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EP2:「聖核の代償! 絶望のコンビニエンス・ストア」:[LOG_BATTERY]

「――足りない? 十一体目が、いない? 嘘だろ……。たった一個の聖核バッテリーの欠落が、世界の救済を拒むというのか……ッ!」



掌の中で、スマートフォンが微かに熱を帯びている。


画面に表示された『配達完了』の四文字。


それは、社会的に死んだはずの僕に届けられた、唯一の救済の灯火だった。


「……愚かな僕を、どうかお許しください。今、必ずや迎えに上がります」


僕は震える手で涙を拭い、止まっていた思考回路を再起動させる。


絶望に浸っている暇なんて、一秒だってもったいない。


──ピン・ポ〜ン!


空気を震わせる二度目のチャイム。


その音は、僕の魂に高電圧の電流を流し込むトリガーとなった。


僕は本日二度目のレコードを樹立するために、再び玄関へと駆け出した。


当然の如く本日二度目のレコードを爆誕させた。


「すいませーん、何方かいらっしゃいませんかぁ〜?」


宅配業者の兄さんの声。僕は朝と同様に、玄関先で土下座の状態で答えた。


「ど、どうぞ……お入りください」


「……し、失礼します。サ、サインをお願いします.....音無さ.....ん」


明らかに困惑する兄さんに、僕は丁寧に実印コントラクトを押し、”ソノ”荷物を両手で受け取った。


箱から溢れ出す神々しさに直視できず、僕は思わず目を閉じる。


恐る恐る薄目で確認したその箱には、聖域を示す紋章が刻印されていた。


――『BANDAI《聖域》』。


神を運びし配達員ヘルメスに、感謝ばかりのレッドブルを献上し、丁重にお引き取りいただいた。


彼もまた、ひと時とはいえ神と共に過ごした至福の時間に精神をすり減らしたに違いない。


僕は神が眠るその箱舟を慎重に携え、少しの振動で爆発する時限爆弾を抱えるように、一段、一段、階段を昇った。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


ようやく自分の部屋に辿り着いた。


時間を超越したかのような、長く、神聖な道のりだった。


いよいよだ。僕がこの日をどれほど待ち望んだか。


「神様、それではご開帳させていただきます」


僕は段ボールに貼られた透明のテープを、カッターで慎重に裂いていく。


まるで、初めてメスを握る新人の外科医師のような、極限のぎこちなさだった。


不格好だっていい。御神体に、”キズ”さえつかなければ。


「はぁー、はぁー, はぁー。……ダメだ、緊張しすぎてカッターの刃が進まない。それに……息をするのを忘れてた」


しっかりしろ、俺。僕は自分の頬を力いっぱい引っ叩いた。


神が与えし試練に動揺してどうする。深呼吸を一つ。そして、再び箱舟に向き合う。


カッターの刃を滑らせた、その瞬間だった。


「かい〜っ、部屋にいるのぉ〜? 海の好きなケーキ買ってきたわよー!」


買い物から帰ってきた母の声。驚愕が肩を突き上げ、一瞬、指先に力が籠もる。


『ブスっ……』


刃先から伝わる、何とも表現し難い、肉薄するような感触。


心拍数が一気に跳ね上がり、顔面から血の気が引くのが分かった。


何度見ても、カッターの刃は明らかに表面から数センチ、深く入り込んでいた。


(終わった。……今日、この瞬間に、僕のすべてが……)


放心状態で座り込み、そしてハッと我に返った。


あろうことか、御神体にキズを付けてしまった。一刻も早く、神を救い出さなければ。


震える手で蓋を開ける。……何とそこには、もう一枚、厚手の段ボール板が挟まれていた。


おそらく、開封時にキズをつけないようにというメーカーなりの配慮なのだろう。


「……よ、よかったぁ〜……」


心の底から沸いた言葉だった。ホッ!


安堵と同時に張り詰めた緊張からの解放。


『BANDAI』さん、ありがとうございます。


御社の細やかな心配りと、御神体に対する敬意に、心から感謝します。


日本の企業努力への驚嘆と共に、一生ついていくと本気で誓った。


方舟の中から現れたのは、『CSMファイズギア&ファイズアクセル Ver.2』。


「……ハァ、ハァ……。神を待たせてはいけない。一刻も早く、御神体に『聖核せいかく』を捧げなくては」


僕は引き出しから「聖なる動力源」を探る。


「ええと、必要な聖核の数は……」


教典マニュアルを片手に確認する。ファイズドライバー、フォン、ショット……。


必要な小位聖核(単4電池)は合計11体。


僕は震える指で、引き出しに並んだ聖核を数えた。


「1、2……8、9、10……。……っ?」


もう一度数える。10。何度数えても、10。


その瞬間、僕の世界から音が消えた。心臓の鼓動が、鉛のように重く、冷たく、停止していく感覚。


「11体目……が、いないっ……?」


膝から力が抜け、床に崩れ落ちる。目の前には銀色に輝く至高の神器。


だが、心臓バッテリーが一つ足りないだけで、それは沈黙を続けるただの「造形物」に成り下がる。


たった一本。市価にして数十円。


その僅かな欠落が、僕から「正義」を、救いを、明日を奪い去った。


「ウォォッ……! 嘘だろ……! 僕としたことが、聖域の維持に必要なコストを見誤るなんて……ッ!!」


顔面蒼白。絶望の淵で、僕は必死に思考を繋ぎ止める。そして、すぐに思考を切り替える。


神に選ばれし僕がこの程度で狼狽えてどうする。


下界(1階)へ降り、予備を徴収すれば済む話だ。下界に予備の聖核があるはずだ。


僕は這い上がるようにして階段を駆け下りた。


「ねぇ、母さん。聖核――電池ってどこにしまってたっけ?」


必死さを隠し、余裕を演じて聞く僕に、母は無情な宣告を下した。


「ごめん、海。珍しくお父さんが、会社で使うからって電池を全部持ってったわ。帰りに買って帰るって言ってたわよ」


「エェッ!? じゃあ今、この家に電池はないの!? 帰りじゃ間に合わないよ、今すぐ必要なんだ!」


「ないものはないのよ。ごめんなさいね」


崩れ落ちる僕。母に罪はない。だが、この「何もなき」という現実は、僕の魂を切り裂くには十分だった。


数秒前までの余裕は霧散し、僕は再び顔面蒼白となった。


「わかった、コンビニ行ってくる。車借りるね!」


僕は聖地として崇めている近所のコンビニへ車を走らせた。


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