第12話 発電所大強襲
8月13日、ジュピトリア共和国軍では新たな可変MUの開発が行われる事となった。
このマルチフレーム計画において、最重要事項となるのは戦闘の早期決着である。
理由は、移動速度を上げることで、よりスピーディーな戦闘が行えるのではと開発チームの一同は考えたからである。
当初は安易な考えと蔑む者もいたが、必死の説得により上層部も賛同し、最終的には量産化も視野に入れるという事も現段階では決まっている。
果たして、これが吉と出るか、凶と出るか。
一方、プログレッサー隊はロバートとカイル、フランクとヘレンの二組に分かれてそれぞれ別行動を行っていた。
ロバートとカイルは機体の装甲強化をしていたのだが、カイルが最近の疲れ故に眠りそうになっていた。
「あぁ、まずい、眠い……」
「おい、どうしたんだ? カイル、おーい……、カイル起きろよ」
ロバートの声に目を覚ましたカイルは、思わず驚き慌てふためいた。
「あっ、隊長……! すみません……、疲れていたもので、つい……」
「最近眠たそうな顔をしてばかりで、お前らしくないぞ」
「いや、最近は戦いが無いので新しいメタルユニットの回路の開発をしていて、寝てないことが多くて……」
カイルはロバートに叱られると思っていたのか、体が震えていた。
「それでか……。あまり無理するもんじゃないぞ。体を壊したらどうしようもないから、しっかり睡眠を取った方がいいぞ」
「ご心配ありがとうございます。でも、これは戦争で勝つために……」
「おいおい、確かにお前の気持ちも分かるが、それが原因で倒れたりしたら元も子もないじゃないか。戦争で勝つことも大事だが、カイルは自分の心配をしないと……」
ロバートは不安そうな表情を見せる。
「まぁ、そうですよね。隊長がそう言うのなら、生活を見直してみます。ご心配かけてすみません……」
「いやいや、カイルが謝る必要はないよ。俺はただ、お前に無事でいてほしくてな。もちろん、フランクやヘレンも同じだ。あいつらはお前みたいに睡眠を疎かにしているという話は聞かないがな。とりあえず、休む時にはとことん休むんだ。そうしないと自分の身が危ういぞ」
「分かりました。これからは気を付けます。お気遣いいただけるのは嬉しいです」
そしてカイルは自身の行動を猛省した。
「いいんだよ」
ロバートは笑って見せる。
時を同じくして、ヘレンとフランクは他の基地から送られてきたデータをまとめる手伝いをするよう上官から急遽呼ばれ、その作業に追われていた。
彼らが呼ばれた理由としては、人員不足があまりにも深刻かつ、送られたデータの量が非常に多かったからである。
また、ヘレンやフランク以外にも戦闘要員でありながらもこの作業に呼ばれた者も少なくない。
「あぁ……、疲れたわ。ここまでの量を寝るまでに終わるかしら……」
「ヘレン、どうしたんだ? 手伝うよ……。かなり疲れてそうじゃないか」
フランクはヘレンの扱っていた一部のデータを自分のコンピュータに移し替えて作業を再開した。
「あっ……、いいですよ。自分でやりますから」
「いや、いいっていいって。残りの半分は自分がやっとくからさ。もう少しだけ頑張ろう」
彼のその優しさに、ヘレンは思わず口が綻んだ。
「あ、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて……」
その後、作業をどうにか終えて談話室に向かった二人。
そこでヘレンは申し訳なさそうな表情をしていた。
「あの……」
「どうした?」
不思議そうな表情をするフランク。
「さっきは……、すみません」
「あぁ、あの件? いいんだよ。ヘレンは疲れてたみたいだし、俺が手伝わなければお前が倒れていたかもしれないからな。俺はそんなお前が心配だったから……」
「フランク少尉…、私の事を思ってくれていたのですね」
ヘレンは明るい笑顔を見せた。
「その通りだ。ヘレンはこの隊では一番の年少者だから、尚更心配なんだ。体を壊してしまったらと思うと……、辛くてな……」
「そうですか。私を思ってくれるなんて嬉しいです」
「当然の事さ。さぁ、早くしないと消灯時間になるから」
「あぁ、そうですね。それではまた翌日……」
彼女はフランクに手を振って別れる。
一方、帝国軍の機動部隊は音もなく共和国軍の発電所に忍び寄る。
「さて、ひとまず出るとしよう……」
この作戦の指揮を執るエルドラドは、輸送艦から真っ先に降下した。
それを発電所の護衛部隊が黙ってみているはずもなく、猛攻撃を開始。
「以前のようにはさせないぞ! 進めェ!」
“了解!”
