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>>>イースと冒険に出かけよう
「イース、呼び出してすまんな。」
「何かありましたか?」
「最近どうだ?」
「え?特に変わったことはありませんが。」
「冒険者活動は続けているのか?」
「あ、はい。たまに依頼を受けています。」
「いや、また冒険者活動を一緒にしようと約束したのに行けていなかったからな。」
「いえ、中隊長はお忙しい身ですから。」
昨年の夏に約束をしたのに、そのまま約束は果たせず年を越して春になってしまった。
「今週末は予定があるか?」
「いえ、特には・・・。」
「そうか。じゃあ一緒に冒険に出かけよう。」
「え?いいんですか?」
「もちろん。約束したからな。
ところであれからランクは上がったのか?」
「一応。先日Cランクになりました。」
「そうか。よく頑張ったな。次はBだな。」
「まだ俺には・・・。」
イースは良くいえば控えめな性格で、とても優しい人物だ。
しかし、騎士団という戦いの仕事に就くには、大人しすぎるというか、他人のフォローに回ることが多いせいか実力に見合った成果を出せずにいる。
魔術の実力だけ見れば、分隊長辺りになってもおかしくないんだが、どうも人の上に立つことは望んでいないようだ。
「そんなことはない。イースは冒険者の中でも隊の中でも、優秀な方だと思うんだが、自信を持てないのは何か原因があるのか?
言いたくなければ言わなくていいが。」
「・・・俺は、あまり人と関わるのが得意ではなくて・・・。
距離感が分からないというか・・・。
嫌われるのも怖いし、目立つと叩かれそうで怖いし、イライラしている人に近づくのも怖い。少しでも何か変化があると不安になって一歩引いてしまうんです。
騎士団という職に向いていないことは分かっているんです・・・。」
「そうか。話してくれてありがとう。イースが騎士団に向いていないなんてことはないと思うぞ。
うちの中隊は誰かを嫌って排除したりするような者はいないと思うが、しかしイースが苦しむようなことがあってはいけないからな。
辛くなったら一人で抱え込むなよ。些細なことでもいい、私に言いにきてくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
「週末だが、王都から馬で1時間ほど駆けたところにある湖に行かないか?」
「分かりました。」
「馬は連れてこなくていいからな。今回は荷車を引いていくことにする・・・。」
「荷車?そんなに狩るんですか?」
「いや・・・前に魔獣を背負って街道を走って帰ったら、騒ぎになったんだ。
2度・・・。
それで次からは荷車に乗せるよう注意を受けた。」
「もしかして、昨年のリザードマンが街道を王都へ向かって走っているという報告は・・・。」
「それは私と数人でリザードマンを背負って帰った時だ・・・。」
「そうだったんですね。」
「あぁ・・・。
私が荷車を用意するから、イースは冒険者の格好で正門に来てくれればいい。」
「分かりました。」
「おはよう。」
「おはようございます!中隊長!」
「いや、今日は冒険者だからウィルでいい。」
「はい。」
「さぁ行こう。身体強化を使って走っていくぞ。イースは魔力を温存しておいた方がいいから私がかけよう。
今日は行軍ではないから索敵もしなくていい。」
「分かりました。」
私たちは湖まで走って行った。
「ここは・・・。
王都からそんなに離れていないのに、こんなに綺麗な場所があるんですね。」
「あぁ、そうなんだよ。いい場所だろう?
魔獣が出なければ、観光に来る人もいるだろうが・・・。」
さて、今日は何がいるかな?索敵を広げていくと、面白くないのが複数こちらに向かっていた・・・
「面白くはないが、ウォーミングアップにはちょうどよさそうなのが向かってきている。」
「どんな魔獣ですか?」
「ゴブリンだな。ただし数は30だ。一人でいけるか?」
「30・・・自信はありませんが、やってみます。」
「よく言った。危なくなったら援護するから思いっきりやってみろ。もうすぐ来るぞ。」
「はい。」
イースは氷の魔術が得意だ。
今回も氷の矢を複数出している。
前より一度に出せる数が増えているな。前は10本くらいじゃなかったか?
