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22、炎の魔女ミランダ

 それから、数日が経過した。


 カシスは、王女や王子から聞いた衝撃的な話を頭の中で整理できず、冒険者ギルドへ足を運ぶことができなかった。


(たった3年だなんて……)


 王女ファファリアの朝食の付き添いの後は、これまでと同じように、カシスは専用の執事室にこもっていた。だが、王立大学校の入学準備の勉強も手につかない。


 カタッ!


 立て掛けてあった剣が倒れた音で、カシスはハッとした。Aランク冒険者のラークにもらった高そうな剣。早くシルバーカードになってお礼をする、と約束したことを思い出した。


(行かなきゃ……)


 カシスは、冒険者風の服に着替え、短剣だけを装備して、執事室を出た。




 ◇◇◇



「こないだの兄さんか。今日は休みなのかい?」


(ん? 誰?)


 冒険者ギルドの前で、中年の男に声をかけられ、カシスは首を傾げた。


「申し訳ありません。どちら様でしょうか」


「あはは、だよな。俺は、ラークっていうんだ。ペール村の村長の息子だよ」


(また、ラークさん)


「ペール村の人でしたか。あの後は、野生ウサギは大丈夫ですか」


「大丈夫だ。俺達も、剣を学ぼうと思ってな。村の若い者と一緒に、冒険者登録に来たんだ」


「冒険者に?」


「あぁ、さっき、兄さん達のことを、担当の職員から聞いて、驚いていたとこだ」


(何か、バレた?)


「驚くようなことなど、ありましたか?」


「あぁ、Aランクの人が強いのはわかるが、兄さんは、あれが初ミッションだったんだよな。さすが王家の使用人は違うなと驚いたよ」


 カシスは、女だとバレたわけではないことに、ホッとしつつ、男に見えるのかと苦笑いを浮かべた。


「あの、そのことはあまり……」


「そうだよな、すまん。たった二人で完璧な仕事をしてくれたから、俺達は、兄さんも高位ランクだと思ってたんだ。でも同じ新人だとわかったから、兄さんに負けないように、頑張るよ。剣の講習会も受けることにしたんだ」


「そうですか。お互いに頑張りましょう」


 カシスは、軽く会釈をして、ギルドの中へと入った。



 ◇◇◇



「夕方までの王都での仕事はありますか」


 受注カウンターに並び、赤茶色のカードを出すと、明らかに職員の態度が、以前とは違った。


「ゴミ集めならあるよ」


「では、それを受けます」


 職員は無表情で手続きを進めると、カシスに地図と手袋とバケツを渡した。


「この線の通りにゴミを拾って、丸印の場所に持って行ってください。終了報告は、丸印の場所にいる職員へお願いします」


 カシスが返事をする前に、もう職員は離れていく。


(感じ悪いわね)


 前回は、Aランク冒険者のラークが一緒だったから、あんなに対応が良かったのだと、カシスは理解した。



 カシスは、また終焉のことを考え、気分が沈んでいた。それと同時に、あと3年で全員が死んでしまうことは、絶対に他言してはいけないと感じていた。


 さっき会ったペール村の人は、希望に満ちた表情をしていた。冒険者ギルドの中にいる人達も、活気がある。終焉のことを知ると、誰もが生きる希望を失うのではないかと、カシスは思った。ましてや、身体に異変の表れた人は、次の転生はない。自暴自棄になる者も現れるだろう。



 そんなことを考えながら、地図に従ってゴミを集めて歩いていくと、丸印の場所にたどり着いた。終了報告を兼ねているためか、行列ができている。


(執事さん?)


 カシスと同じようにゴミ集めのバケツを持つ、若い黒服が、不安そうにキョロキョロしながら、列に並んだ。


(初ミッションかな?)


 カシスがすぐ後ろに並ぶと、不安そうな黒服がカシスの顔をチラチラと見ている。だが、話しかけてくるわけでもなく、ソワソワしているだけだ。


(あっ、女の子?)


 執事の黒服を身につけているが、その表情も体つきも女性っぽいと、カシスは感じた。



「あの、どこかの執事さんですか?」


 カシスがそう声をかけると、パッと振り返り、コクコクと頷いた。だが声を出さない。


「私も同じなんですよ」


 カシスは、男装しているという意味も含めて、そう言ったつもりだったが……。


「え〜っ! お兄さんも、新人執事だからシルバーカードにしないとダメって言われて、冒険者ギルドに放り込まれたんですかぁ? あっ、私、その、お兄さんとは違って女なので、その……」


(お兄さん……)


「どこかの学校に入学されるお嬢様の護衛をされるのでしょうか。男装した執事は少なくないと聞いてますが」


「あ〜ん! そうなんですぅ〜。私、秋から王立大学校に通われるお嬢様の護衛で、入学させられるんですぅ。王立大学校なんて、無理なんですぅ。私、前世はそれなりの貴族だったのに、王立大学校の試験に落ちたんですよぉ」


 カシスの腕をガシッとつかみ、泣きそうな顔をしている男装執事に、カシスは戸惑っていた。


「私も、秋から王立大学校に通います。お嬢様の護衛で入学させてもらうことになったので……」


「むむ? そうなんですね! わーい、私と、お友達になってくださ〜い。私は、ミランダと申します!」


(えっ!? ミランダ……)


 ミランダという名前は、乙女ゲーム『創世のループ』では、『終焉の書』に登場する魔女の一人だ。王宮に炎を放ったのが、炎の魔女ミランダだったことを、カシスは思い出した。


 男装しているが、その燃えるような赤い髪と赤い瞳は、炎の魔女の特徴と合致する。


「あ、あの〜? 私が厚かましかったですかぁ? でもでも、お友達になって欲しいですぅ。お名前を教えていただけますぅ?」


(この媚びた目は、間違いない!)


 カシスは、冷静を装って、やわらかな笑みを浮かべる。


「失礼しました。私は、カシスと申します。よろしくお願いしますね。あっ、ミランダさんの順番ですよ」


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