第十一話 カサブランカではキスはキス
香津美の持っている夢とは
海辺のそばに小さなレストランを持つことだった。
家族連れやカップル、
一人で食べに来ても
幸せな気分になれるそんなお店。
それが香津美の理想だった。
そんな事を考えていると幸せな気分になれる。
忙しい仕事を終えて
香津美は自分の部屋に入ると
映画を1本観ていた。
映画“カサブランカ”の
日本語吹替え版のDVDを観ている。
モノクロの映画の中に
たくさんのロマンスと
夢が満ち溢れている
そんな古き良き時代の映画だ。
「君の瞳に乾杯。」
その名セリフと
“時の過ぎ行くままに(AS TIME GOES BY)”の
テーマ曲も有名。
第二次大戦中のヨーロッパでは
新世界を求めて亡命をする。
ナチスドイツの占領下アフリカのフランス領
モロッコのカサブランカで出国ビザを求めて人々は
賄賂やコネを使って運に任せて
リスボンから新世界アメリカへ旅立とうとしていた。
しかし、対外は出国できず
カサブランカで足止めされていた。
ナチスドイツの占領下で
カサブランカもナチスの手中にあった。
ハンフリー・ボガードこと
ボギーが(役名リックが)
かつて愛した女性
イルザ(イングリット・バーグマン)が
夫で反ナチス抵抗運動の指導者ビクターと
一緒に新世界へ亡命しようと逃げて来た。
戦火のカサブランカで
最後は愛する女のために体を張って
恋人共々彼女を逃がしてやる
というストーリーだ。
1943年度アカデミー作品賞、
監督賞、脚色賞を受賞した作品。
この映画にでてくるボギーが経営する
Rick's Cafe Americain が香津美には
大のお気に入りだった。
「自分の店もあんな風に賑やかにしたいものだ。」
香津美はそう思っていた。
もっともカジノなどは
香津美には必要のないものだった。
香津美の部屋には
映画“カサブランカ”のポスターが貼ってある。
映画のボギーのように
白いタキシードを着る事など
ないかもしれないが、
リックのように愛する女を店で待っているのは
今の香津美にも出来る唯一のことだった。
この映画を観て曲を作っったという
バーティ・ヒギンズの
“カサブランカ”もお勧めの一曲だ。
「カサブランカではキスはキス」
というフレーズが何ともイカしているのだ。
一人リックは偶然再会した
イルザを自分の店で酒を飲みながら待っている。
「彼女はここに戻ってくる筈だ。」
そう言ってリックは店の
ピアニスト サムに
“時の過ぎ行くままに”を弾かせる。
昔のパリでの二人の思い出が映像になって甦る。
そして何度も出てくる
「君の瞳に乾杯!!」
リックはイルザに結婚しようと言う。
街では大砲の音が鳴り
ナチスドイツがパリの街に侵攻してきた。
「リック、もしあなたが捕ったら、
もし、もし離れ離れになったら
あなたがどこにいても
私はあなたのことを思いつづける。」
そう言い放つイングリット・バーグマンの顔
が真理奈の顔に重なる。
しかし雨の降る列車で待つリックの前に
イルザは現れなかった。
理由も告げずに彼のもとを去ったイルザ。
「あなたとは一緒にはいけない。」
そう書かれた手紙だけがあった。
裏切られた過去の出来事を
回想するリックの前にイルザは現れた。
会いたかったリックだが
二人は忘れていた過去のことで
ケンカをしてしまう。
少し香津美と
真理奈の話とは違ってはいるが、
香津美がリックのように
真理奈のことを
想って待っているというのは同じことだ。
カサブランカでは誰もが悩んでいる。
今の香津美と同じだ。
香津美もワイルド・ターキーを飲んで
思い出に浸っている。
真理奈の優しい顔、
その甘い言葉が少しだけ幸福な時を
蘇えらせてくれる。
優しさが思い出にかわる前に
香津美は酔いつぶれて眠ってしまった。
夢の中に流れるのはカサブランカ。
僕はカサブランカを
観ながら君に恋をした
ドライブインショーの後ろの列で
星空のきらめきの中
ポップコーンとコカ・コーラが
まるでシャンペンとキャビアのようだった
僕らは長い夏の夜に 愛を交わしたんだ
君も僕に恋をしていたんだね
カサブランカを観ながら
扇風機の下、
手を取り合い
ロウソクの灯ったリックの店で
スポットライトの影に隠れ
君の瞳にはモロッコの月が
映画の中の魔法をかけた
僕の古いシボレーの中で
カサブランカではキスはキス、
相変わらず
でも僕達のキスには
吐息がなくなってしまった
カサブランカの頃に戻ろうよ
君をますます愛していくんだ
時が経つままに
いくつもの愛が壊れたことだろう
カサブランカでは
行ったことがないから
よくはわからないけれど
大きな銀幕の中で
僕らの恋は終わってしまうのだろうか
もう映画を観ても傷つくだけ
君が行ってしまうのを見ていると
カサブランカではキスはキス
変わりはしない
でも君はキスしても吐息を残さない
カサブランカのように待っているよ
ますます君が恋しくなってゆく
時が経つにつれて
カサブランカではキスはキス ま
だ変わっちゃいない
でも君はもう吐息を漏らさない
カサブランカの中で待っているよ
ますます君が恋しくなってゆくんだ
時が経つままに
君がますます恋しくなるんだ
時が経つにつれて




