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拾われた戦争孤児が魔術師として幸せになるまで  作者: 武天 しあん
変化する日常

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雪解け水と共に、春が運ばれてくる。

ラオが元気を取り戻してからも、まだ心配で2日に1度は商会を訪れていたが、もう大丈夫だと心配いらないと、春の訪れと共にラオは国内の行商に出かけてしまった。

ラオは私より強いんだな。


ミール村のカモミールも収穫が始まっている。今の時期はとても綺麗でいい香りに包まれている。

そんなある日、領主邸に緊急の連絡が入った。



「ウィル、ケーゼ村の奥にある岩山で、山羊が大量発生しているらしい。」

「山羊が?それは魔獣ではなく動物の山羊ですか?」


「あぁ、そうだ。だからまだ人的な被害は出ていない。しかし、麓にあるケーゼ村の野菜や草をほとんど食べてしまったらしい。

山に生えている草も、もうかなり減っていて、あの大群が移動してどこかに行くと、他の村の畑でも被害が出るかもしれん。」

「それは不味いですね。とにかく現状をしっかり把握したい。ケーゼ村に様子を見に行ってきます。」



村人たちの食糧も被害を受けているなら、援助しなければならない。

それに大量発生といっても、どの程度の数なのかが分からない。



「今から行くのか?大丈夫なのか?ケーゼ村はレーマンの西隣だ。かなり距離があるぞ。」

「身体強化をかけて走っていくので大丈夫です。」


「んん?私の聞き間違いか?走って・・・?」

「えぇ、また何かあれば伝令魔獣を飛ばします。もし私に何か緊急の用事があれば、ミランに頼んで伝令魔獣を飛ばしてください。」


「あ、あぁ、分かった。気をつけていくんだよ。」

「はい。」




私は身体強化をかけると、すぐに走り出した。


ケーゼ村は昨年の秋に一度訪れている。

レーマンの森から西にあるケーゼ村の方へ魔獣が移り住んでいるという噂を聞いた時だ。

確か山にいたシュペアに会って、魔術を教えて少し話をしてから向かったんだったな。


今日はフロイに乗っていないから、街道ではなく道なき道、最短距離を走ることにしたので、シュペアがいる村の近くは通らないが、彼は元気だろうか。



山羊が大量発生した原因があるとすれば、昨年の秋にタルツと一緒に魔獣を斬滅したことだろう。

それで本来なら魔獣によって減少するはずの山羊が減らないまま繁殖期を迎え、年が明けてしばらくした頃に子供がたくさん生まれたのではないだろうか。


となると、私のやり方にも少なからず原因がある。

なんとかしなければ。




「これは・・・。」

私は山の麓にある村の畑やその周辺を見て唖然とした。

畑は踏み荒らされて更に食い荒らされ、道端の草も綺麗に食べられてしまっていた。


この時期なら、水路の周辺は春の花が咲いているはずだが、土が剥き出しになってしまっている。




コンコン

「村長、いるか?」

「はい、少々お待ちを。え?領主様?どうなさったのですか?」


「山羊が大量発生して、村が被害を受けたと聞いてな。様子を見にきた。」

「そうでしたか。この通り、ほとんどの畑が荒らされてしまって、申し訳ございません。今季は税が納められるか・・・。」


「それはいいんだが、村の皆が食べる食糧などはどうなっている?」

「倉庫に入られた家もありますので減ってしまいました。春に植える苗も、収穫間近の葉物も全滅で、芋は少しは残っていますが、生活は厳しくなると思います・・・。」


「分かった。とりあえず村の周囲は山羊が入らないよう柵で囲おう。そこは土木ギルドに私が手配をする。その間、村では畑を耕したり苗を植える準備をしてほしい。今年の春に植える苗は私が用意しよう。

村長には、各家庭を回って、どれほど食料が余っているか確認をしてほしい。苗の種類と数もまとめてくれると嬉しい。

食糧の足りない分は野菜や小麦などの現物支給でもいいし金銭で渡してもいいが、とにかく村人の生活は私が守るから心配するな。」


「そのようなこと・・・よろしいのですか?領主様にとってはメリットがないと思うのですが。」

「メリットならあるぞ。領民が幸せに暮らすことだ。

領民が飢餓に苦しむようなことがあれば、私は自分を許せない。

山羊が大量に繁殖した原因は、私にもあるからな・・・。

昨年、私が山の魔獣を狩りすぎたのだと思う。

こんなことになってすまない。」


「いえ、領主様に落ち度など一つもありません。

領主様は、この村のことを考え、危険な魔獣を討伐して下さった。

そのおかげで、村人は気軽に山へ山菜を取りに行ったり、木の実を取りにいくことができました。」

「そうか。ではそんな村の生活をこれからも守っていかなければな。」


「領主様・・・。ありがとうございます。」




私は急ぎ土木ギルドのティーフバルに伝令魔獣を飛ばした。

セモリナの工場付近の建築については多少延期してもいいだろう。タッシェの建築も、入居者が決まっていない家や店舗の建築は後に回して、ケーゼ村を囲う柵を優先してもらおう。


