてくれた香り高い紅茶を飲みながら、レオノーラは首を傾げた。


「賊を捕縛したと言っていましたね?もしかして、その者達の外見は……、かなり変化していませんでしたか?」


「ぐっ!ゴホゴホッ…!な、なんでそれをっ!?」


 飲んでいた紅茶にむせたレオノーラは、咳き込みながら涙に滲んだ目をパチクリさせた。


「やはり、そうですか…」


 ルーンはレオノーラの疑問に答えることなく、「あの辺りでしたかね〜」と吹き抜けになっている塔の上部へと人差し指を向けた。


 すると、塔の内壁をぐるりと覆うように造り付けられた本棚の中から、一冊の古びた本がスーッと滑るように、ルーンの手元へ飛んできた。


 筋トレできそうなほど、分厚く重そうなその本は、ルーンの詠唱に合わせて、風に吹かれたようにパラパラと捲れていく。


「……ありました。かなり細かい紋様で分かりづらいですが。このページにあるものと同じで間違いないでしょう」


 ルーンが差し示したページには、確かに水晶に彫り込まれたものと同じ紋様が記載されていた。しかし、レオノーラは図柄そのものよりも、その下に書いてあるティリレイの古代文字に目が吸い寄せられた。


「ルーン様、これ……。命を捧げる…術、って書いてありますけど…?」


 身を乗り出し、指先で文字を追っていたレオノーラがゆっくりと顔をあげると、ルーンは小さく頷いた。


「捧命術……。その名の通り、自らの命を(にえ)に捧げ、対価として強力な魔力を得られるという『禁呪』です。僅かな魔力があれば誰でも上級魔法が使えるんですよ?凄いですよね〜…」


 ふふふと笑うルーンに、レオノーラは顔を引き吊らせた。顔では笑っているが、とてつもない怒気がルーンから伝わってくる。滲み出る魔力でテーブルの上に置いてあるティーカップが、カチャカチャと震えた。


「……強力な呪文を使えば使うほど、払う対価も大きくなります。術者の生命力や使い方次第では即死も免れない代物です」


「そ、それじゃあ、賊達がお婆ちゃんになっちゃったのは……」


「お婆ちゃんに…、ですか。それは、この水晶を外されたことによって、禁呪で保たれていた容姿が崩れたのでしょう。拝命術の対価ですね」


 ルーンの言葉を聞いて、レオノーラがサーと青ざめた。自分の姿を見て脅えていた賊達の姿が脳裏に浮かぶ。


「……私が、この水晶を賊達から取り上げたんです。何も考えないで……」


 今なら賊達の視線の意味が分かる。賊達にとってレオノーラは、まさしく死刑宣告人も同然だった。


「レオノーラ様が気に病むことはありません」


 空になったティーカップに紅茶を注ぎながら、ルーンは苦く笑った。


「水晶を外さなければ、術者は近いうちに死んでいたでしょう。……例えそれが死ぬより苦しい現実だとしても、人は自ら重ねた罪の重さと向き合うべきだと思います」


 その言葉は、ルーンの美しい顔も相まって冷たく厳しく響いた。そして、誰よりも禁呪の恐ろしさを知っているからこその言葉の重みがあった。


「……何で手に余るほどの力を持ちたがるんでしょうか?ましてや、こんなものに命までかけるなんて……!」


 レオノーラは手にした二つの水晶を握り込むと、ガンッ!と拳をテーブルに叩きつけた。


「人の欲とは限りないものです……」


 紅茶から立ちのぼる湯気の向こう、ルーンが静かに言った。


「禁呪の力を使い、人を意のままに操り、容易く支配する。そうすると……、まるで自らが選ばれた者かのように錯覚してしまう者もいるのです。妬みや僻み、欲望に支配された者ほど、一度知った快楽からは逃れられないでしょうね……」


「う〜ん……。なんとなく、分かるような分からないような……」


 レオノーラは、ガリガリと頭を掻いた。


「あ。勿論、破滅行為や快楽の為だけに禁呪を使う者もいますよぉ〜?」


 間延びしたルーンの口調に、レオノーラはガクッと肩を落とした。


「それは全く分かりませんっ!」


 キッパリと言いきったレオノーラに、ルーンはくすくすと笑った。


「取り敢えず、レオノーラ様が闇に魅入られることはなさそうですね」


 ルーンはレオノーラの頭に手を置くと、ポンポンと叩いた。


「……何だか単純って言われてる気がするんですが?」


「いえいえ。本心から言ってるんですよ?この水晶を持ち歩いていて何の影響も受けていないんですから」


 レオノーラの手の中から水晶を取り出しながら、ルーンは言った。


「え?」


 思いがけない言葉を聞いて、レオノーラは、きょとんと目を開いた。


「普通、この類いの物は持っているだけで邪気に当てられ、体調を崩したりするものなのですが…。全く影響を受けないとは、さすがレオノーラ様ですね〜」


 ふふふと笑いながら水晶を掌で転がすルーンに、レオノーラは顔を引き吊らせた。


「そういう大事な事は、もっと早く言ってくださいよ!それ、カイルも一つ持ち歩いてるんですよ?」


 レオノーラは溜息まじりに言った。


「ああ、カイルなら大丈夫ですよ〜。闇とは対極にあるような人ですからね〜。あの方の纏ってるオーラって、ちょっと鬱陶しいくらいのキラキラ具合じゃないですか?」


「………まあ。確かに」


 うんうんと、二人はうなずき合った。


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