天の呼び声
この宇宙には、
人には知ることのできない戦争がある。
それは剣や兵器だけの争いではない。
光と闇、信仰と反逆、
そして――「選択」の物語だ。
なぜ人は生まれるのか。
なぜ苦しみは終わらないのか。
そして、なぜ“選ばれる者”が存在するのか。
これは、
何者でもなかった一人の少年が、
世界の終わりと希望の狭間に立たされる物語。
運命に抗い、
恐れと向き合い、
それでも前に進む者の――
呼び声の物語である。
第1話 ― 召命
学校生活、最後の日が訪れていた。
教室には笑い声と椅子を引く音が響き、夕焼けの光が窓から差し込んでいた。多くの生徒にとって、それは自由と未来の始まりを意味していた。
だが、レオンにとっては違った。
(今日で終わりなのに……)
(俺は、これから何をすればいいんだ……)
(何もかもが、意味を失っている気がする)
クラスメイトたちは別れを惜しみ、連絡を取り合う約束を交わしていた。レオンも微笑みはしたが、それは作り笑いだった。心の奥には、言葉にできない虚しさが広がっていた。
夜、卒業パーティーの会場は明るい音楽と笑顔で満ちていた。若者たちは踊り、写真を撮り、未来を疑うことなく楽しんでいる。
その中で、レオンだけが取り残されたように立っていた。
次第に、周囲の音が遠のいていく。
笑い声も音楽も消え、残ったのは重苦しい沈黙だけだった。
その夜、レオンは自分の部屋に戻った。テレビからは、戦争、暴力、腐敗――終わりのない悲劇のニュースが流れている。
(もう……同じ悲劇ばかり聞きたくない……)
彼はテレビを消し、深く息を吐いてベッドに横になった。
部屋は静まり返り、枕元のデジタル時計の音だけが響く。
02:59。
数字が切り替わる。
03:00。
その瞬間、部屋がまばゆい白い光に包まれた。
レオンは驚いて起き上がる。だが、その光は目を焼くものではなかった。
温かく、包み込むような光だった。
光の中心から、一つの存在が現れる。
「レオン……こちらへ来なさい。見せたいものがある」
その声は穏やかで、しかし逆らえない力を持っていた。
次の瞬間、レオンの意識は肉体を離れ、光の中へと引き寄せられていった。
彼が辿り着いたのは、星々と光に満ちた広大な次元だった。
惑星が生まれ、宇宙が形作られ、天の存在たちが調和の中で動いている。
声が再び響く。
――すべての創造は、自由意志と共に生まれた。
だが、影響によって、多くの被造物は創造主に背いた。
罪は宇宙に広がり、父なる神は深く悲しまれた。
空が裂け、天使たちが堕ちていく光景が浮かぶ。
ルシファーが反逆の軍勢を率いていた。
――それでも、父は新たな存在を創られた。
――特別な力を持たぬ、脆く、弱い存在……人間だ。
エデンの園、蛇、そして堕落。
――人類は創造主を無視し、自らの起源を否定した。
空気が重くなる。
――父は、創造を終わらせる決断をされた。
――だが、天使たちが嘆願し、私は介入した。
その存在――イエスは、レオンをまっすぐに見つめた。
「君の中に、純粋さを見た」
「だから、君を導こう」
レオンの胸が強く震える。
「君に、古き力を託す」
「だが、それを支配するのは容易ではない」
「今はただ……私を信じなさい」
光が消えた。
レオンは、自分の部屋で目を覚ました。朝の光が窓から差し込んでいる。
最後に、声が響いた。
「目覚めたら、両親に旅に出ると伝えなさい」
「毎月、仕送りをすること」
「準備期間は二日だ」
レオンは天井を見つめ、静かに決意した。
その後、台所で両親を抱きしめ、スーツケースの横で告げる。
「奨学金をもらったんだ……日本へ行く」
「でも、必ず毎月お金は送るよ」
両親は何も問わず、彼を祝福した。
その夜、再び光の扉が現れる。
イエスが立っていた。
「準備はいいか?」
レオンはうなずき、光の中へ足を踏み出した。
次に目を開いた時、彼は赤い空の下、岩だらけの地面に膝をついていた。
巨大な山々と古代の遺跡が広がる異世界。
(……ここは……どこだ?)
風が、不気味な音を立てて吹き抜ける。
こうして――
レオンの「召命」は始まった。
✨ 第1話・完
はるか昔――
宇宙がまだ静かだった時代。
すべては調和の中にあった。
創造主の意志のもと、
星も、命も、時間さえも意味を持って存在していた。
しかし、
与えられた「自由」は、
やがて欲望へと変わった。
崇拝は妬みに変わり、
疑問は反逆へと堕ちていく。
天は裂かれ、
光は分かれ、
戦争が始まった。
そして長い時を経て――
地球という、
最も弱く、最も未熟な星に、
一人の少年が生まれる。
彼はまだ知らない。
自分の中に眠るものを。
そして――
自分が歩むことになる、
“逆らう道”を。
これは、
選ばれし英雄の物語ではない。
これは、
恐れを抱えながらも、
それでも光を選ぶ者の物語だ。




