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拾われた戦争孤児が魔術師として幸せになるまで  作者: 武天 しあん
変化する日常

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「うーん・・・。」


このまま王都に帰っていいのか悩むところだな・・・。


「どうかされましたか?」

「あぁ、タルツか。商業ギルドや土木ギルドとの話は終わったが、このまま王都へ戻ってもいいのか悩みどころだと思ってな。」


「気にせず戻ってください。

食料や苗の手配は私や代官ができますし、なにか緊急なことがあれば早馬で王都まで参りますので。」

「そうか、助かる。タルツ、あとは任せた。何かあればすぐに知らせてくれ。」


「はい。畏まりました。」




翌週クンストへ向かうと、食糧や苗の手配は終わっていた。

村長から、『村人皆で話し合い、畑を減らして畜産をやることにした。』と連絡が届いていた。


代官のボーデンや祖父に畜産に詳しい知り合いがいないか聞いたが、残念ながらいなかった。

フェンスタさんに聞いてみるか。


フェンスタさんに聞いてみたが、居なくはないが皆畜産の仕事に就いているため、聞きに行くことはできるが呼ぶことはできないと言われてしまった。

そうだよな。詳しいのは従事者だよな。


とりあえず山羊の小屋や、放牧する場所の柵などを作る手配をしなければな。

それはティーフバルに頼むとして、とりあえず商業ギルドに求人の広告を出してみるか。




ーーーーーーーーーーーー



日差しがキツくなってきたな。

もう季節は春から夏に変わろうとしていた。

やはり求人を出してもなかなか畜産に詳しい者は見つからないな。


村を囲う柵は完成して、山羊用の柵もできた。治安部隊や冒険者に手伝ってもらいながら、各地の農村に山羊を送ることも進んでいる。

あとは山羊の小屋が完成すれば山羊を家畜として飼い始めるだけだ。


私も王都にいる間は畜産の本などを図書館や本屋で探したが、やはり畜産に携わる者は読み書きができないのか、できても本を出すような暇がないのか、それらしい本は無かった。


困ったな・・・。




「旦那様、お客様がお見えです。」


「客?」


シバが私を呼びに来たが、今日誰か来る予定などあっただろうか?


とりあえず向かってみると、玄関を入ってすぐの部屋に平民と思われる身なりの2人の男がいた。

誰だ?


「どうも、お忙しいところ突然押し掛けて申し訳ございません。」

「それは構わないが、私はあなた方に会ったことはあっただろうか?」


「いえ、お初にお目にかかります。私たちは研究者をしております。私はバロンと申します。」

「同じく研究者のグベーレと申します。」

「私はウィルバート・フェルゼンです。フェルゼン領の領主をしております。

それで、研究者の方が私にどういった用件で?」


研究者?私に用事なのか?ミランではなく?



「畜産に詳しい人の求人を見て来ました。」

「ん?あなたたちは研究者なのでは?」


「えぇ。私たちは山羊の研究をしているんですが、山羊が大量発生したとの情報を聞いてフェルゼン領まで来たんです。」

「そうですか。山羊の研究とは具体的にどのようなことを?」


「主に生態調査や、あと加工品の研究もしています。」

「そうですか。それで山羊の研究の許可を取りに来たのですか?」


「いえ、その新しく始める畜産の村で働きたいと思って来ました。」

「え?研究ではなく?」


「ええと、研究はいつかしたいんです。

村の人たちに山羊の生態や飼い方を指導しながら、畜産が軌道に乗って余裕ができれば、生態や加工品の研究ができたらと・・・。」


彼らはここに来た経緯を説明してくれた。

パリスタの研究機関に勤めていたが、近年は魔獣の研究が盛んで家畜の研究者はまとめて暇を出されたそうだ。

ある程度の金は渡されたそうで、しばらくは旅をしながら各地の山羊の生態を調査して回っていた。しかし残金が少なくなってきたため、しばらくどこかで働いて、金を稼がなければならないと思っていたところで、ケーゼ村の求人が目に留まったのだと。



