第8話 イアンの猛攻
6月30日、ファルスト連合国軍では総合訓練が行われていた。
その中でバスター隊はフェンシング剣術訓練に汗を流しており、そこで大きな成長を見せたのがイアンである。
彼は以前の戦いでの敗北を誰よりも悔しく思い、敵軍を倒すべく、必死にコツコツと剣術の腕を磨き続けていたのだ。
「イアン少佐……、今までより動きにキレが出ている……。剣を突くスピードも段違いだ」
アッシュはイアンの動きの素早さに感嘆していた。
「ここだッ!!」
イアンの攻撃は対戦相手の胸に当たり、見事訓練で好成績を修めた。
「やはりバスター隊のイアン少佐からはただならぬ気配を感じる……。何といえばいいんだ……」
対戦相手は彼の凄まじい戦闘力に圧倒されるばかりである。
その次にイアン達は射撃訓練を行い、そこではアッシュやスティーブが奮闘していた。
黙々と静かにターゲットを狙い撃つアッシュ。
それとは対照的にスティーブは自らの心を燃やしながら必死にターゲットを確実に仕留めていく。
「そこだ、そこだッ!」
「ちょっと、少し静かにしてくれないかしら?」
どこか苛立っているように見えるベティ。
それを見てスティーブは思わず少し萎縮した。
「すみません……、ベティ大尉……」
反省しつつも、的確に的を狙い撃つスティーブ。
ベティと少し会話をしながら射撃を行ったにも関わらず、命中率は90%台であった。
この結果を見て、イアンは感心した。
「スティーブ、なかなかやるな。入隊当時よりも遥かに腕を上げたみたいだが……、問題はこれを実戦で生かせるかどうかだ。期待しているぞ……」
「はいッ!」
嬉しさに満ちた面貌で敬礼をするスティーブ。
彼はさらに訓練に励むことを心の中で誓った。
「アッシュ、お前も訓練での成績がいいようだが、調子に乗ってこの力の使い方を誤るなよ……」
「了解……」
アッシュは、澄ました表情で頷く。
そして、最後に行ったのは戦略訓練である。
ここで成長を見せたのはベティ。ビジョンに映し出された地図や敵軍の配置を元に、どのように攻撃を仕掛けていくかがこの訓練を成功させる鍵となる。
その透明なビジョンにはグリッド線が引かれており、まさしくその見た目はチェスの盤面のようであった。
「ここではT陣形で戦わせて、三方向から攻めていくかしら……。航空戦力に関しては対空ビーム砲があるからこれでフォローするとして……」
ベティは装備の調整や行動パターンの分析を何度も行ってから、ようやく模擬戦闘を開始した。
今回の戦況では味方側の戦力が少なく、武装もかなり限られていた。
そんな中で彼女は武装や戦法を取捨選択して模擬戦闘に挑む。
“模擬戦闘ヲ開始シマス。攻撃開始”
「さぁ、頼んだわよ……」
彼女は大胆不敵に笑みを浮かべた。
それだけ今回考えた自分の戦法に自信があるのだろうか。
“敵軍第1機動部隊、殲滅完了シマシタ”
「ほう、ベティもなかなかやるな……」
待機中にその様子を見ていたイアンは、ベティの活躍に驚きつつも、彼女の実力を認めていた。
“敵軍第3機動部隊、殲滅完了シマシタ”
「やるな、ベティ……」
「僕も驚きました……。流石ベティ大尉……」
アッシュとスティーブも彼女がなかなかのやり手であると確信する。
“敵軍第2機動部隊、殲滅完了シマシタ。模擬戦闘ハ終了デス”
「やったわ! フフッ……」
彼女は軽く微笑む。模擬戦闘で勝った喜びを一人で噛み締めていた。
「ベティ、かなりの腕前で見ていて驚いたよ。凄まじい技量だ……。これからはお前に作戦内容を練るのを任せてもいいかもな」
「ありがとうございます、イアン少佐」
こうして、数分後に総合訓練は終了し、バスター隊の成長ぶりを見せつけたいい機会であった。
その一方、ジュピトリア共和国軍・プログレッサー隊の四人は機体の改造に勤しんでいた。
