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私は夏の終わりに18になった。

製粉所とパスタ工場が稼働を始めて、2月ほど経っただろうか。

パスタ工場と製粉所は問題なく稼働しており、パスタの量産も始まったため、クンストのペタジリアでは期間限定ではなくパスタがレギュラーメニューとなった。

どうやらホルツがパスタを気に入ってよく食べに行っているらしい。



もちろんラオの行商や、ヘンドラー商会にも卸しているが、まだ食べ慣れないものだからか売上はいいとは言えない。

これはただ売り出すだけでなく宣伝をしたり、料理を提供できる店を増やしていかなければならない。


まずはペタジリアでパスタを大々的に広めてもらうため、マスターに店の規模を広げることを提案した。

商業ギルドのフェンスタさんにも相談して、従業員の手配をし、店の建替費用は私が出すと言ったのだが、それは責任が重くて辛いと言われてしまったので、私が建てて、店舗を安価で貸し出すということで納得してもらった。


店舗はペタジリア仕様で建てており、マスターが買い取ることもできるように契約書も交わした。


そして、王都でも広めてもらうために、私の中隊が行きつけのゲミューゼのマスターにもパスタを食べてもらった。

マスターはパスタを気に入ってくれ、ランチメニューとして出してくれている。



冒険者として一緒にウルフの討伐をしたグラは、あのあと修行の旅に行きたいと言って、現在は長期研修という名目でどこかで修行をしている。

修行の旅に出る前に、旅に出ること、強くなって戻ってくるので、その時には共闘してほしいという内容の手紙が邸に届いた。

強くなって帰ってくるのが楽しみだな。



シャームは相変わらず、うちの中隊の飲み会によく顔を出しているが、最近、分隊長に上がった。昇格したとわざわざ中隊長室に報告に来てくれた。

ヤードとジーゲルはパーティーを組んだらしい。これはシャームが教えてくれた。シャームも時間が合う時は加わっているとか。



イースとは共闘に行く約束をしているのに、まだ行けていないから、落ち着いたら誘ってみよう。きっとシャームも着いてくるんだろうな。


私はパスタ工場のことや、重力操作鞄のタッシェのこと、あともう一つクンストの冒険者ギルドと話を進めていることがあるから、なかなか冒険者としての活動はできていない。




そして木々が緑から赤や黄色に色付くこの季節に、私は準備に追われていた。

他国から貴族を招くなど初めてのことだ。


ラオと行商の旅をしている時に知り合った、トルーキエ王国のジムナーシア伯爵がフェルゼン領を訪問することになったからだ。

手紙でのやりとりはあったが、伯爵とはあれ以来会っていない。


代官のボーデンも祖父も、私がやりたいようにやらせてくれているが、きっと指摘したい箇所は色々あるんだろう。

恥ずかしいことなどはやっていないとは思うが、私のやり方は他の領主にどう映るのかと考えると少し緊張する。





私は緊張しながらクンストの入り口で待っていた。

今日は貴族を出迎えるため、フェルゼン侯爵家の護衛騎士を4名連れてきている。




あれか。前後に馬に乗った護衛騎士がついている、豪華な装飾が施された馬車が1台こちらに走ってくるのが見えた。



馬車は門を過ぎると停車し、ドアが開いて伯爵が降りてきた。


「お久しぶりですジムナーシア伯爵、遠路はるばるようこそいらっしゃいました。」

「お久しぶりです。フェルゼン侯爵、訪問を快くお受けいただきありがとうございます。」


「堅苦しい挨拶はこの辺で、まずは領主邸にご案内いたします。私が馬で先導しますので、着いてきていただけますか?」

「分かりました。よろしくお願いします。」




私はフロイに飛び乗ると、隣にうちの護衛騎士を並ばせてゆっくりと領主邸までの道を進んだ。


クンストでこのような仰々しい出迎えをするのは初めてのことで、街の人たちも少し離れてそっと見守っている。

今日はさすがに気軽に声をかけてくる者はいなかったが、それが少し寂しいと思った。



領主邸に着くと、応接室に案内した。

長旅できっと疲れているだろう。

ゆっくり寛げるよう、カモミールの花のお茶を出した。


「こちらはこの領地で採れるカモミールという花を使ったお茶なんです。」

「ほぉ、それは珍しいですね。いただきます。」


「今日はゆっくり休んでいただいて、明日から領内をご案内しますね。

御者や護衛の皆さんも長旅でお疲れでしょう。皆さんの分も用意していますので、彼らもゆっくり休ませてあげてください。」

「おぉ、それは助かります。」




翌日はできたばかりのセモリナ村の隣のパスタ工場と製粉場を見学してもらい、セモリナ村の水害対策で溜池や堤防を作ったことも話すと、伯爵も取り入れてみたいと言ってくれた。


