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ヴァルムントくんが部屋から出ていくと同時に、おれは息をついてから心の中で叫んだ。
ば、ば、ば、馬鹿真面目ーーーーーっ!!
いや? おれは? そんなことだろうと思ってましたけど?
……思ってましたけど!?
最近積極的すぎるヴァルムントくんが遂にここまできてしまったかとか思ってないもんね!
も〜、驚かせないでくれよ〜。
おれは本当に見てた夢を覚えてないってのにさ、なんかすんごい心配されてるしさぁ……。
ヴァルムントくんが絶対に引かなさそうだから了承したけども、……早まった気がする。
だって!! ゲンブルクの時はまだちゃんとした大きなお部屋だったし、ソファもあった。
けど今回はソファがあるとは限らないから、場所によってヴァルムントくんは椅子か床で寝ることになる。
体調とかの問題もあるし、おれが椅子か床で寝るなんて絶対に許されないのは分かっていても、働きを考えたらヴァルムントくんがベッドで寝るべきなのにね!
一緒にベッドへ入ればいいじゃん! ってのはなし。
屋敷とかじゃないと、ベッドが広くなくて到底二人も収まらん。
結構ヴァルムントくんって体がガッチリしっかりとしてるからさ。
そこがいいんだけどねー、そこが。
……筋肉、最近味わってねーな。
後さぁ……、外野から絶対に「こんなところでもイチャイチャするのかよ」って思われる!
さ、流石に、流石に組ず解れずしているとは思わないだろうけれども!
……いや、いるか。いるわ多分。
ヴァルムントくんの性格を考えたらありえないし、ヴァルムントくんは鋼の……ダイヤモンドよりも硬い精神を持っているのにな。
簡単な男じゃねーんだよ、ヴァルムントくんはさぁ!!
誘惑してんのに攻めて来ないし、かと思ったら向こうからガンガン攻めてきたりするし!
こっちが翻弄されてんだぞ、あぁん!?
……はぁ。どっと疲れた。
とにかくさぁ、おれ達馬鹿ップルじゃないんだよぉ……。
おれが嘆きながら部屋を出ると、部屋から出ていった侍女さん達が扉の近くで待機していた。
ユッタ以外の面々はやけにニッコリとしていて不気味で、ユッタは「よかった〜」って感じのニコニコ顔をしている。
さてはヴァルムントくん、侍女さん達に部屋同じにするのを話したな。
そら必要だから話すに決まってるとはいえ、とはいえ……。
なんだかな〜と火照った頬を手のひらで抑え、口をもにょもにょさせたのであった。
◆
進みに進んで夕方近くになり、今日は普通にテントを立てての野宿だ。
兵士さん達がえんやこらやってやっている間、おれは毎度手伝えない申し訳なさに包まれながらの椅子に座って待機をしていた。
おれはね、侍女さん達に世話されつつ動かないのが一番の仕事なの……。
何回やっても慣れね~わ。
そして食事をしてから簡単に体をテント内で拭き、侍女さん達が退散していく。
テントの中に残ったのはおれと椅子と、適度な距離に置かれた簡易ベッド二つだ。
片方のベッドに座ってから、もう一つのベッドを見る。
ヴァルムントくんの指示でベッドをここに運んだ兵士さん達の顔と言ったら……。
う、ううっ。違うんです、本当に違うんです……。
おれが魘されていることは特に周知されていないせいで、余計にそう思われているよぉ!
「失礼します」
ぎりぎりとしてたらラフな格好のヴァルムントくんがやってきた。
一概にラフって言っても、いざって時に剣だけは持ってきている。
野宿だからね、何が起こるかなんて分からない。
相も変わらず澄まし顔なヴァルムントくんは、おれが見ていたベッドの枕の上側に一旦剣を置いてから、おれと向かい合う形で座った。
「カテリーネ様、何か悪夢を見る原因に心当たりはございますか?」
「いえ……」
本当にないから困ってんの!
一応心当たりを探っていると、ヴァルムントが意を決したように話しかけてきた。
「村に、……黒龍のいた場所へ行くのは恐ろしくありませんか?」
……あ~、そういう意味で心配されてたのか。
手をぎゅっと握りしめてから、まっすぐにヴァルムントを見る。
「……確かに、わたくしはあの場所で愚かな行為をいたしました。それは違いのない事実です」
生贄となって死ぬのがゲーム通りだから、役割を果たせるからと生贄になる選択をした。
その時は知らなかったし分からなかったとはいえ、母親の命を無駄にしたのはおれ自身の行いのせいだ。
おれが変えようと思っていたら、生贄になんてなろうと思わなければよかった出来事である。
……今でも思い返すと正直辛い。けど、自業自得だ。
けど、現場に行くからって悪夢は見たりしないかな。
腹に溜まった憂鬱を息として吐き出してから、言葉を続けていく。
「ですが、今のわたくしはお兄様のお役に立つことが大切なのです。そして皆と……、ヴァルムント様と共に生きたいと思っております。わたくしは、進んでいくと決めたのです」
母親の命を犠牲にしたからと、拠点でずっとゲーゲーと吐いたりボーッとしたり後悔していても現状は変わらなかった。
ただ時間を無駄に過ごすだけになっていた。
そんなのは何の為にも、母親の為にもならない。
だからこそおれはお兄様の為に動くと決めた。
今は母親の為だけじゃなくて、愛してくれている、愛しているお兄様の為に、愛している皆やヴァルムントと生きたいから前を向いている。
生贄になんて今後一切なりたいと思わないし、悪夢なんて見ている暇なんてないんだ。
しっかりとヴァルムントへおれの意思を伝えると、ヴァルムントは少し息を詰まらせてから軽く息をつき、ほんのりとした笑みを浮かべた。
「私も、ディートリッヒ様も、他の者も貴女と共にあります。それを心に刻んでいただけないでしょうか?」
ヴァルムントは立ち上がり、握りしめていたおれの手を優しく包み込む形で握ってきた。
柔らかく伝わってくるヴァルムントの体温を感じながら、おれはヴァルムントの瞳を見つめて返事をする。
「はい、勿論です」
今のおれはみんながいるからこそ、ここにいるのだから。
互いに微笑み合い、話がついたところでそれぞれベッドに入り込んだ。
特に何もなく、そのまま就寝をして起きた朝。
先に起きていたヴァルムント曰く、おれは魘されていなかったようだった。