「コイツを胸の部分に装備するか……。この装甲板を胸の方に取り付けて……、っと」
カイルはロボットアームの操作を行って、自分の機体胸部に装甲板を増設するために溶接の作業を行うことにする。
巨大なアームを自由自在に操り、上手く接合していく。
「大尉、この機体の出力を強化するって本当ですか? 今のままでも十分強力だと思いますが……」
「ヘレン、それは違うな。これからの戦いでは、より強力な敵が現れるかもしれないんだ……。もしかしたら、俺が以前戦ったエルドラド以上の実力者が台頭してくることだって十分有り得る訳なんだ。だからこそ、機体の強化は定期的にやらないとな……」
ロバートは、以前まで使っていたジェネレーターを外し、それとは別の新しい部品に取り替えた。
「フランク、スラスターを取り替えたいそうだが……、どれを選ぶ? 俺のお薦めは、このS209って奴だ。このスラスターは使い勝手も良いし、スピードも今使っている奴より1.2倍ほど速くなるぞ」
「バンさんがそう言うなら、これを取り付けてみます」
フランクは、ロボットアームを用いて背面のスラスターを新型に差し替える。
そして早速、彼は機体のエンジンを吹かす。
「ちょっと触っただけでも分かる……。これは良いものだな……」
彼はどこか満足そうな表情であった。
︙
そして、機体の強化を終えたロバートとカイルは談話室で休む。
ロバートは何か言いたそうな表情をしていたため、カイルはその様子がどうしても気になり、何を考えているのかについて話しかけた。
「大尉、何やら悩んでいそうですが……」
カイルはそっと彼の顔を覗き込む。
「あぁ、まぁそうなんだけどな……。俺はこれからより強くなれるか心配でな……」
不安そうな表情を見せるロバート。その様子にカイルは驚いていた。
「大尉、あなたは今でも十分強いじゃないですか……。それなのに、何故そんなことを言うんです?」
「そりゃあ、これから俺以上の実力を持つ敵が現れたりしたらどうしようもないからな……。そのためにも、俺は今以上に強くならざるを得ない訳なのさ」
「そうですか…。大尉がそう言うのであれば…」
カイルはロバートのことをじっと見つめる。
「俺は自主訓練をこれからやるんでな……。また後で会おう」
「はい。じゃあまた……」
ロバートは軽く手を振ってから談話室を去っていった。
一方で、ヘレンはコンピュータルームで今までの戦闘データを整理していた。
「先日の戦いでは……、このようにこなしていたわけですが」
彼女が作業に集中していると、突然誰かがドアを叩く音が聞こえてきた。
「誰かしら……?」
“ヘレン、入っていいか?”
「フランク少尉でしたか……。入っていいですよ」
部屋に入って来て早々、フランクはヘレンの事を心配そうに見つめた。
「ヘレン、疲れているようだな……。あまり無理をすると体調を崩すぞ」
「はい……。お気遣いいただきありがとうございます」
彼女は優しく微笑む。フランクの優しさ故に思わず顔が穏やかな表情になったのだろうか。
「俺も手伝おう……。これほど膨大なデータを一人でやるのは大変だろう」
「えっ……、それは私の仕事ですから」
「大丈夫だ……。時には甘えることも必要だぞ」
その時の彼はかなり優しい面貌であった。
「じゃあ、分かりました……。こちらのデータ区画の箇所をお願いします……」
「いいだろう。これを整理すればいいのか」
フランクはもう一つのフラッシュメモリを別のコンピュータに挿して作業を始めた。
その時のヘレンの表情は、どこか安堵しているように見えた。
それから翌日、イアンは前々から考えていたジュピトリア共和国の保有する巨大発電所を襲撃するという作戦のための会議を行っていた。
また、本作戦ではイアン率いるバスター隊だけでなく、他の若き兵士達も参加することとなっている。
