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第四章 イニシエーション(開花)  11

 監獄ベタから脱出するために桟橋へと向かう。

 観客達の船やボートが所狭しと並んでいる。豪華客船なども見えた。

 手ごろなボートを探している時に、その中の小さな二人乗りのボートにエンジンが点いているのに気がついた。


「朱里、こっちだ」

 警察や、警備の人達が追ってくるのが遠目に見て取れた。

 急いで、 彼女と二人で、ボートへと乗り込んだ。

 ボートは勢いよく走り出す。

 追っ手も、大小様々なボートで追撃してくる。

 しかも、向こうは武装しており、容赦なく銃撃してくる。

 

「頭を低く」

 朱里はしっかり俺にしがみついていた。


 堤防の先端に一人の女性が立っているのに気がついた。

 まるで見送りをしているかのようだ。

 よく見るとそれはジェネだった。

 俺の処刑を見物に来ていたに違いない。

 だが、俺が逃亡していることがどうして分かったのだろうか。

 公開処刑場の位置から、この船着場は丁度島の反対側にあった。

 先回りしていたとしか考えられない。

 手を振る暇はなかったが、ジェネの悲しそうな表情が見て取れた。


 海はいつになく波打っていた。

 そう、地震の影響で、津波が起こっており、その余波で嵐でもないのに、高波が押し寄せていたのだ。


 偶然にも俺のボートは波と波の間をすり抜け、波のトンネルをくぐり、追い波に乗せられて、あっという間にベタの岸へと漂着した。

 追撃のボートなどは、皆波に呑まれ、転覆したり、逆走したりして、ベタの岸まで辿り着く追っ手は一人もいなかったのだ。


「奇跡は起こったのね」

 海岸から監獄レバの方を眺めながら、朱里は俺の腕に寄り添い、肩に頭を乗せた。

 体のあちこちに痛みは残っており、歩くのはやっとだったが、逃げ切れたことは事実だった。

 処刑も免れ、今こうして朱里と二人でいる。そう、これがきっと奇跡なのだ。多くの偶然が重なり、それは奇跡と呼ぶに相応しい現象だったのだ。


「さあ、行こう。今度こそ本当の未来へ」

 海岸には、地震によると思われる津波の爪あとが残っていた。木は薙ぎ倒され、流木が道を占拠し、泥があちらこちらにと散らばっている。

 車なども横転したままの格好で置き去りにされていたのだが、動きそうな一台を見つけた。

 鍵などは掛かっておらず、二人で乗り込む。

 エンジンは直結ですぐに始動した。津波による被害はなさそうで、シートなども濡れてない。


「伝説……、開けちゃったね」

 ベタの街を横切りながら、朱里はもうもどれないであろう生まれ故郷の街並に別れを告げているようだった。

 きっとまた追われる日々になる。そんな予感がしていた。

 たとえオンコジーンの奇跡の力を借りたとしても、現実はそうは変わらないのである。


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