「あぁ、なるほど。私が了承すれば、今後はケーゼ村を拠点に研究をされると考えてもいいのか?」


怪しい感じは無いか。少し索敵を広げて感情を探ったが、おかしな感じはなかった。

それよりだいぶ疲れてそうだな。


「えぇ、そのつもりです。」

「分かった。あなたたちを採用する。研究所はどんな建物にすればいい?」


「え?」

「研究所がいるだろう?」


「余っている空き家でいいです。」

「いや、せっかくだから建てよう。」



「タルツかシバいるか?手が空いていたらティーフバルに邸まで来て欲しいと伝えてくれ。」



「「???」」

声に魔力を纏わせて届け、彼らを見ると不思議そうな顔をしていた。


「あぁ、今のは声に魔力を纏わせて飛ばしたんだ。」


「そのようなことができるんですね。ふむ、山羊を呼ぶときに便利なのでは?」

「確かに!いいかもしれない。教えてもらうことは可能ですか?」

「あぁ、構わない。」


急に前のめりになって聞いてきた彼らに少し引いたが、恐らく研究熱心なんだろう。研究者は興味があるものに飛びつくという習性は彼らにも当てはまるようだ。



私は彼らに声に魔力を纏わせる方法を教えた。

再現はできなかったが、理屈を理解したから練習してみるとのことだった。



「そうだ、山羊の大量繁殖の被害を解消するために、各地の農村へ山羊を数頭ずつ送ったんだ。その者たちにも飼育の仕方を教えたい。

まだ農村の識字率は低い、できれば絵を使った飼育の方法を書いてくれないか?」

「分かりました。」





そんなことをしているとティーフバルがやってきた。


「領主様お呼びですか?」

「ティーフバル、研究所をまた作ることになったんだが、やってみるか?」


「一度やっているんで、今度はすぐに建てられると思う。」

「そうか、頼もしいな。今度は、山羊の生態と加工品の研究所だ。今回は研究者が逃げたりしないはずだから、じっくり話し合えるぞ。」


「それは助かる。山羊ということはケーゼ村か?」

「あぁ、そうだ。そして彼らがその研究者だ。

建設費用は私が出すが、構造やなんかは彼らと相談して希望を取り入れてほしい。」


「分かった。じゃあさっそく話を進めよう。」



私は彼らの話し合いを黙って聞いていた。

ティーフバルの経験と、研究者本人の希望により、話し合いは意外に早く終わった。



「ティーフバル、ありがとう。」

「いえ、こちらこそ。いつも仕事をありがとう。」



「ミラン、明日は暇か?」

「まぁねー」

「馬車を出せるか?」

「別にいいけどどこ行くの?」

「山羊の研究者をケーゼ村まで乗せてくれ。」

「山羊の研究?何それ面白そう。」



「ミランという魔術研究者が明日馬車でケーゼ村まで送ってくれるそうだ。宿はとっているか?」

「えぇ。」


「それでは明日の朝、邸まで来てくれ。」

「分かりました。」

「領主様、ありがとうございます。」




-------


>>>バロン、グベーレ


「私たち、夢を見ているんじゃないよな?」

「夢かもしれん。」


「今は魔獣の研究の方が盛んだからな。だから私たちのような家畜の研究者は暇を出されたんだ・・・。」

「だよな。それを拾おうと思う者などいないよな。」


「明日起きて領主邸で門前払いされたら、料理屋かどこかの求人を探そう。」

「あぁ、そうだな。研究所を建てるというのも、貴族が私たちを揶揄って反応を見て楽しんでいただけなのかもしれん。」


「そうだな。貴族はやっぱり怖いな。またいつ落とされるか・・・。」

「まぁ私たちにはもう失うものもないからな。」


「強く生きていこうな。」

「そうだな。」





その後、ケーゼ村は山羊の畜産を始め、一月後には研究所も建った。

数種類のチーズが製造されるようになると土地を広げ加工場を作った。


ケーゼ村はチーズの村として有名になり、バロンとグベーレは研究を続け、研究者も少し増えた。彼らの研究成果もあり、その後は山羊の大量繁殖は起きていない。



閲覧ありがとうございます。



名前の由来

バロン:フラスコ

グベーレ:ビーカー

ケーゼ村:チーズ

このように安易な発想から名前をつけております(^^)

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