「今回の作戦では、ジュピトリア共和国全区域の電力を供給する発電所を狙う。発電所に向かうための輸送機は、民間機に偽装させるつもりだ。それと、ここは守りの薄いエリアだとのことだが、一応ここにも護衛部隊はいると聞いているので、油断は禁物だ。それと、本作戦では大型粒子砲を用いて施設を破壊する。これが成功すればジュピトリアの電力供給は困難になるどころか、他国にすがりついてでも電力供給をせざるを得なくなる訳だ」
「イアン少佐、今回はどういった陣形で挑むつもりですか?」
アッシュは興味深そうな表情でイアンの表情を窺う。
「まずはV陣形で一斉掃射を行うつもりでいるが、状況次第では全部隊での挟撃に移行するだろう。ひとまず戦力は少ないという情報は入っているから、そこまで心配することは無いだろう」
「分かりました」
「それと、大型粒子砲の残弾が切れたら通常の武装で立ち向かうつもりでいる。ビームライフルで敵を牽制しつつ、ある程度傷を負わせたら少しずつ近づいて、斬撃してトドメを刺す」
「了解です。では、作戦実行日についてお教えいただけますか」
「作戦実行日は7月3日。この日までにいつでも戦えるようにしておけ。では、作戦会議は終了だ。あとは準備をするのみ。頼んだぞ」
「了解!」
こうして、秘密裏に一大計画は動き出す。
まるで草の影で獲物を追って蠢く蛇のように。
そして、ついに作戦実行日となり、ファルスト連合国軍の機動部隊はジュピトリア共和国住居エリアの裏にある巨大発電所へと向かった。
共和国軍は民間機が自国の発電所上空を飛んでいたことに不自然さを覚えたものがいたが、特に動くことはなかった。
これが思いもよらない事態の元凶になるとは、誰が思っただろうか。
連合国軍は発電所の上空に着いて早々、輸送機のカタパルトから大型粒子砲を用いて攻撃を開始。
惨劇は始まった。
「何だ!? 連合国軍のアゾムが来ただと!? あれは民間機のはずじゃ……。ひとまず、あの機動部隊からこの発電所を守るんだ! 早く護衛部隊は出撃してくれ」
“了解”
こうして、発電所の護衛部隊と連合国軍機動部隊との交戦が開始された。
しかし、戦力面では共和国軍の護衛部隊が目に見えて劣っている。
「いくらここまでデカい発電所でも、これなら一瞬で破壊出来る。喰らえェッ!」
イアン達の持つ大型粒子砲が火を噴く。
「何て火力だ……。ウワアァァッ!!」
この攻撃に護衛部隊は成す術もなく撃破された。
しかし、残っていた発電所の所長が共和国軍にSOSのメッセージを送ったことにより、どうにか発電所が破壊される前に連合国軍を対処出来そうになる。
緊急指令で招集された共和国軍は、すぐさま作戦を立てたうえで仲間たちにその内容を伝え、戦闘態勢に入る。
プログレッサー隊は、アタッカー隊と共同で作戦を行うこととなった。
本作戦では集中砲火で敵部隊を殲滅し、それでも撃ち漏らした敵がいれば即刻接近戦で撃墜するという。
ロバート達は真っ先に銃火器で遠方から攻撃を仕掛けてくる敵に砲撃を浴びせる。
「これでも喰らえ!」
その中で、ロバートはパワードキャノンを使って遠方の敵を手当たり次第に片付けていった。
連合国軍はそれでもめげずに敵の十字砲火の隙間を縫って、発電所の施設を破壊していく。
「まずい! 電気生成用のエネルギータンクがいくつか破壊されています! アモン大佐、このままでは……」
“分かっている……。何としてもこの連中を片付けないとな……”
アモン達はこれ以上発電所に被害を与えないように、一斉掃射で敵を殲滅していくが、イアン達は怯まなかった。
バスター隊の攻撃はかなり激しく、なかなか撃墜には至らない。
そこでアモンは、思い切って接近戦に挑む。
彼は剣を構えて背面のスラスターを全開にする。
「これ以上やらせるかよォッ!!」
勢いをつけてベティの方へと突撃するアモン。
凄まじいスピードでベティの機体肩部に刃を突き刺し、彼女を戦闘不能にまで追い込んだ。
