21、仲良し兄妹が告げた衝撃の事実
「惹かれたというか、尊敬できる冒険者さんだと思いましたよ」
カシスは、王女ファファリアのキラッキラな目を直視できず、テーブルの上に置いたクッキーの小皿の位置を直しながら、そう返答した。
「カシスっ、私の目を見て答えなさい」
「えっ? あ、えっと、今、申し上げた通りです」
王女は、スグリット王子の方を見ると、また互いに頷き合っている。
「カシスは、自分のことがわかってないのね。今まで、そんな顔をしたことはないわ。男装していても、恋する女の子にしか見えないわよ」
「いえ、そんなことは……」
(ダメだわ。二人のペースにハマったかも)
カシスは、自分の顔をジッと見る4つのキラッキラな目に耐えられなくなっていた。
「ファファリア、カシスは新規転生者だから、自分が話したことの意味が、わかってないんじゃないか?」
「そうですわね。カシスは素直すぎるから、丸わかりですものね」
兄妹がイチャイチャしているように見えるカシス。普段なら、微笑ましい光景だが、今回は自分が話題の中心になっているため、落ち着かない。
「私が、失言をしたのでしょうか?」
「ファファリアに、転移魔法陣の使用権限のある冒険者がサポートを引き受けてくれた、と言ったんだよな?」
「はい、そう報告しました」
「それがおかしいんだよ。転移魔法陣の使用権限は、Aランクから認められるが、王都にいるAランク冒険者は、新人冒険者のサポートのために、その権限を使うことはないからな」
スグリット王子にそう指摘され、カシスは、疑われているのだと考えた。
「私は嘘はついていませんが……」
「そんなことは、わかってる。俺が言いたいのは、わざわざ新人冒険者のために、月に3回という回数制限のある転移魔法陣の使用権限を使うAランク冒険者の目的だよ」
「あっ、私が王宮務めの執事だということは、ご存知だから、それが目的ではないでしょうか」
「ちょっと、カシス! まさか、男だと偽っていたの?」
王女は、クワッと目を見開いている。
「えっと、偽ったというか、昨日、大通りで助けてくれた冒険者さんなので、私のジャケットの刺繍から、王宮務めの執事だと知られていて……」
(相談が始まったわ)
兄妹は、コソコソと何かを話し始めた。カシスは聞かないようにしているが、この距離では少し聞こえてしまう。
「カシス、そのAランク冒険者は、どこかのパーティに所属しているのか?」
スグリット王子にそう尋ねられ、カシスは首を傾げた。
「パーティに参加ではなくて、所属ですか?」
「カシスっ、宴会のことではないわ。冒険者グループという意味よ」
「なるほど。えーっと?」
カシスは、言葉が続かない。
「ファファリア、こんな調子じゃダメだぞ。せっかくのチャンスなのに、カシスは、あまりにもボーっとしてる」
「そうですわね! もうすぐ始まってしまうというのに、これではダメですわ」
(何が始まるの?)
カシスは、二人のやり取りが全くわからなくなってきた。同じテーブルを囲んで座っているため、立ち去るような非礼もできない。
「ファファリア様、何が始まるのですか?」
「カシスの恋よ!」
(えっ……)
「ファファリア、違うだろ。それは、もう始まっている」
「ハッ! 間違えましたわ」
(ふふっ、仲良しね)
二人は、ケラケラと笑っている。カシスは、このまま話題が逸れると考えていた。だが……。
「カシス、もうすぐ終焉のストーリーが始まるわ。だから、今しかないのよ。すぐに告白しなさい!」
「ストーリー? あ、乙女ゲームの……」
「ええ。今は、『転換の書』が終わった後の、何もない時期なの。いえ、もう『終焉の書』が始まっているかもしれないわ」
カシスは一気に不安を感じた。乙女ゲーム『創世のループ』では、『終焉の書』はバッドエンドだ。この王宮が炎に包まれる。
(でも、現実とは違うわ)
「ファファリア様、『創世のループ』はゲームですよね? 三部作のシナリオ集のような物が……」
「この世界では現実よ。カシスの前世は、遠い未来だと教えたでしょ。この異常なループ世界を題材にしてあるのよ」
「じゃあ、終焉のストーリー通りに……」
(嘘……)
「ループ世界のことは、理解しているか? 俺が持つ記憶の中には、終焉はないんだ。だがファファリアは、終焉を見ている」
二人の楽しげな雰囲気は消え、スグリット王子の表情から、子供っぽさが消えた。
「前世の記憶を持って生まれるというループでしょうか」
「俺達の記憶が二つある話をしたよな。魂はループする。そして、世界もループしていると思うんだ」
(ループって繰り返しのことよね?)
「世界がループするという意味がわかりません。繰り返すという意味ではなく、別の意味でしょうか」
「繰り返しで合っている。今の俺は、『転換の書』の世界しか記憶していないが……」
スグリット王子は、そこで言葉を止めた。
「お兄様、私から話すわ。カシス、終焉のストーリーはバッドエンドよね? その期間は3年しかない。つまり、3年後にはこの世界の全員が、終焉で死ぬことになるのよ」
「世界が終わるのですか? あ、でもそれをご存知だということは、過去に遡って転生するのですね」
「カシスは、そうなるわね。だけど、私やお兄様は、終焉で消えることになるの」
「えっ!? なぜ、私だけが……」
「私やお兄様の身体に異変が表れたのは、魂の転生が終わる合図みたいなものよ。二つの記憶を持つ者の魂は、死ぬと消滅するわ。あっ、このことは他言してはいけないわよ?」
「は、はい。たった3年……あの、どうすれば……」
カシスはそう尋ねたが、王女は首を横に振った。
「前世の私は、ストーリーに逆らったけど、結果的には何も変えられなかった。だけど新規転生者は、この世界の主人公よ。カシスなら、何かできるかもしれないわ」