山羊だからそれほど危険はないだろうが、周辺警護は冒険者にも協力を依頼しよう。



山羊か・・・。

草を食べるということは、畑周辺の雑草などを食べてもらえれば農家も草刈りの手間が省けそうだな。堤防の辺りや水路の周辺も、草刈りは手作業では大変だと聞く。

各農村に少しずつ送って数を減らすか。



まずはどれほどの数がいるのか確認しにいくか。



私は岩山に駆け、索敵をしながら山羊の数を数えていった。

随分増えたものだな。遠くまで行っている個体もあるだろうから正確な数は分からないが、500頭はいた。

魔獣でない動物はなるべく殺したくない。

食べたいのであれば食べてもいいが、食べる分以上に殺すことはしたくない。



一部は各農村に送るとして、残りは飼うか。全部でなくていい、半数も家畜化すれば、村への被害もなくなるだろう。

これだけの数がいるなら、山羊のミルクを使って加工品を作って販売することもできそうだ。

飼い慣らせるかどうかが分からないが、それは畜産の専門家に相談してみよう。



とにかく村長には一度聞いてみないとな。

私は山を降りると、また村長の家に向かった。




「村長、もしこの村で山羊の畜産を始めるといったら、反対か?」

「え、いえ・・・。何も産業がない村なので産業ができるのは嬉しいですが、やっていけるのかが分かりません。」


「まぁそうだよな。もし畜産を始めることになった場合は、畜産の専門家を派遣して教えてもらうことにする。

この村でできないようなら、近くに畜産を行う施設や村を作ってもいいし、絶対にやらなければならないということはないから、希望者がいるかどうかだけでも確認してくれると助かる。」

「分かりました。」


「食糧はどうだ?まだ全ては確認できていないだろうが、当面は大丈夫そうか?」

「えぇ、今すぐに尽きるということはありませんので、しばらくは備蓄で持たせます。」


「食糧の状況が確認できたら、連絡をしてほしい。」

「分かりました。」


「私は一旦帰るが、もし緊急事態が起きたら、レーマンの街長に伝えてくれ。街長には話を通しておく。村人に危険がないよう、レーマンの冒険者に村周辺の警護に当たってもらうが、なるべく山には近づかないようにしてほしい。」

「分かりました。」


私はそのままレーマンまで駆け、冒険者ギルドにケーゼ村周辺の警備の依頼をした。

そして街長の邸宅まで行ったが、街長は留守だったので、ケーゼ村の状況を手紙に書き、それを渡してもらうよう門番に依頼してクンストへ帰った。





「ハァ・・・タルツ、私は失敗してしまったようだ・・・。」

「どうされたのですか?」


ラオとの行商に行く直前、タルツは治安部隊の騎士からクンストにいる間は私の護衛兼補佐になった。

私が王都にいる時は祖父母や代官の護衛や、騎士の指導をしてくれている。


「秋にレーマンの西で魔獣を討伐しただろう?

魔獣という魔獣を全て狩り尽くす勢いで・・・。

そのせいで生態系が崩れて山羊が大量繁殖した。そしてケーゼ村の畑の野菜や苗がほぼ全滅した。」

「そんな・・・。

しかし、魔獣は見つけ次第駆逐するのが決まりです。旦那様が間違っていたとは思えません。」



「そうか。でも、きっかけを作ってしまった。村人の落胆した顔が離れない。」

「これからフォローしていくんでしょう?私もお手伝いしますから。」


「山羊は草を食べる。堤防やなんかの草刈りは大変だろう?各農村に数頭ずつ送ろうかと思うんだがどう思う?」

「いいと思います。では、その通達と手配を各農村にすればよろしいですか?」


「あぁ。できるか?領主邸の執事や護衛、治安部隊で協力してやってくれればいい。」

「畏まりました。」



「被害を受けた村の食糧はどうしますか?」

「現物支給か金銭かと考えたが、買いに行くのも大変だろう。現物支給にしよう。

村長に食料の備蓄を調べてもらっているから、その報告が来てから量は考えよう。」


「他には何かありますか?」

「明日、商業ギルドのフェンスタさんに春に植える苗の手配について相談に行く。」


「量は?種類は?」

「それも村長からの報告待ちだ。明日は話だけになるが、フェンスタさんならおおよその数や種類が分かるかもしれないしな。」


「そうですね。」

「土木ギルドのティーフバルには、伝令魔獣で村を囲う柵を優先するよう依頼をしているが、明日詳しく話しに行くか。」



「現在はどうなっているのですか?」

「レーマンの冒険者ギルドに村周辺の警護依頼を出してきた。

それと、各農村に送った残りのうち半数ほどを家畜化しようと思う。ケーゼ村に希望者がいるか聞いてもらっている。

村で引き取るのが難しいようなら、近くに畜産の村を作ろうかと。」


「さすが旦那様は仕事が早いですね。私が補佐するところなどほとんど無い。」

「そんなことはない。タルツにはいつも助けられているよ。」




閲覧ありがとうございます。



『ある料理人と元騎士の話』(ファルトとタルツの話)完結しました。

こちらの作品もよろしくお願いします。

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