黒き天使 第32話 「代償」
第二期もここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
前回の戦いの後、物語は少しだけ「静かな章」に入ります。
しかし、この静けさは平和ではありません。
リーの行動は、ただの復讐でも暴走でもありません。
彼は一人で戦争の流れを変えようとしています。
そして今回の話では、戦場ではなく「人の心」が動き始めます。
会議、疑念、信頼、そしてそれぞれの正義――
レオン、リー、そしてアレス。
三人の信念が、少しずつ交差していきます。
この章は、大きな戦いの前触れになります。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
前回――
リーは単独でクライザードの拠点を襲撃し続けた。
その結果、宇宙全体が動き始めていた。
王アレス、そしてスピルリアン達は、すでに彼の行動を把握している。
リーの首には、かつてないほどの懸賞金が掛けられた。
スピルリアンは多数のアンドロイドを送り込み、彼の足取りを追跡している。
宇宙は、静かに戦争へと傾き始めていた。
巨大な組織船の会議室。
そこには各勢力の代表が一堂に会していた。
ロード・ヴァロン、父であるヴァンダー、各組織のディレクター、そして十二名のエクスピリアン評議員。
重苦しい沈黙の中、最初に口を開いたのはヴァロンだった。
「しばらく私はここに滞在する。アレスが、リーの行動に私が関係しているのではないかと疑っている」
彼は腕を組む。
「誰か、彼がこうすることを知っていた者はいるか。……ローラ、君は何か聞いていないか?」
ローラは一瞬だけ目を伏せた。
「……いいえ。彼は長く外出するとき、いつも行き先を言わなかった。ただ、ひと月戻らないと言っただけです。それ以上は何も」
ヴァンダーが口を挟む。
「ならば、ララとその護衛を呼ぶべきだな。いつも一緒にいる」
ローラは眉をひそめた。
「護衛? リウのことですか?」
ヴァンダーは首を横に振る。
「違う。クライザードの少年だ」
その瞬間、ドリアが笑う。
「護衛じゃないだろ。あれは恋人だ」
バンッ!
ローラが机を叩いて立ち上がった。
「違います! そんなこと、私は絶対に許しません!」
ヴァンダーは静かに彼女を見つめた。
「……なるほど。理解した」
ヴァロンがため息をつく。
「感情論はやめよう。今はそれどころではない」
彼はデルタのディレクター、ヴェイガへ視線を向けた。
「戦争経験のある君の評価を聞きたい。リーの行動は何を意味している?」
ヴェイガは顎に手を当て、ゆっくりと語り始めた。
「彼の行動は、クライザード王位継承に影響します」
全員が耳を傾ける。
「スピルリアンがクライザードを利用していることを、リーは知ったのでしょう。彼は両者を同時に揺さぶっています」
「長期的には危険です。スピルリアンは監視を強め、彼を庇う者すべてを処罰するでしょう」
会議室の空気が凍る。
「しかし同時に――彼は恐怖を植え付けています。アレスの将軍達に警告を送り、民衆には“従うべき存在”として印象づけている。さらに彼は単独行動で障害だけを排除し、仲間を巻き込んでいない」
ヴェイガは続ける。
「解放された種族は政治的影響力を持つ。つまり彼は、戦争を起こさずに支持を集めているのです」
ヴァンダーは静かに頷いた。
「接触は危険だな……だが連絡は試みる」
ローラは小さく呟く。
「連絡はしました。でも応答がありません……ただ、トーナメントには来ると言っていました」
ヴァロンは目を細める。
「……ならば、アレスと戦う覚悟はできている」
「トーナメントはどうする?」
ドリアが尋ねる。
ヴァロンは即答した。
「中止しない。リーが戻らない限りな……その可能性は考えたくもないが」
会議後、廊下。
ダリアンがララに近づいた。
「お前の兄貴、正気か? せいでXPまで監視されてるぞ」
ララの手が上がる――
だが、レオンがそれを止めた。
「落ち着いて、ララ。俺はリーが迷うのを見たことがない」
彼は静かに言う。
「平和を求めると、同時に戦争が生まれる。……でも、きっと意味がある」
ララは彼を見つめた。
「……ごめん」
その頃、リウは別室へ呼び出されていた。
尋問の可能性。
嘘をつけば、精神を読まれる。
彼の背に冷たい汗が流れた。
場面は変わる。
文明の痕跡もない、暗い洞窟。
そこにリーはいた。
彼の周囲には、彼が救った人々が集まっている。
リーはフードを外した。
「外は最悪の状況だ」
静寂。
「しばらくここに留まってほしい。技術は使うな。スピルリアンに追跡される」
人々は固唾を呑む。
彼の次の言葉を待っていた。
リーはゆっくりと彼らを見渡す。
そして――口を開いた。
(続く)
第32話を読んでいただきありがとうございました!
この回は戦闘が少ない代わりに、世界の状況と政治が大きく動く回でした。
リーが何を考えているのか、まだ全ては明かされていませんが、彼は無計画に動いているわけではありません。
また、レオンは戦いだけでなく「信じること」を学び始めています。
彼の強さは力だけではなく、人を支える心にもあります。
そして、アレスもいよいよ本格的に動き始めます。
ここから物語は一気に加速していきます。
作者ページでは
・キャラクタープロフィール
・外伝
・『黒き天使』の世界観の音楽
も公開していますので、よければぜひ見てみてください!
ここまで読んでくださったすべての方へ、心から感謝します。
次の話もよろしくお願いします!




