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もう秋なんだな。森の木々はだんだん緑から赤や黄色に染まり始めている。
肌寒いというほどではないが、朝晩はとても涼しくなった。
ファルトの店ができ、先日料理屋が開店した。
ファルトとタルツは今、クンストに家を借りて一緒に住んでいる。
どちらもタッシェが職場ということもあり、2人で早朝に出勤している。
彼らは本当に仲がいいな。
今日はレーマンの森から西の方へ魔獣が移動しているという噂を聞き、調査をすることになった。
大勢で行くと行軍も遅くなるし、レーマンの森に出現するような魔獣と戦うことを想定すると少数精鋭で調査、できれば解決もしてしまいたいと思い、タルツに声をかけた。
恐らく彼がフェルゼン侯爵家直属の騎士の中で一番強いのではないだろうか。
「タルツ、君は冒険者だと聞いているが、ランクはAか?」
「はい。そうですがなぜ分かったのですか?」
「私もAランクだからな。といってもあまり依頼を受けていないのだが。」
「そうですか。それで本日はどのような。」
「レーマンという街は知っているか?」
「えぇ、一度だけ行きました。森を奥に進むと強い魔獣が出るとのことで、冒険者に人気の街ですよね。」
「あぁそうだ。そのレーマンの森から、西の方へ魔獣が移動しているらしい。
西には岩山があって、その麓にはケーゼ村という小さな村がある。
その村が危険に晒されている可能性が高いため、調査に行こうと思ってな。」
「そうですか。それで部隊を引き連れて調査に?」
「いや、大勢で行くと行軍に時間がかかる。それにそれなりに強い魔獣を相手にできるような腕の者でないと足手纏いになる。
そこで君に声をかけた。調査だけでなく、戦闘になるかもしれないが一緒に行ってくれないか?」
「分かりました。」
「それは助かる。実はクンストにもAランク冒険者が1人いるんだが、彼は芸術家でね、ちょうど作品の完成間近で集中したいということで断られてしまったんだ。」
「そうでしたか。私でよろしければ、ご一緒いたします。」
「すぐに出られるか?」
「はい。」
「馬には乗れるか?」
「はい。」
私は馬番に一番足の速い馬と、フロイを連れてきてもらい、タルツと共に馬に乗ってレーマンに向かった。
馬に回復をかけながら、何度か休憩を挟んで駆けた。
すると、少し閉鎖的な村、肉が好きなシュペアが住んでいる村を過ぎた時、索敵に引っかかった。子供の側にレッドボアがいる。
まさか、また妖精の彼女がボアに追われているのか?
私は居ても立っても居られず、タルツに先にレーマンへ向かってレーマンの冒険者ギルドで魔獣の動向を聞いてもらうようお願いし、山の前にフロイを繋ぐと身体強化をかけて急いでレッドボアと子供の元に向かった。
レッドボアは今にも子供に襲い掛かろうとしており、私は氷の矢でレッドボアの頭を貫いた。
「ごめんなさい。」
それは妖精ではなかったが、白いふわふわの髪の子供。以前会った時より少し大きくなったシュペアだった。
また謝っているんだな。
「また悪くないのに謝っているのか?シュペア。」
シュペアはそーっと目を開けると、そのアイスブルーの瞳を潤ませながら、目の前に立つ私と、遠くに倒れているレッドボアを見た。
「うぅ・・・怖かっ・・・。
領主様、ありが・・、ごめ・・・。
名前、嬉しい。覚え・・・。
助けて、ありがとう。やっぱり格好いい。憧れ。僕も・・・。」
そのアイスブルーの瞳から、どんどんこぼれ落ちていく涙。
そりゃあそうだろう。怖かったよな。手作りと思われる穂先が石の槍を持っているが、子供の腕力でレッドボアを狩るなどできないだろう。
「もう大丈夫だぞ。
私が来たからな。ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐いて、もう一回。
そうそう。」
シュペアは深呼吸を繰り返すと、やっと落ち着いてきた。
「よしよし、もう大丈夫だぞ。」
怖かっただろうな。1人で。涙で潤んだ瞳で私を見上げるシュペアの頭を撫でながら、そっと癒しの魔術をかけた。
「助けてくれてありがとう。」
「うん。怪我はないか?」
「大丈夫。」
「それなら良かった。
それで、さっきはなぜ謝ってたんだ?また何か言われたのか?」
「余計なこと、したと思ったから・・・。
それに、領主様との約束が守れなくなっちゃうと思ったの。」
「そうか。」
余計なこと。か・・・
確か前にも余計なことを言うなと叱られていたな。
「この前僕ね、1人でウサギを狩ったんだ。だから、僕は強くなったんだと思った。
それに今日は、速くなれって念じたら、ブワーって力が湧いてきて本当に足が速くなって、なんでもできる気がしたんだ。」
「そうか。1人でウサギを狩れるようになったんだね。強くなったね。
うーん。
足はどれくらい速くなった?」
もしや。幼い頃の私のように無意識に身体強化を発動したのかもしれないと思い聞いてみた。
「えっと、いつもよりすごく速くて、これなら魔獣が出ても逃げれるって思うくらい。
だから、山の奥まで来ちゃったの。」
「今もそんなに速く走れるの?」
「レッドボアを見たら消えちゃった。」
「そうか。シュペア、それは身体強化かもしれないな。」
彼の魔力は多い。村の者を見た感じ、魔力が多い者は見当たらなかったが、シュペアはアイスブルーの瞳だが魔力が多い。
彼の魔力量なら身体強化を無意識に使っていても不思議はない。
「身体強化?」
「あぁ、魔術の一種だよ。」
「僕も魔術が使えるの?」
キラキラと輝く瞳で私を見てくるシュペアが可愛いと思った。
この子ももしかしたら妖精なんじゃないだろうか?人間だとしても、妖精の血を引いていたりするのではないだろうか。
そんなことはないんだろうが、彼が純粋無垢なことは分かった。
私は魔力循環と、体内で集めた魔力を魔術として出す方法を少し教えたら、彼は見事に再現してみせた。
まるでロルトに拾われた頃の私のようだと思った。
「練習すれば色々出せるようになるよ。氷とか、風とか、炎とか。
炎は危ないからまだ使ってはいけないよ。」
「うん。分かった。ありがとう。僕頑張るね。
いつか、僕は領主様を守れるようになる。ちゃんと約束覚えてるからね。」
「うん。楽しみにしてるよ。」
奥まで来てしまったのは身体強化を使ったからということは分かったが、山に子供が1人で来るなど、普通ではないのではないか。
いや、田舎の村なら有り得るのか?
シュペアのことが気になったが、今は急ぎの用事がある。
ケーゼ村が魔獣に襲われるようなことがあってはいけないからな。
「本当は村までシュペアを送っていってあげたいが、すまない。今は時間がなくてな。」
「大丈夫。僕は1人で帰れるから。」
レッドボアも村まで運べたら良かったのだが、仕方ない。今回は燃やすことにしよう。
私はレッドボアを灰にすると、山の麓まではシュペアと共に降り、そこで別れてレーマンへ急ぐことにした。
「フロイ、急ごう。」
ブルルル
フロイはぐんぐん加速していった。
閲覧ありがとうございます。
『少年シュペアの冒険譚』『ある料理人と元騎士の話』(ファルトとタルツの物語)もよろしくお願いします。




