王立学園入学許可
「「「王立学園入学許可証……」」」
父と母と私が3人揃ってサラダたっぷりの朝食をもりもり食べている時だった。
執事のセバスチャンが、慌てて駆け込んできて、私たちを玄関ホールに行くよう促した。
家族3人全員揃って並び、出迎えるなんて仰々しいと思ったけど、それは『王立学園からの使者』だった。
たかが使者、されど使者。高位貴族ともなればまた違うのかもしれないけれど、うちは貴族とはいえ次に続かない1代限りの底辺男爵だ。『王立』ともなると、使者殿のほうが立場が上になるらしい。
彼は、我が家の内装をぐるりと一瞥すると、奇妙とも、困ったとも見える表情をした。それから父の名前を確認し、眉根を寄せると、コホンとひとつ咳払いをして、
「コンスタンタン男爵が長子、長女サラ嬢の当園高等部への入学を許可する」
とよみあげ、その書類をうやうやしく父に受け渡した。
ようするに、『サクラサク』ってことだ。
王立学園なんて格式高い学校なんて一生ご縁はないと思ってたよ。
「は、はぁ…?ありがとうございます」
と、気の抜けたお礼を父は述べると、使者はフフンと鼻で笑い、騎乗し去っていった。
なにあれ。使者のあまりの態度に、流石の私でもイラッとした。こちとら『悪役令嬢サマだぞ!文句あるのか!』くらい言ってやろうかとおもった。
……まぁ、ヘタレの私には無理だけど。
でも、せっかく『悪役令嬢』に転生したのだから、それっぽいことのひとつくらい言わなければならなかったのかもしれない。
だとしたら、私は自分で自分の『出番』を減らしてしまったのだろうか。
どちらにしても、私にはむいてないのは自分で分かりきっている。なら無理なことはせず、今まで通り周りに流されるくらいで丁度良いのだ。と、自分を言い聞かせた。
そして冒頭に戻る。
朝食を済ませ、父と母、そして私の3人で応接室に移動し、頭を突きつけ合いながら、使者が持ってきた書状をマジマジと見つめていた。
「あなた。あなたがこんなにもちゃんと計画的にサラの事を考えていたなんて、思いもしなかったの…私、感動しちゃったわ」
「……」
「お父様、脳筋だもんね、私も驚いたよ、お父様?」
「……」
「この入学のための準備、揃える時間と先立つもの、あるかしら…」
「……」
「準備の冊子も厚いけど…、入学にあたっての心構えと学則も分厚いよ、これ、全部読むの?!読むというか、覚えなきゃいけないの?お父様?」
「……」
「あなた…?」
「お父様、私を思っての気持ちは嬉しいんだけど、せめてこういうことは少しでいいから前もって相談して欲しいかな?」
「……」
「お父様?」
「あなた?」
筋骨隆々な父が、青白い顔をして、汗をかきかたまっていた。
プルプルと震える手をギュッと握りしめ、大きな握りこぶしを作ったかと思うと、ようやく一言漏らすように喋り始めた。
「……俺じゃ、ない」
「「はい?」」
「俺は、王立学園なんて、そもそも存在するってことしか知らない。ましてや申し込みなんて…」
「「はい??」」
母と私は顔を見合わせ、同時に頭上に『?』マークを浮かべた。
えっと、つまり、コレはなにかの間違いなのかな?
「お母様、もしかして、間違いだったのかな?」
「そうね、きっと間違いなのだわ。じゃあ準備しなくても大丈夫よね?」
「うんうん、こんな高い制服とか、使うか分からない教科書とかよりも、新しい農具を買い揃えて領民に無料で貸し出した方が無駄使いにならなくていいよね、お父様!」
正直、学校なんて今更なのだ。前世で嫌な思いをした、とかでは無いのだか、今更学校に通い直して学友ごっこなどもうたくさんだ。それに、勉強なら美少年『ルル』がいくらでも教えてくれる。筋がいい、賢い、理解力がすごい、とたくさん褒めてくれるルルのおかげで、今世の私はそこそこ勉強が出来てはいるはずだ。
ほっと一息安堵のため息をついて、和気あいあいと楽しくおしゃベりを始めようとしていた私と母を執事のセバスチャンが咳払いで現実に引き戻した。
「恐れながら奥様、お嬢様。使者の方は名前まで確認のうえでこの書類の山を置いていかれたのですよ。間違いではないでしょう」
それから、にっこりと微笑んだ。
「おめでとうございます。我がコンスタンタン家が、国家に有益と認められている証でございます」
「「「んなっ!?」」」
驚きのあまり、親子3人揃ってアホな声が出た。
「平民ならば入学前にテストや審査がございますが。我が家は1代限りの男爵とはいえ、そこそこの領地や財産が出来ていますので、国王からの覚えもめでたくなったのでございましょう。わたくしも、鼻が高うございますよ」
いつからか、こじわの増えていたセバスチャンの目頭がキラリとひかった。
泣くほど喜んでくれるのかと、私たちは嬉しくなった。
とはいえ、それならばこんな悠長なことは言ってられない。慌てて『入学準備』の冊子を手に取る。
「お父様、お母様!それでは早急に準備しなくては、です!」
「そうだが……。王都まで買い出しに行くとなると2週間はかかるぞ」
「付近の街で買えるものは買って、とりあえず街の仕立て屋で制服を準備するとして、あとは王都でしか買えないものはまた後日にしましょう」
アワアワとしながら話し合う私たちに、書類に目を通していたセバスチャンが追い討ちをかける。
「入学式まで後2週間でございますな」
「「「2週間!!!??」」」
アワアワ→ワタワタとなった私ら親子3人は、大慌で街への買い物へと出掛けて言った。
まさかその直後に、準備に必要な備品から制服からの全てが4揃い送り届けられるとは、思ってもいなかったのだ。
揃い、とはいっても、それぞれ少しづつ特徴があった。
1つ目は豪奢で格式も値段も高そうでまさにレディが着こなすような制服。
2つ目はポイントはおさえつつ、レースやリボンもふんだんにあしらわれすっごく可愛い。
3つ目のはプロテクターが仕込まれているかのように要所要所が固くて重く防御力が高そうでむしろ鎧…?なにより、スカートではなくパンツスタイルだ!
4つ目は実にシンプルではあるけれど、機能美なところがあり、所々にペンやメモ帳などの文具をしまえたりなど歩くカバンかと。
個性的ではあった。
そして何より驚いたのは、帰宅した私がそれぞれの制服に袖を通した時、どの服も私のからだにぴったりジャストフィット、いやむしろシンデレラフィットだった事だ。
私にとってのトップシークレットであるスリーサイズが、どこかで漏洩している…。




