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美しき少年たち

 なにせ平凡な毎日を送っていたもので、学園に入学する前に起こった特筆すべき事は特にはないはずなのだけど。


 そういえば学園入学までの5年間で、父の領地には似つかわしく無い、美しい4人の少年たちと仲良くなった。4人と言っても、同時に遊べることはなく、季節ごとに入れ替わるように分かれて遊んだものだった。


 春

 金髪翠眼で『アク』と名乗った幼いながらも整った笑顔の少年は、どこか威厳に満ちたオーラをキラキラと漂わせていた。

父の怯えるようなかしこまった態度は謎だったが、彼はこの国の歴史やマナー等を教えてくれた。お陰で、父の立ち位置を知り、私の世界観が広がった。彼が連れ立ってくれた大きな街や下町、貧困街や裕福な上級貴族のお屋敷は、私の見聞を広げ価値観をつくり、なぜか市民や果ては国民を愛するという、まるで王妃にでもなったかのような寛容で慈愛に満ちた気持ちにさせられる。不思議。

こんな私が王妃だなんて、不敬罪で捕まりそうだ。前世では、あんなに自分のことで精一杯で他人のことなんて考えたことなどなかったのに。


 夏

『マック』と名乗った少年は、オレンジに近い赤髪と瞳をもち、発育がいいのかがっしりとした体格すぎて、同い年だと知った時はビックリした。

馬術や、騎士に守られるレディの心持ち、体力の大切さをとかれ、外で沢山遊んだ。お陰で真っ黒に日焼けしたけど、童心を楽しめた。こっそり入った森で魔獣に襲われるハプニングがあったけど、マックがしっかり私を守ってくれた。彼の方が傷だらけだというのに、「君を、トラウマから守ることができた」と満面の笑顔で言われた時には泣いた。


 秋

『ミール』という銀髪銀眼の少年は、芸術と、オシャレと、魔法を教えてくれた。私の魔法の適正は全属性持ちらしく、ミールは「自分には持ってない属性はおしえられないけど、君を誇らしく思うよ」と褒めてくれた。彼がみせてくれる、聞かせてくれる絵画や宝石、絵本や楽器、そこから奏でられる音楽は、私の感性を伸ばした。彼がハープを奏でながら美しい歌声を披露すると、野生の動物達や妖精まで集まってきた。人外の友達ができたのは、2人だけの秘密だ。


 冬

『ルル』という、女の子のような可愛らしい顔つきの青髪碧眼で細身の彼女、もとい彼は、少しオドオドしながらも優しい笑顔で、まずは文字を教えてくれた。

それから魔法の知識やあらゆる座学、特に薬学についても教えてくれた。そのおかげでちょっとした怪我や病気の薬が自作できるようになり、領地内で大いに役立たせてもらった。また、栽培に成功することで、ちょっとしたその道の繋がりもできた。彼自身が健康に問題があるとのことだったが、学園に入学する前の年には、すっかり健康的になっていた。もっとも、幼少期に病弱だったせいで身長が伸び悩んでしまったことが、彼の一番の悩みになったようだ。


 とにかくどの少年もニコニコで、優しくて、そして年に似合わず紳士的だった。前世での小中学生の男子とは比べようもない。そんな彼らとの毎日は、本当に幸せそのもので、私も、私の家のものも、みんなニコニコで幸せいっぱいだった。

 彼らに対し、私も満面の笑顔で返すと、真っ赤な顔をしてそむけられたりもしたが、気にならなかった。嫌われてはいないという自信のゆえだ。


 ある時、1人が父を「おとうさん」と呼び始めると、その次の時から皆が父をそう呼び始めた。家族が増えたような気がして嬉しかった。のちにその事が私を苦しめるとは、この時には思わなかったけど。

 そして不思議なことに、彼らは示し合わせたように交代した。

 さらに、少年たちが入れ替わる度に、苦しかった我が家が少しずつ裕福になっていった。

「脳筋の俺が、家を潰さずに運営していけるのはサラのお陰だよ。その全てをサラとママに還元していけるのだから、感謝するしかないのだって、もう割り切ることにしたよ」

 と、申し訳なさそうに父は微笑んだ。




 よくよく良く考えたら不思議なことばかりだったけど、まだ幼い私には気がつくことが出来なかった。

 なぜ毎年少しずつ裕福になっていくのか。

 少年たちはなぜ鉢合わせしないのか。

 なぜ毎年毎年、私の誕生日に4枚の肖像画が一度に作成されるのか。

 そしてなぜ、小さな御屋敷に小さい領地、少ない使用人程度の甲斐性の父が、私たちをお迎えに来た時にはあれほど立派で豪華な馬車に乗っていたのか。


 何の疑問も感じることなく、その時の幸せを享受していた。


 転機が訪れたのは、私が15歳になる歳の冬の事だった。

 突然、前世とその時に偶然読んだ本の事を思い出したのだ。

 本の名前は忘れてしまったけれど、『悪役令嬢』がヒロインのその本は、断罪されたくないと、頑張る令嬢の話だった。


 中世ヨーロッパのような世界に転生し、美しい外見と、貴族の身分を手に入れた自分。

 これは……。この展開は……。

 間違いない。私は『悪役令嬢』とやらに転生してしまったのだ……。


 どどど、どうしよう?悪役令嬢って、何をすればいいの!?

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― 新着の感想 ―
[一言] XでここのURLを貼ってくださったのでやっと読むことができました!細かい背景が緻密に描かれていて一気に世界に引き込まれました。 評価、ブクマ、僭越ながらさせていただきました。また来ます!!
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