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第五章 7「時は過ぎて、縁は集う」

「く〜〜〜〜!仕事が早く終わると気分がいいぜ!」


 先ほどまであった手への重みとようやくおさらばした俺は、声に出すほどの感無量といった喜びの声を上げた。

 あれからそれなりに親しくなったメライと共に何度も行ったり来たりの往復を繰り返し、二人でほとんどの木箱を運んで仕事が終わらせたのだ。


「は、はひぃ〜〜……」

 気の抜けた声を上げながら、メライは日陰に沈む。滝のように流れる汗を拭いながらも、水袋から吸い取る勢いで水を摂取していた。同時に御手や靴を脱ぎ捨てる器用さには、つい笑ってしまった。


「ははは、随分器用に脱ぐじゃないか。行儀悪いぜ?」

「あー!?ヴァルさんもしたことあるくせに!」


 メライを揶揄うと共感と共犯を求めようと抗議をしてくるメライ。そんな彼女の抗議を気にも留めずに、俺に近づいてきた男の方を、ちらりと見る。


「もう、終わったのかい?」

 問いかけてきた目の前の男は確か、一人で書類仕事をしていた男。いささか驚いているようにも見える彼からの問いに、俺は頷き返す。


「あぁ。これで一応は全部なはずだ、確認してもらってもいいぜ」

 積まれている木箱の元へ案内しようと立ちあがろうとする俺を、彼は止めた。

「わかった。あとは俺らが確認作業をやっておくから、上がっていいぞ」

 それを合図に他の隊員たちから感謝が飛んでくる。

「助かった!ありがとよ冒険者さん!」

「次あればまた頼む!ほんとに!」


 よく見れば隊員の皆もひどく汗だくで疲れ切っているが、それよりも荷運びが終わったことに安堵してる様子で、口を揃えてお礼を言われてしまった。


「だったら俺次があるんで、あとは頼みますわ」


 一応の現場リーダーっぽい彼に後を任せては、いまだにへろへろで休んでいたメライに挨拶を済ませようとする。


「お疲れさん、次仕事あるんでここでお別れだな」

「え、まだヴァルさん働くんですか?」

「あと、三件ぐらい?あるかな」

「うへ〜、体力お化けっすねヴァルさん、じゃあまた」

「おう。また今度」


 図らずも仕事場での他愛のないやり取りを繰り返す。少なくともリアルの会社でも、同僚と仲を深める前に辞めたのだから、こういうやり取りを交わしたこともなかったので新鮮だった。


 それに彼女とは妙に気が合う気がしたが、名残惜しさを感じつつも次の仕事場である地下道の入り口へ向かう。手を振るメライに会釈と別れを告げて、その場を立ち去った。



「都市の外にこんな坑道?があるとはな……」


 次の仕事はここでは時たま湧く魔物を退治する事と、地下の廃坑内の生態調査の依頼だった。ここでも俺の他にも先約がいたらしく、見るからに冒険者の少年少女の二人組のパーティーが入り口近くで屯っていた。


「すまない、ここで合ってるか?地下道の仕事ってのは」

 到着から少し時間を置いてから、視線をこちらに向けていた少年に、場所が間違っていないか尋ねる。話しかけられた小柄な少年も問いに頷き返せば、素気なく答えた。


「え?ああ、ここで合ってるよ。あんたは?」

 少し焦がしたような赤髪につり目、簡素な革鎧と鉄防具に身を包んだ少年は、淡々と立ち上がる。その際背中に背負った剣で少年の足元が揺れたが、何事もなかったように腕を組んで、俺を見上げていた。


「俺もここで仕事。お二人さんの邪魔して悪いな、俺は今日から冒険者になったもんで、間違いがないように聞いただけさ」


 冒険者にも気を張った連中や、粗暴な人たちも多いらしく、目の前の二人にもなるびく穏便に済ませようと、俺も素直に話した。


 木陰が揺れる中、値踏みするような視線を向ける少年と、少年の後ろで何も言わず見守る少女の視線が、俺と少年の両方へ向けられていた。


「へぇ、こんな時期に珍しいな。俺たちより遅いなんて」

「うん。私たちより遅い人初めてみたかも」

 怪訝そうだが、事情を聞いて興味を示す少年と、納得した少女。少なくともコミュニケーションは今のところ上手くいっている。二人からも敵意や害意は見られてなかった。


「ま、それは事実だから仕方ないさ」


 俺も声に出して肩を竦めて苦笑しつつ、改めて目の前で並ぶ二人を見る。見たところ剣を背負った軽装な少年は戦士で、首から何かのアクセをぶら下げた少女は聖職者に見えた。


 ふむ。


 軽装の少年は腰と背中に剣があるが、そのせいか防具面は最低限だけ整えた装いになっている。それでいて革鎧と鉄防具のキメラのような防具で、歪さが滲み出ているが、一方で防具を使い込んでいるせいか、しっくりくる妙な一体感があるようにも思えた。


 一方敬虔そうな少女の方は、小綺麗にした防具は統一感あるようにバランスが整っている。武装はメイス一本と木の小盾だけで、こちらも最低限でシンプル。そんな二人は対照的な組み合わせだった。