「くっ、少佐……、申し訳ありませんが私はこれ以上戦えません……。撤収します……」
そして、彼女は基地の方へと踵を返した。
その後、アタッカー隊はプログレッサー隊と合流し、ひたすら集中砲火を浴びせていく。
「やばい! パワードキャノンのエネルギーが切れたか」
パワードキャノンを捨てて二丁のビームキャノンを取り出し、ロバートは中距離戦に挑む。
「倒してやる! 何としても……」
スティーブは目を鋭くして大型粒子砲からビームを放つ。
「予備動作をよく見ておけばこれぐらい避けられる! 俺をなめてもらっちゃ困る……」
ロバートはスティーブの元へと少しずつ近づき、ビームキャノンを何度も連射する。
“機体右腕部及ビ胴部ノ主要回路ガ破壊サレマシタ。撤収シテ下サイ”
「そう言われたらどうしようもないな……。少佐、自分もこれ以上の戦闘が困難になりました。撤収させて貰います……」
“了解。後は任せろ……”
「力になれなくてすみません……」
“気にするな。後はアッシュと俺がやる”
そして、スティーブは戦地を去って行く。
一方、ヘレンはアッシュと過酷な砲撃戦を行っていた。
お互いに機体の状態は満身創痍。
いつどちらが撃墜されてもおかしくない状況下にあったのだ。
「うぅ……、シールドも使い物にならなくなって防御も出来ないんじゃ後が無いわ……」
ヘレンは腕を震わせながら操縦桿をしっかりと握った。
「奴め……、邪魔なんだよ!」
「やられはしないわ!!」
彼女の猛攻を喰らい、アッシュは機体の動作に支障をきたして命の危機を察したため、そのまま撤収した。
“ヘレン、大丈夫か!?”
「フランク少尉、気にしないで下さい……」
“一旦撤収した方がいいぞ……”
「分かりました……」
そして、ヘレンも撤収をやむなくされた。
一方、ロバートはイアンや別の部隊の三機の僚機を相手に戦闘を発電所上空で繰り広げていた。
「ここに……、一発!」
ロバートはビームキャノンから光線を放ち、敵を一機仕留めた。
そこからショルダーミサイルを放ち、二機撃墜する。
残すはイアンのみとなった。
「ロードブレイダーMk-Ⅱめ……。撃墜してやる!」
イアンはビームソードを取り出し、素早い突きでロバートを翻弄する。
「何てスピード……! これじゃやられる……」
「俺の剣舞に怯んだか!? そこだッ!」
イアンの剣の刃がMk-Ⅱの肩部を貫く。
そこからロバートは、負けじと接近戦で対応する。
「俺だって負けてはいられないんだ……、絶対に!」
素早く剣を振りかぶりながら、距離を詰めていくロバート。
しかし、イアンはその程度では怯まず、尚更その激しい攻防戦は長期化する一方であった。
“大尉、俺も援護します!”
「カイル! 頼んだぞ!」
カイルはビームライフルを用いて蒼白い光線を放つが、イアンはそれを上手く避ける。
しかし、ロバートはイアンの隙を突いて剣で機体右腕部を斬り落とした。
「なんと……、そんな……。やはりこの機体は只者じゃあないな…。撤収するか……」
そして、イアンは残存兵を率いてそのまま輸送機へと戻っていった。
こうして、突如として始まったこの戦いは共和国軍の勝利に終わった。
しかしながら、発電所の一部は破壊され、復旧作業を急がざるを得なかった。
被害を受けた分、電力供給量は減ったため、ジュピトリア共和国内では一時的に計画停電をしなければならなくなったのだ。
戦いが終わり、ロバートはベッドの上で眠ろうとしていたが、どうしても眠れなかった。
その理由は、まだ見ぬ敵がいるのではないかと気にしていたからである。
「俺はこれから……、戦い抜けるのか……。これからさらに強くならなければならないな……」
焦りを感じながらもどうにか眠ろうとしたが、その日はあまり寝付けなかったという。
果たして、ロバートの苦悩が消え去る時は来るのか。