今は15本出している。
私はイースの戦いの邪魔にならないよう20メートルほど下がって見守った。
ゴブリンが見えると、イースは氷の矢を放った。
精度も良い。きっちり15体倒した。
ん?
イースは氷の矢を放つと同時にゴブリンに向かって駆けた。
そして、襲いかかってくるゴブリンを殴り倒していく。
いつも大人しい彼が相手はゴブリンといえど殴り倒すなど、意外だな。
戦士の訓練で学んだんだろうが、きっちりモノにしているところはさすがと言うべきか。
そのままイースは危なげなくゴブリンを全て倒した。
そして自分で水を出して丁寧に手を洗っていた。
「イース、お疲れ様。全体的に良かった。」
「ありがとうございます。」
「矢の数も15本出せるようになったんだな。
それに精度も良い。ターゲット設定ができるようになったのか?」
「練習はしていますが、まだできません。」
「そうか。それにしてはかなり精度が良かった。
もうすぐできるようになるかもしれないな。」
「そうだといいですが・・・。」
「それに、拳で戦ったのも良かった。
戦士の訓練をしっかりモノにしているのはさすがだな。」
「いえ、まだ威力も弱いですし、ゴブリンは倒せても、もう少し強い魔獣は倒せないと思います。」
「そんなことはないと思うぞ。動きも良かったし、オークジェネラルのように拳に強化をかけたら、ブラックベア辺りはいけるんじゃないか?」
「なるほど。全身の身体強化ではなく拳に集中して強化。それは試してみたいですね。」
「ゴブリンはどうする?右耳だけ切り取って持っていくか?幾らかにはなるだろう。」
「はい。」
イースが右耳を切り取ったあとは、私がゴブリンを全て燃やして灰にした。
「ハハハ、面白いのが来た。あいつはどこにでも出没するんだな。」
「え?何が出たんですか?」
「戦士部隊のシャームだ。」
「え??」
「1人だな。そして魔獣に追われているようだ。」
「え!?大丈夫なんですか?」
「この辺りまでは逃げられるだろう。魔獣はロック鳥だ。」
「あぁ、なるほど。確かに戦士1人で倒すのはきついでしょうね。Bランク魔獣でしたっけ?」
「そうだな。イース、いけるか?
ロック鳥は風の魔術を纏っている。その魔術よりも強い魔術を放たなければ届かない。軽く挑発して、引き付けてから魔術を放つといい。」
「分かりました。やってみます。」
「地面に引き摺り下ろしたら、シャームと一緒に戦ってみるか?」
「はい。」
「シャームには避けるよう言っておくから、イースは気にせず魔術を撃て。」
「はい。」
「シャーム、今からロック鳥を引き摺り下ろすために魔術を放つ。ロック鳥がターゲットをこちらに向けたら左右どちらかに避けろ。」
私はシャームに声を届けた。
間も無くロック鳥が目視できるようになると、イースはロック鳥の意識をこちらに向けるために顔に向けてウォーターボールを放った。
不意打ちに腹を立てたロック鳥が完全にイースをロックオンした。
「いいぞ。思いっきりやってみろ。」
「はい!」
イースは氷の槍を出してロック鳥の翼を目掛けて放った。
ギシャアァァァァァ
随分うるさい鳴き方をするんだな。
ロック鳥は翼に穴が開き、バランスを崩して落ちていった。
「イース、行くぞ。ロック鳥が落ちたのはちょうどシャームがいる辺りだ。私が身体強化をかけるから急ごう。」
「はい。」
「好きなように戦ってみろ。シャームの支援はしなくていい、魔術でも拳でも、好きなように戦ってみろ。」
「はい!」
どれほどの距離を走ったのか、かなり疲労しているシャームを見つけて回復と身体強化をかけた。
「ありがとうございます!ウィルさんは自分にとって救世主っす!」
またシャームは面白いことを言っているな。
調子を取り戻したシャームの槍が入り、イースは強化した拳を選んだらしい。
頭を殴ると、ロック鳥がフラついた。
かなり効いているな。
シャームの槍と、イースの拳が交互に入ると、ロック鳥はとうとう崩れた。
閲覧ありがとうございます。




