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「なぁウィル、これだけの数のオーク、麓の荷車まで運ぶのしんどいな・・・。」
「いや、私が魔術で飛ばすから大丈夫だ。」
「ん?魔術で飛ばす?」
「風で巻き上げて、そのまま麓まで降ろすつもりだ。
自分の戦利品は自分で持って帰りたいか?それならモスケルが倒した個体はモスケルに任せるが。」
「いや、ウィルの魔術でお願いする。」
「分かった。」
私はモスケルと共にオーク15体を集めると、トルネードの魔術を発動させ、オーク15体を巻き上げた。
うん、上手くいくか心配だったが、問題なさそうだな。
さて、このままトルネードで持ち上げたまま山を降りていくか。
「モスケル、山を降りるぞ。」
「お、おう、オークはこの状態のまま運ぶのか?」
「あぁ。先にオークだけ麓に降ろしてもいいが、他の魔獣がオークに群がって食い散らかしたらラオに怒られそうだしな。
それに、変な魔獣が山を降りるのも良くない。気づかないうちに街に向かわれたら危ないしな。」
「確かにな。じゃあ早く降りよう。」
私たちは、身体強化をかけたまま、滑り降りるように山を駆け降りた。
「よし、オークを降ろすぞ。」
「あぁ。」
「ラオに伝令を送るから、モスケルは休憩しているか、オークを荷車に積んでいてくれ。」
「分かった。荷車に積もう。」
私は中型の伝令魔獣を呼び出すと、
持ち帰るのはオークジェネラル1体、オークナイト2体、オーク12体であること。
オークナイト1体はモスケルの討伐分であること。
13キロほどの距離なので、2時間程度で到着すること。
箇条書きにして魔獣の足に結んだ。
「さぁ、ラオのところまで頼んだよ。」
クルルルル〜
虹色の尾をヒラヒラと靡かせながら、伝令魔獣が飛び立つのを見送ると、モスケルと共に荷車にオークを乗せていった。
「ちょっとバランスが悪そうだが、まぁいい。崩れないうちに紐で縛るぞ。
そう言えば、その辺りにモスケルが倒したレッドボアもいるな。」
「あぁ、レッドボアのことを忘れていた。これ、荷車動かせるのか?」
「あぁ、大丈夫だ。重力操作で軽くするからな。」
「そんなこともできるのか。もう何でもありだな。ウィルにできないことなど無いと思えてきたよ。」
「そんなことはない。モスケルのように槍が使えるわけでもないし、武器なんかを使うのはあまり得意とは言えないな・・・。」
「武器など無くても、ウィルには誰であっても傷一つ付けられないだろうな。」
「そんなことはないぞ。私は戦場で敵の戦士に切られて死にかけたことがあるしな。」
「ウィルが?」
「あぁ。まぁ、年齢が一桁の子供の頃の話だが。」
「あぁ、なるほどな。」
「さぁ、街に戻ろう。モスケルも英雄になれるぞ。オークナイトを1人で倒したんだからな。」
「いや、ウィルの戦いを見ていたら、俺なんか全然大したことないと思う。」
「そんなことはない。モスケルの槍の腕はかなりのものだぞ。
もし危なくなったら、支援だけでなく攻撃魔術で援護することもできたが、必要なかった。1人でオークナイトを倒したんだから、そこは誇っていいんだぞ。」
「ウィル、お前の部下たちは幸せだろうな。」
「ん?突然どうした?」
「いや、ウィルのような上司が導いてくれる部隊なら、強くなりそうだと思ってな。」
「そうか?」
「俺は、ウィルのサポートを1度受けただけでこれだけ成長できた。
ずっと側で見守ってくれたら、どれだけ強くなれるのかと、想像してしまった。」
「それは難しいな。私は戦士ではないから、戦士の戦い方を教えることや、成長させる方法を知らない。」
よく考えてみたら、私は勝手な自分の判断で戦士に支援をしていたが、それが彼らにとっていいタイミングだったのかは分からない。
私の場合は強力な回復や身体強化を重ねることも、数も際限なくかけられるから良いが、重ねず1回ずつかけるならどちらを先にかけるか、戦士の動きを理解していないと迷うことがあるだろう。
戦士の動きを実際に体験してみることや、戦士の能力を最大限に引き出せる方法を研究してみるのも有りだな。
よし、戻ったらこれも私の隊で取り入れてみよう。
「ウィルが戦士ではないことは分かっている。それでも、成長できると思った。
ウィルが冒険者であったなら、俺はウィルに着いて行ったかもしれない。」
「そのように思ってもらえて嬉しいよ。モスケルさえ良ければエトワーレ王国に来るか?
そうすれば、エトワーレで冒険者活動をする時には一緒に討伐やなんかに行けるぞ。」
「まぁ確かに、俺はこの街で産まれたわけでもなければ、特にこの街に思い入れが強いわけでもないからな。それもありかもしれない。」
「もしその気になったら、いつでもエトワーレに来てくれ。ラオもいるしな。
王都が嫌なら、私の領地が王都の隣にあるから、そこでもいいし。」
「そうか。忘れそうになるがウィルは領主だったな。」
「一応な。騎士団の方が忙しかったから、領主になってもなかなか領地にいく機会がなくてな。
帰ったら行ってみるつもりだ。
ラオから農村の問題などを聞いて、一度自分の目で見ておきたくてな。」
「農村の問題?」
「あぁ、気候によって収穫が左右されるだろ?天候不良で不作になったりすると、収入が足りずに街に出てしまう人が多いらしいんだ。
そしてそのまま村を離れてしまったりして、そこでしか作られていない野菜や果物の存続が危ぶまれる場合もあるそうだ。」
「なるほどな。確かにそれはある。」
「そこをしっかり見て、領主として補助できるところは補助したり、何か対策できることもあるかもしれないからな。
例えば洪水が起きやすいなら、川を整備したり、干ばつになりやすいところには溜池や水路を引いて水を確保したり。」
「ウィルは本当に領主なんだな。」
「まだ領民に挨拶もしていないし、領主と名乗るほどのことができているとは言い難いが、一応書類上はな。」
「いや、領民のことを考えたり、領地の農村の存続の問題に目を向けたり、そんな領主がいるなら、その領地は発展するに違いないな。」
「そうなると良いのだが。まだ私では力不足だな・・・。」
「よし!!決めたぞ!」
「ん?どうした?そんな声を張り上げて。」
「俺はウィルの領地に引っ越す!」
「そんなに即決していいのか?」
「あぁ。冬の引越しはキツイから、春になったらな。」
「そうか。それなら、その時には私も手伝おう。希望があれば工房の建設などは私が手配しておこう。」
「工房は適当な空き家でいいんだ。工房を新しく建てられるほどの資金はない。」
「貴族は、芸術家などの後ろ盾となって援助するのが嗜みだと聞いたことがある。パトロンというらしい。
私がモスケルのパトロンになろう。私はモスケルの作品のファンだしな。だから工房くらい準備させてくれ。」
「いいのか?
ウィルには何のメリットも無いんじゃないか?」
「ん?あるぞ。モスケルが資金の憂いなく作品に集中することができれば、私がいい作品に出会える機会が増える。」
「そ、そうか。期待を裏切らないように頑張るよ。」
「いや、そんな気を張らなくていい。モスケルのペースで作品を作ればいい。私はそれを眺めているだけでいいんだ。」
「そうか。なんか、ありがとう。」
「私はモスケルのファンだからな。」
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