また、今回のこの戦闘ではプログレッサー隊やストライカー隊などの部隊も召集され、共和国軍側が明らかに有利に見えた。
しかし、そんな彼らの隙を突いてくるかのように、帝国軍は牙を剝き始める。
「大尉、準備を……」
“そうだな、セルバード……。お前達、一旦輸送機に戻るぞ”
彼らが輸送機に戻る様子を見て、共和国軍側は撤収したのだと思い、各部隊に帰還命令が出されたその瞬間、思いもよらない事態が起こる。
「フッ、油断したようだな! 全弾発射!」
何と、帝国軍は輸送艦からバズーカなどの火器を取りに戻っていただけだったのだ。
これに共和国軍の部隊は、焦燥に駆られることを強いられた。
「クソッ! 見誤ったか……」
“アモン大佐、どうします”
「どうするもこうするも、今は奴らを上手く取り囲んで倒すという事に集中するぞ!」
“は……、はい”
切羽詰まっている表情のアモン。
これを見たエストルは他の部下にも包囲攻撃をするよう指示を出した。
時を同じくして、プログレッサー隊とストライカー隊は空中で前方より群がってくる敵部隊を一斉掃射で殲滅していた。
「よし、このままの勢いで上空の輸送艦も……」
「させるかぁッ!!」
ルーガンは上空へと飛ぼうとするも、セルバードの砲撃により妨害されてしまう。
「何ッ!? ウワァァッ!!」
この攻撃で、ルーガンの機体は軽度の損傷を負った。これにより思わずルーガンは怯んだ。
「くっ、このままじゃ……」
“ルーガン隊長、負けないでください! 私たちが援護します”
「リオ……、ありがとう、助かったぞ」
その後、クローティスとエリナ、リオの三人はセルバードに集中砲火を浴びせ、彼を苦悶させる。
その状況下から、ルーガンは攻撃の契機を探る。
「おのれェ! どこまでも邪魔をするとは……、殲滅してやる!」
セルバードは怒りをあらわにしつつ、バズーカを素早く構えて光線を放った。
「うッ……、このまま死んでいくわけにはいかない! 喰らえェッ!」
ルーガンは自らの機銃でビームを二発撃ち、セルバードを攻撃不能にまで追い込んだ。
「クソォ……、コンディションレッドか。右腕も壊れ、シールドも破壊されては仕方あるまい……。撤収するか……」
その後、セルバードは悲しげな顔で輸送艦へと戻っていく。
しかし、この場にはメルダもいた。
それから間もなく、ターゲットはメルダが率いる無人機で構成された部隊に移った。
ロバートはこの部隊を相手にパワードキャノンで応戦。
「よし……、準備完了! パワードキャノン発射!」
巨大な砲口から稲妻のような光線が放たれ、前衛にいた無人機は一瞬で吹き飛んだ。
「さすがね……、でも、まだ戦いはこれからよ!」
メルダは肩部に搭載されたビームキャノン砲でロバートを狙撃する。
「おぉっと……。危ないな……」
“ロバート大尉、ここは私にお任せを……”
“自分も援護します!”