ペタジリアのマスターに、伯爵が来た時にパスタを作ってもらえないかと相談してみたが、怖くてできないと真っ青な顔で断られてしまったので、領主邸のシェフにパスタの調理の仕方を教えてもらい、領主邸のシェフが作ることになった。


これは、実は陛下や宰相がお忍びで訪れていたことを告げた日にはマスターが倒れてしまうかもしれない。黙っておこう。



「おぉ、これが先ほど見学させていただいたパスタ工場で作られていたパスタという食べ物ですか。初めて見ます。」

「今回は夏に採れたトマトをソースにして保存していたものを使っていますが、パスタ自体は味の主張がないので、色々な味付けのソースをかけて食べることができます。

どうぞ温かいうちにお召し上がりください。」


「ではいただこう。」



どうだろうか。紹介した人たちには好評なことが多かったが、全員の口に合うかは分からない。

私もパスタを口に運びながら、伯爵の反応を伺ってみる。




「ん?んん?これは・・・。美味しいですね。

このパスタというのはまだ侯爵様の領地でしか食べられないのですか?」

「いえ、今はまだ工場ができてそれほど経っていないのでこの領内と、王都でしか流通していませんが、いずれはもっと多くの人に食べてもらえるよう広めていくつもりです。」


「そうですか・・・。

トルーキエまで運ぶとなると、厳しいんだろうか・・・惜しいな。」

「トルーキエまで運べると思いますよ。パスタは長期保存できるように、紐状にしてカットした後で乾燥させます。それを茹でるので、遠方へ運ぶことも可能です。

私はいずれ騎士団の遠征にも取り入れようかと思っています。」



「おぉ、そうですか。もしよろしければ、こちらのフェルゼン侯爵領と、ジムナーシア領で交易などできませんか?」

「いいですね。ぜひやりましょう。都市の提携をするというのはどうでしょう?

交易よりも結びつきを強くし、今後も色々情報交換や物品の交易、例えばジムナーシア領が自然災害などで窮地に陥った際には、私の領から援助を、逆に私の領が窮地に陥った際には、そちらに余裕がある場合のみで構いませんので援助をしていただきたい。

そのような、離れていても繋がっている関係を築いていけたらと思うのですが、どうでしょうか?」


「それは、願ってもない提案です。こちらからもお願いしたい。

いやぁ、侯爵様はやはり素晴らしい方ですね。私はあなた様と知り合えたことこそが人生の宝です。」

「いえいえ、それは大袈裟ですよ。

私の方こそ、まだまだ未熟者の私の提案を快く受け入れていただいて、伯爵と出会えたことを幸運だと思っていますよ。」



「兄弟・・・いや、姉妹。姉妹都市提携という名前はどうでしょう?」

「いいですね。素晴らしい名前です。姉妹都市提携しましょう。」


私は伯爵と固く握手を交わした。



こちらから交易の品として出すのは、パスタ。ジムナーシアからはココアを出してもらえることになった。

距離もかなりあるので、ひとまずは1品ずつで様子を見て、いずれはもっと多くのものを流通させたいという意向も賛同してくれた。



偶然、モスケルがジムナーシアに住んでいて、そして偶然にあのタイミングでオークが群を作っていた。そして、お互いが良い関係を築きたいと思い合えたこと。

人との出会いは不思議なものだ。


まさか国を超えてこのような親しい関係を築くことができるなど、想像もしていなかった。



それから、姉妹提携の詳細を詰めたり、芸術家の区画を見学してもらったり、まだ色々建設途中だがタッシェの村も見学してもらい、伯爵にはお土産として重力操作の鞄を差し上げた。

数日滞在すると、あまり長期領地を離れるわけにはいかないと、伯爵は帰っていった。

帰りには、気に入ってもらったパスタやカモミールのお茶もお土産として渡した。


私もまたゆっくりジムナーシアの街を訪れたいな。

以前はラオの行商の護衛だったからオーク討伐の話をするくらいで、詳しく領地を見て回ったりはできなかったからな。



その後、フェルゼン領ではココアが流行った。

飲み物としてのココアだけでなく、ケーキや焼き菓子に使うなど、他の用途も色々考え出され、領民に浸透していった。



閲覧ありがとうございます。

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