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投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚~【Web版本編・200万PV感謝!】  作者: 塩野さち


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第346話 牛さん、列車で運ばれる ついでに私も運ばれた

【ノヴァラ女王ニア視点】


『アヴァロン帝国歴180年 5月15日 ノヴァラ公国・帝国国境付近 晴れ』


「な、な、なんということじゃ……!」


 私は、わなわなと震える手で、その薄っぺらい紙切れを握りしめていた。

 国境近くの交易所。そこには、我が国が誇る精鋭部隊ならぬ、精鋭牛部隊(五百頭)が、次々と鉄の箱――貨車と呼ばれるもの――に詰め込まれていく光景があった。


 そして、その対価として渡されたのが、この紙切れだ。


「牛さんが……手塩にかけて育てた牛さんたちが、こんな紙切れと交換されてしもうた……! これは詐欺ではないか!? ハーグの連中は、我らを謀ったのか!?」


 私はあわあわと慌てふためくばかりだ。

 牛は財産だ。肉であり、皮であり、労働力だ。それが、燃やせば一瞬で灰になる紙になるなど、あってはならない。


 しかし、私の周りにいる交易担当の文官たちは、なぜか狂喜乱舞していた。


「す、すげえ……! こんな高レートで買い取ってくれるなんて!」

「ハーグの相場は素晴らしいぞ!」

「これで当面の国家予算は安泰だ!」


 彼らの喜びように、私は首を傾げた。

 私は、手元の紙幣をまじまじと見る。

『百帝国マルク』と書かれたその紙には、どこか神経質そうな、しかし気品のある男性の横顔が精密に印刷されていた。


「こ、この顔は誰じゃ?」


 私が呟くと、傍らに控えていた交易担当官のガストンが進み出た。


「それは、アヴァロン帝国の先代皇帝、『ユリアン』陛下ですな。現在のライル皇帝の前に、あの国を治めていた方です」


「ふむ、先代皇帝か。……して、ガストンよ。この紙切れ一枚に、どれほどの価値があるというのじゃ?」


 ガストンは、眼鏡の位置を直しながら、興奮気味に鼻息を荒くした。


「ニア様、驚かないでくださいよ。これ一枚で、あのハーグ製の美味しい缶詰が、およそ百個は買えます!」


「なっ……!?」


 私は思わずのけぞった。


「百個じゃと!? あの、ほっぺたが落ちるほど美味い肉の缶詰が、これ一枚で山ほど……!?」


「左様でございます。しかも、この札束の厚みをご覧ください。これだけの資金があれば、最新の採掘機械も、冬越しの食料も、全て揃います!」


 ガストンの説明に、私の目から鱗が落ちた。

 この紙切れは、紙であって紙ではない。ハーグという国の信用そのものなのだ。


「むむむ、そうと分かれば、こうしてはおれん! 善は急げじゃ! 私たちもこの列車とやらに乗り込んで、ハーグまで行くじょ! ……あっ、かんだ!」


 あまりの衝撃と興奮に、大事なところで舌を噛んでしまった。

 周囲の家臣や、護衛の兵士たちから「ぷっ」と苦笑いが漏れる。

 

「わ、笑うでない! 行くぞ、準備じゃ!」


 私が顔を赤くして号令をかけると、ちょうど牛さんたちを載せた貨物列車が、煙を上げて出発するところだった。

 北へと運ばれていく牛たちに、私は心の中で手を振った。達者でな、美味しいお肉になるのだぞ。


 そして、それと入れ替わるようにして、ホームに滑り込んできたのは、牛用とは似ても似つかない車両だった。

 ピカピカに磨き上げられた黒い車体。窓にはガラスがはめ込まれ、金色の装飾が施されている。

 いかにも高級そうな、人を乗せるための列車だ。


 プシューッ、と蒸気を吐いて扉が開くと、中から一人の女性が降りてきた。

 きっちりとしたスーツを着こなした、知的な女性。以前、通訳としてノヴァラに来たことがある顔だ。


「お久しぶりでございます、ニア女王陛下。アヴァロン帝国通訳官のクララです」


 クララは優雅に一礼した。


「ライル陛下より、皆様をハーグまでご案内するようにと仰せつかっております。どうぞ、こちらの貴賓車へ」


「う、うむ! よろしく頼むぞ、クララ!」


 私は案内されるまま、恐る恐る鉄の箱の中へと足を踏み入れた。

 中は驚くほど広かった。ふかふかのソファに、美しい絨毯。テーブルには見たこともない果物が並んでいる。


「こ、これは……城が走るようなものじゃな……」


 私がソファに深々と腰を下ろすと、ガタン、と軽い衝撃と共に列車が動き出した。


 ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。


 窓の外の景色が、馬で駆けるよりも速く後ろへと流れていく。

 最初は緊張していた私だったが、規則正しく響くレールの振動は、まるでゆりかごのようだった。


「ふわぁ……。なんだか、心地よいのう……」


 連日の心労と、旅の疲れ、そしてお腹いっぱいになるほどの安心感。

 それらが一気に押し寄せてきて、私のまぶたは鉛のように重くなった。


 ガタン、ゴトン……。


 私は、流れる景色を見つめながら、いつしか深い眠りへと落ちていったのだった。


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