「ヘレン、フランク……。じゃあ、頼んだぞ…。カイル、作戦変更だ。二手に分かれて行くぞ。俺たちはアモン大佐が戦っている別の入口の方へ向かおう」
“了解! 任せて下さいよ! もしかしたらエルドラドはそこにいるかもしれませんよ……”
「そうかもな……。もしそうなら早めに向かわないとな」
そして、ロバートとカイルは後の二人に後を任せてその場を離れる。
フランクとヘレンはメルダが率いる無人機部隊を相手に一戦交えることとなった。
「どこからでもかかって来なさい……。どうせやられるだけよ」
メルダは不気味な笑みを浮かべ、ビームライフルを素早く構えた。
「これだけの敵を……、一体どうやって倒すんですか!?」
“簡単だ。上手く奴らの死角を見極めて隙を突いて倒す”
「分かりました……。やってみますか……」
二人は敢えてメルダを狙わずに、無人機を相手に一機ずつ前後から挟撃することにした。
“敵機接近……、ターゲット確認シマシタ”
「そこだッ!」
「喰らいなさい!」
そして、上手く優位に立った状態で次々に敵機を撃墜しく。
その攻撃していく様子は、メルダにとって驚異的であった。
彼女は固唾を呑み、ヘレン達に応戦する。
「無駄よ! 私を倒さない限りは無人機部隊は無敵と言っても同然!」
「なんて気迫だ……。ヘレン、何としてもこいつらを殲滅するぞ!」
ロバートは必死になって機銃を構える。
“はい!”
「掃射開始だ!」
“了解”
二人は機銃を用いて接近してくる敵部隊に攻撃を仕掛けていく。
“戦闘不能……、損傷度52パーセント、コレ以上攻撃ヲ受ケルト……”
敵機は次々に爆発四散していった。
やがて、一瞬にして無人機は全滅。残りはメルダ一人となる。
「くっ……、そんな……! まさか形勢を逆転されるなんて…」
メルダは歯を食いしばってビームソードを構えた。
そして彼女はヘレンに急接近して攻撃を仕掛ける。
「落ちなさいッ!」
「来た…、てやあァァァッ!!」
ヘレンは即座にビームソードを取り出し、それで攻撃を防いだ。
互いの剣は鍔迫り合い、どちらも全く譲ることは無い。
その隙に、フランクはメルダの後方に回って光線を放った。
「少し卑怯かもしれないが……、喰らえッ!」
「何ィ!? そんなッ!!」
メルダの機体は戦闘不能になる程の損傷を負ったため、彼女は一旦ここから身を引く事にした。
「くっ……、逃したな」
“とはいっても、どうにかここの敵は殲滅出来ましたね……。まだ他にも敵がいるエリアがあるでしょう……”
「そうだな。行くか……」
その後、ヘレンとフランクはロバートの元へと向かうことを目指した。
一方、ロバートとカイルはアタッカー隊と帝国軍の部隊と今なお戦闘を繰り広げていた。
「何て激しい攻撃なんだ……。ストライカー隊も援護に駆け付けたというが、それでもここまで苦戦させるなんて……。本当に勝てるのでしょうか」
“大丈夫だ。この戦いでも必ず勝てる”
「ならいいんですけどね……」
カイルは焦燥に駆られながらも機銃を撃ち続ける。
“ロバート大尉! あの肩の紋章……”
思わず驚嘆するカイル。そう、奴は予想通りここにいたのだ。
「ん? まさか、エルドラドか!?」
“あの白虎の紋章からして間違いないです……。部下の機体もいるようです”
「なら、俺が戦う!」
“俺も戦います!”
