序幕
かつて、その席には三人の神さまがいました。
黒の女神と白の男神、そして灰の女神。そう呼ばれた三柱の神さまたちは、自分たちが作り上げた卓上世界を囲み、その行く末を見守っていました。
時には世界に干渉し、時には何もせずに見守る。人が人を滅ぼし、あるいは滅ぼされる。国が生まれ、繁栄し、やがて滅びていく。それでも世界は廻り続ける。それが、その世界にとって当たり前の日常でした。
けれど、ある時。
黒の女神と白の男神が、勝負をすることになりました。
────あぁ、くだらない。
そう思えるほどに、ボクにとってはどうでもいい勝負でした。
それでも、二柱の神さまは互いのすべてを賭け、最後の大勝負を始めたのです。
勝負の舞台は、私たちが作り上げた卓上世界。そこに生きる住人たちを駒として利用し、互いの勢力をぶつけ合う代理戦争。
どちらかが滅びるまで終わらない、永遠のデスゲームでした。
────あぁ、なんて可哀想。
自分たちの意思とは関係なく、神さまの身勝手な勝負に巻き込まれていく住人たち。
彼らにとっては、そこで生きることも、戦うことも、死ぬことさえも、望んだものではなかったでしょう。
けれど、そんな身勝手さこそが神の証なのかもしれません。
とても傲慢で、とても悍ましく、そして、とても哀れな存在。
なぜなら、そんなデスゲームも、神々の争いも、私の目の前であっけなく終わることになったのですから。
白と黒。双方の神さまたちは、代理戦争の最中に世界へと介入しました。
互いに不正を働いた結果、神々自らが定めたルールに違反したのです。その代償として、白と黒はこの世界から完全に消滅してしまいました。
最後は自滅。なんとも愚かな神々による戦争は、こうして幕を閉じたのです。
けれど、争いが終わったからといって、すべてが元に戻るわけではありません。
二柱の消滅がもたらした余波によって、卓上世界は壊れてしまいました。
かつての穏やかな世界は失われ、そこには癒えることのない傷跡だけが残されたのです。
そして、ただ一人残された灰の女神であるボクは、せめてもと、壊れた世界を見守り続けることにしました。
せめて、その傷ついた世界に優しく寄り添おうと。
たとえ、その行為に何の意味がなかったとしても。ボクはそうしたかったのでしょう。
それから、長い月日が流れました。
世界は廻り続けています。けれど、神々の争いが残した爪痕は消えず、傷も癒えないまま。
そんな世界に、ボクは最後の客人を招くことにしました。
────最後の客人を招こうか、この世界に。
いくたび時が流れ、いくたび世界が廻ったことでしょう。
唯一の世界の観測者となった灰の女神、アシュレイであるボクは、別の世界へと目を向けました。
この世界に、変化をもたらす特異点を招くために。
できれば────そう、この世界の最後を務める主役を。