「俺はウッドランクのボックってんだ、こっちが連れのロロ。あんたは?」


 赤髪の少年は自分と連れの茶髪の少女の自己紹介を勝手に済ます。俺の視界には二人の名前、見立て通りの戦士と聖職者の情報が開示された。


「俺はヴァル。今日は一つよろしく頼みますよ、ボック”先輩”」


 俺はふと思いつく。冒険者に成り立ててで、幸運にも有効的に接触できた彼らとの距離感を縮めるべく、親しみを込めて先輩などと呼んでみることにした。いくつか思惑が俺にはあったが、不意に俺はやったことがなかった先輩後輩関係をやってみたくなったのだ。


 こんなことを思いつくなんて、さっきのメライとのやり取りで人との会話が楽しくなったのか?など思えるほどに、自分でも信じられなかった。

 当のボック本人も驚いたらしく、ついでにロロも目を丸くしていた。


「せ、先輩!?」

 すっとんきょうな声を上げたボックは、聞き直すように投げ返してきた。

「だってほら、俺は今日からの新人ですから、一応後輩じゃないですか」


 悪ノリした俺が頷いて肯定すると、何やら興奮冷めやらぬ様子のまま、悪い気はしないといった表情のボックは納得してくれたようだ。


「わ、わかった。ちゃんと俺の仕事ぶりをみて勉強するといいぜ後輩!」

「もうボックったら……」

 やんちゃな兄弟でもみるようなリアクションをとっていた、歳の割に大人びているロロにも同じように言った。


「ロロ先輩もよろしくお願いします、ね?」

「……!えぇ、よろしくねヴァルさん」


 自分たちより背丈も大きい俺にそんなこと言われた二人は、当初こそ驚いたが、気さくな後輩と思い込んでくれたようで、終始満更でもないと言った所だった。


「よく聞け後輩!俺様が、色々教えてやるぜ!」


 仕事が始まるまで待っている時間にも、気をよくしたボックは意気揚々と冒険者としてのイロハとか、言い聞かせるように色々親切を焼いてくれた。どうやら予想以上に好意的に気に入られたらしい。


 最初は後輩後輩!とか調子乗って言っていたボックも、「調子に乗らない」とロロの拳骨で矯正されたようで、俺へのさん付けに戻っている。


「で、他にもくる人が?」

「あと一人来るらしいけど、まだみたいね」


 拳骨を喰らったボックは、ぶつぶつロロへの文句を言いながら、自分が語ることを語り切ったのか、近くの草原あたりで寝転んでいた。

 俺もただ待つのもあれなので、ロロと交流を深めるべく会話を続けた。


「……?」

「どうしたの?」

「いや、あれ……が気になって」


 ロロから色々教えてもらっているよ、先ほどからチラチラと、ボックはこちらに目線を向けていた。

 正確には俺の全身鎧と武器に視線を向けており、熱い視線が刺さって気が散る。


「こらボック!ヴァルさんに失礼でしょ!」

「だってよぉ……!」

 ロロはため息一つ、そんなボックに近寄って再三注意をするが、俺が引き止める。


「大丈夫ですよ、敵意じゃないので怒ってませんし、ボック先輩の気持ちは、俺もわかりますから」

 彼への共感、かっこいい武器や防具を観たくなる気持ちはわかるので、二人には俺の直剣や中盾を見せることになった。


「すっげえ剣!!初めてみるぜこんなの。ヴァル……さんはこれ買ったのか?貰ったのか?!」

 両手で剣を持ち、剣先を頭上に掲げた剣身に映る自分の顔で興奮しているボック。目をきらきらと輝かせ、何度かぶんぶんと、素振りしながら尋ねてくるものだから、微笑ましい。

「一応、買った。遠方で買ったものだから、ここらでは手に入らないかもな」

「だよなあ。俺が買った(二対剣)ツーピックソードでもこんな良いものでもねえし」


 不満そうにぼやくボックに、本日四度目のロロのお叱りが飛んだ。


「あんたねえ、剣買うより防具を買いなさいよ!ヴァルさんみたいにバランスよくしないと怪我するでしょ」


 中盾を抱えたままお叱りを飛ばすロロに、ぐっと言い返せないボック達を俺は静かに眺めていた。


 ロロの意見はごもっともだと言える。当のボックは楔帷子などを着込んではいるが、それでも最低限整えただけ。後衛であろうロロに比べても、防御面が疎かになっているのは否めない。


「いいんだよ俺は!攻撃をよけーりゃあ、俺様は無敵!」


 それもそうか。


 ボックの言い分通りだと、自分は回避重点と言いたいのだろう。確かにほとんど軽装に近いものだったし、いわゆる回避タンクでもするのだろうか?


 だとしても前衛を張る以上は、それなりの防具はして欲しいとロロは思っているんだろうな。



「ご、ごめんなさ〜い!遅れて、しまいました!」


 二人の言い争いをよそに、聞こえてきた声の方へ向く。金属同士が上下に揺れて刻む音、それを押し除ける張りのある声量。息を吐き、肩を上下させながら近くまで来た鎧姿の人物。どこかで聞いたことがあるような声に首を傾げた。


「もしかしてメライ、か?」

「え?あれ、ヴァルさん?ヴァルさんじゃないですか!」

 汗を手の甲で拭いながら、こちらに視線を寄せた彼女は、俺を見つけるとぱぁっと顔を明るくした。


「もしかして知り合いですか?」

 横から不思議そうなロロの声が届く。ボックも覗き込むように俺の横までくれば、俺は頷いた。


「こっちは今日知り合った……」


 ちりんちりん。


 ボックが腰にぶら下げた鈴が鳴る。どういう原理か知らないが、ちょうど仕事開始の合図らしく、俺を含めた四人はひとまず廃坑へ入ることになった。


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