側面のお話 <繋がる> パトリック視点
「ウェスト様」
ローズマリーの寮の部屋。
そのドア付近に、前触れ無く転移した俺。
つまりは、突如ローズマリーの部屋に出現した俺を見た侍女は、驚いたように目を見開いたが、流石侯爵家令嬢付きというべきか、その動揺を一瞬で抑え、俺を迎えるべくしっかりとした足取りで歩み寄って来た。
「話は、ウィルトシャー殿から聞いている。今からここで探知を行うから、その間、誰もこの部屋に入れないでくれ」
きちんとした礼をとろうとした彼女を、片手を軽く挙げることで制し、俺は早速ローズマリー探知にかかる。
「かしこまりました。ウェスト様。お嬢様のこと、よろしくお願い申し上げます。わたくし如きが言うことではない、と承知しております。ですが、どうぞ何とぞ」
突然ローズマリーが消えて、上位魔力保持者のウィルトシャー級長をもってしてもその存在を探知することが出来なかった。
そのことが焦燥を加速させているのだろう。
震える声で言う侍女と共に、護衛も大きく頭を下げた。
「ローズマリーは、必ず僕が助ける。ポーレット侯爵の元へはウィルトシャー殿が向かってくれた。君たちは、いつローズマリーが戻ってもいいように、準備を整えておいてくれ」
考えられるのは、魔力が枯渇していること。
その状態によっては命を救うことも難しくなる。
けれど、ローズマリーが消えてから、まだそこまで長く時間が過ぎたわけではない。
ローズマリーの魔力量は多い。
早く救い出せば、それだけ吸いあげられる魔力も少なく済み、命の危険も遠ざかる。
魔力の減少が微量で済めば、食物から補給することも出来るし、それ以上であったとしても、魔法核が枯渇しきって魔力を回復することも、他者から受け入れることもできない状況に陥っていない限り、俺が魔力を分けることが出来る。
ローズマリー。
今、行く。
念のため、ドアからも窓からも死角になる位置に立ち、俺はゆっくりと意識を沈めていく。
求めるのは、ローズマリーがその身に纏う魔力。
優しく温かく、俺にとってかけがえのないそれを求めて、俺は探知の網を広げていく。
ローズマリー。
呼びかけに答える声を探して、俺は無意識にポケットに入れてある魔道具に触れた。
懐中時計に模してある、というか懐中時計そのものでもあるそれは、ローズマリーに渡した指輪と連動している。
ローズマリーに何かあれば、あの指輪が反応して、この懐中時計が震え点滅する仕組み。
それなのに懐中時計は、今も何も危険を察知せず、静かに懐中時計としての役目のみを果たしている。
まだ、魔力を吸いあげられていないのか?
恐怖はないのか?
ローズマリー。
何処に居る?
ひとり異空間に放り込まれたローズマリー。
さぞ心細い思いをしているだろう彼女を想えば、胸が塞がる。
俺が、傍に居れば。
唇を噛み締め、俺はローズマリーの気配を探る。
ローズマリー。
俺だ。
お前のパトリックだ。
返事をしてくれ。
祈るようにローズマリーの名を呼ぶ。
この世の何よりも、大切で愛しい存在。
長い間、会いたくても会えず、その声を聞きたくとも聞けなかった。
ずっと、他者に向けるその可愛い笑顔を、俺に向けて欲しいと願っていた。
そして、漸く叶ったその願い。
それは、これからも続いていく俺たちの時間。
ローズマリー。
誰であろうと、俺からローズマリーを奪うことは許さない。
そんなことは絶対にさせない、と思うも、なかなかローズマリーを見つけられないことに焦りが募っていく。
ただひたすらに過ぎていく時間。
俺の呼びかけばかりが響くなか、ローズマリーの声は聞こえず、気配も感じられない。
ローズマリー。
頼むから、返事をしてくれ。
焦れば焦るほど、集中力に乱れが生じる。
そうすれば、その隙を突くよう、魔力を吸いあげられるローズマリーの姿が脳裏に浮かんだ。
一度だけ、触れるほどに近くで感じたローズマリーの魔法核。
その優しく強い魔法核が、魔力を完全に吸いあげられて干からびる、幻影。
『パトリック・・・さま』
ローズマリーが、苦しさに喘ぎつつも俺を呼び、可愛い顔が苦しさに歪む。
『・・・パト・・リック・・さ・・ま』
助けを求めるように俺へと伸ばされる白い手が、ゆっくりと漆黒の闇に呑み込まれて行く。
「ローズマリーっ!!」
危うく幻影に取り込まれそうになり、俺は頭を強く横に振った。
俺がこんなことでどうする!
自身を強く叱咤し、俺は再び集中し直して、ローズマリーの気配を探る。
ゆっくりと広げる探知の網。
ローズマリー。
俺に気づいて。
ローズマリー。
俺を呼んで。
ローズマリー。
俺を求めて。
ローズマリー。
ローズマリー。
大好きだよ。
ローズマリー。
繰り返す呼び掛け。
過ぎていく時間。
焦らないように。
けれど、迅速に。
そうして、どれだけの時が流れたのか。
『・・・・・』
微かに感じた、ローズマリーの気配。
「っ!ローズマリー!」
そのことに狂喜した俺は、更に探知に集中した。
膨大な場所のなかから、漸く探すべき区域を見つけた、その喜びが湧きあがる。
これなら、ローズマリーを見つけられる!
「ローズマリー!あと少しの辛抱だ!」
叫んで、俺は無意識に懐中時計を強く握り締めた。
「ローズマリー。俺はここだ」
強く言った瞬間、懐中時計が熱くなり、俺は、俺の魔力とローズマリーの魔力が繋がるのを感じた。
そうして、部屋に光が溢れて。
「ローズマリー!」
その姿を認めた瞬間、俺は愛しい彼女を力いっぱい抱き締めていた。
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