「いいぜ、カイル。共和国軍の本気ってヤツを見せてやろうぜ!」
“はい”
そして二人は、エルドラドとヴィラーガに立ち向かった。
カイルは真っ先にヴィラーガに向けてビームライフルで狙撃。
「喰らえェ!」
一筋の光線がヴィラーガの機体肩部を貫いた。しかし、この攻撃を喰らっても彼は怯まなかった。
「やるな……。今の攻撃、倍にして返してやる!」
ヴィラーガは両手に持ったバズーカで猛反撃を開始した。
「まずいッ!! ウワアァッ!」
カイルはシールドで咄嗟に防いだものの、この攻撃でその盾は破壊されてしまった。
「こいつめ……、もう一発くれてやる!」
素早い動作で腕を真っ直ぐに伸ばして機銃を撃ったカイル。
しかし、その攻撃は避けられてしまった。
「くっ……、何とか避けたはいいが、問題はその次だ……」
ヴィラーガが次の攻撃を出し渋っている隙に、カイルはビームソードで斬りかかった。
「来たか!! だが接近戦はいけるか……?」
迷いを見せながらも、ヴィラーガは切り返そうとする。
「させるかァッ!!」
「てやあァァァッ!!」
カイルの斬撃により、ヴィラーガは機体右腕部を切断される。
「しまった……」
「次は蹴りだ!」
さらに、カイルは敵機の胸部に蹴りを入れた。
「グワアァァァッ!! そんな馬鹿な……」
ヴィラーガはこの二段攻撃を喰らい反撃不能と察したのか、そのままこの戦地を後にした。
時を同じくして、ロバートとエルドラドは激しい砲撃戦を繰り広げていた。
「これを喰らえ!」
両手に握ったビームキャノンで上手く牽制を図るロバート。
これに思わずエルドラドは怯みかける。
「うぅッ……、こんな事で俺が負けるとでも? ワイヤークローで無理矢理接近させるか」
エルドラドは腕のワイヤークローを放ち、ロードブレイダーMk-Ⅱを無理矢理自分の元へ引き付ける。
「しまった! 罠にかかったか……」
「コックピットを焼き払うか……。ん!?」
エルドラドに後方から攻撃したのは、丁度合流したフランクとヘレンであった。
「ロバート大尉! 大丈夫ですか!?」
「フランク、ヘレン……、来てくれたのか。こんな事になるとは情けない……」
“いいんですよ。今まで自分たちは大尉に助けられてばかりだったので、今度は我々がロバート大尉を助ける番かと思いまして……”
“私もフランク少尉と同じです。では、反撃と行きましょうか”
「そうだな。このワイヤークローはこれで……」
エルドラドが怯んでいる隙に、ロバートはビームソードでワイヤーを焼き切った。
「これで一発!」
フランクはビームライフルでエルドラドを狙い撃った。
これにエルドラドは居ても立っても居られず、フランクに反撃を試みるが、別方向からロバートが斬りかかり、ヘレンは狙撃を図った。
「これでどうだッ!」
「まだ終わらないわ! もう一発!」
ロバートの斬撃で右腕を、ヘレンの狙撃で左腕を破壊されたエルドラドはこのまま撤収を余儀なくされた。
その後戦闘は終了し、発電所は無傷の状態のまま守り抜く事が出来た。
戦いを終え、プログレッサー隊の四人は談話室で缶コーヒーを飲んでいた。
「はぁ、しかし戦いが終わってから飲むコーヒーは美味いねぇ」
カイルは薄っすらと笑みを浮かべながらコーヒーを味わう。
「あの、フランク少尉……」
「どうした、ヘレン」
「先程はサポートして下さりありがとうございます」
ヘレンは優しい表情で敬礼をした。
「あぁ、あの時か。あのまま立ってるだけじゃいけないと思ってな。どういたしまして」
「は、はい……。この事もあって、私は少尉の事が好きになりました……」
顔を赤らめながら話すヘレン。そのいきなりの言葉にフランクは思わず驚嘆する。
「えっ……!? え……」
「あっ、いや……、あくまで上司として好きなのであって、そういうのじゃないんです……」
より一層顔を赤くするヘレン。完全に嘘がばれているようだった。
「本当かぁ? 俺にはとてもそうには見えなかったけどなぁ」
カイルはニヤニヤしながらヘレンの顔を見る。
「おいおい、カイル。人をそうからかうもんじゃないぞ」
「ロバート大尉、すみません……」
「ともかく、お互いの信頼関係をさらに築き上げていくのは良い事だ。これからも同じ隊の同士としてよろしく頼むぞ」
「はい!」
にぎやかな空気が漂うこの部屋。
しかし、いつまでもこの平和なひと時が続くとは限らない。彼らも、その事を心の内で理解しているだろう。




