第四十九話 果てに何を見る
ラナーと出会ってから、すでに三ヶ月が経過した。
俺は今、ラナーの言う通りに動いている。
あいつに従っている理由、それは、実力に差があるので抵抗することができない、これが主な理由だが……同時に、俺に都合が良いのと、あいつの言ったことが真実だったからだ。
都合が良いというのは、あいつの目的が『俺を強くする』というものだからだ。
あいつが俺に強要するのは、いつも、ギルドでどの依頼を受けるか・今日はどこへ行くか、この二つだけ。
あいつの言う通りに依頼を受け、指示された場所へ行くと、何故かいつも、AランクやBランクの魔獣と遭遇する。意図的に、あいつが魔獣を用意しているのは間違い無い。
高ランクの魔獣は、強いだけあって大量の魔素を内包しており、倒せばレベルが上がりやすい。元々強くなることを望んでいた俺としては、好都合だ。
次に、あいつの言ったことが真実だと確信した理由、それは───実際にこの目で見たからに他ならない。
流石に、ラナーの語った内容は、口頭だけで信じるにはあまりにも非現実的すぎた。
だから、俺はあいつに直接「証拠を提示して欲しい」と頼んだ。
意外にもラナーはその要求を即了承し、俺をある所に連れていった。
───戦場だった。
俺がラナーに連れられそこに赴いた日、その平原には約二千ほどの魔人族が隊列を成し、人間の国・アスラに向けて進軍をしていた。
今まで中立を貫いてきた魔人族が何故進軍を!? とその時は驚いたが、ラナーが言うには、魔人族こそが神の使いである天使らしい。実際、魔人族がラナーと戦闘になった際、それを連想させることを魔人族自身が叫んでいたし、これも真実なのだろう。
二千もの魔人族。
魔人の強さを実際に目にしたり、偉業を聞いた訳でも無い。でも、この世界の人にとっては、魔人族とは畏怖すべき存在で、間違っても手を出してはならないというのが共通認識である。
実際にその力を目にしてみれば、この認識は正しかったと言わせざるえない。
格が違うのだ。他の種族ならば、数人で準備してやっと放てるような強力な魔術を、魔人族は一人で、しかも無詠唱で、何発も放つ。無詠唱ということは、ノータイム、準備無しで強力な魔術を扱えるということ。人では超越者として扱われる力も、魔人族にとっては基本なのだ。
一人一人がそのレベルで、それどころか、それよりもレベルが高い者がわんさかいる、そんな軍団。
これがメフィスの軍事力。これが魔人族。
身体能力も人より圧倒的に上だと見受けられるし、最早存在自体が非常識である。
ラナーが前に言った「あの時の俺では絶対に勝てない」という言は間違いではなかった。
この軍団の目的が俺個人であるかはさておき、人間の国に向かっているのは明らかだ。
とすれば、この軍団が国に到着すれば、戦争が起きる。
そうなれば、例え学院生であろうと戦争に駆り出されるだろう。
つまりは、その戦争に俺も駆り出されることになり、そして、呆気なく命を散らしていたことになる。
結果から見れば、ラナーの言葉と行いは、俺だけじゃなく、多数の人間の命を助けるものだった訳だ。
ラナーは有言実行の男だった。
その言葉が指し示す通り───ラナーは見事、魔人族の足止めを、一人でやって見せたのだ。
先程、魔人族のことを非常識だと言ったが……このラナーという男は、非常識なんてレベルではない。
この男は、一人で、明らかに上位存在である相手二千を相手に、勝利し続けている。いや、最早、魔人族が相手にすらなっていない。一方的な蹂躙だ。
しかも、この男は、自分で言った通り、誰一人として殺していない。最低でも重症に留めている。
口にした言葉通り、本当に足止めだけをしているのだ。
どちらが脅威か分かったものではない。
理の外にいる存在。「本当はこの世界の人間じゃない」と言われても簡単に信じてしまいそうだ。……十分ありえそうだな、そんな感じのこと言っていた気がするし。
何でこれほどの男が表舞台に上がらないのか分からない。何で自分で全てを解決しないのかも分からない。
正にイカれた存在だ、こいつに逆らったら何をされるか分かったものじゃない。
あいつは俺に言った───「強者たる物語を見せろ」と。
なら、俺はあいつの言った通り強者になるだけだ───強者になるしかない。
まぁ、元々、“最強”への成長は俺の目標でもある。そこまで抵抗がある訳じゃない。
このままラナーの言う通りにしておけば、俺は間違い無く“最強の騎士”になれるだろう。
………“理想の騎士”には、もうなれないかもしれないが。
「………」
いや、今は考えないようにしよう。
間近に危険が迫っている状態なんだ。“理想”だなんだと言ってられない。
今はラナーが魔人族を抑えてくれているが、それだっていつまで続くか分かったものじゃない。
ラナーだって生物だ。生物である以上、疲れは溜まっていく筈。それに、魔人族の軍勢が三千、四千……一万と増えていけば、いくらラナーでも足止めは難しくなるだろう。何故かあいつ、不殺を貫いているし。
象と蟻を思い浮かべてみればいい。象と蟻には覆せないほどの力の差がある。一対一で戦えば、まず間違い無く象が勝利するだろう。
だが、いくら戦力差があろうとも、それが足止めとなれば話が変わってくる。
象と蟻には圧倒的な差がある。だが、象一匹で、二千もの蟻を、殺さず足止めできるかと訊かれれば、「いいえ」と答えざるえない。
事足止めとなれば、数はそれだけ大きなファクターとなるのだ。
二千もの蟻が相手でも、倒されはしないだろう。だが、進行を抑えることはできない。
故に、いくら理外の存在であるラナーであれど、いつか限界が来る。
くよくよ悩むのは目先の問題を解決してからだ。
今はまず、強くなることだけを考えよう。
俺は頭を振り、今のことに意識を戻す。
俺は今、四ヶ月振りに修練塔学園に顔を出していた。
目的は、『退学届』を提出するため。
本当は、退学なんてしたくなかった。母が生活費を削ってまで行かせてくれた学院だし、夢である騎士も遠のくことになるから。
でも、今は騎士だなんだと言ってられない。
アスラ滅亡の危機なんだ。ラナーの言葉が正しければ、対抗できるのは俺しかいないらしい。もう、他事に気を配ってる余裕は無い。
これから、さらに本格的なレベル上げにかかる。きっと、学院に通うのも難しくなるだろう。
仕方がないことだ。母さんには、事が全て終わった時、謝りに行こう。
実は、学院に来た理由はもう一つある。お世話になった人にお礼を言いに行くことだ。
ケイン先生やリーネ先生には大変お世話になった。
ケイン先生は、前々から俺の質問によく答えてくれたし、決闘で明らかに過剰な暴力が振るわれそうになった際にはすぐ間に入って止めてくれた。
リーネ先生は、何度も怪我をして運ばれてくる俺に、毎回適切な治療を丁寧に施してくれたし、俺を心配してよく声をかけてくれた。
二人には本当にお世話になった。だから、お礼だけでもちゃんとしたい。
ということで、俺は退学届を提出した後、ケイン先生の所に来ていた。
「本当に辞めるのか?」
俺が退学するということを伝えると、意外にも、ケイン先生はそれを惜しむようなことを言い出す。ケイン先生なら「そうか」の一言だけで済ますと思っていたのに。
「………はい」
「そうか……」
ケイン先生が難しい顔をして俯く。
こんなケイン先生の顔、初めて見た。
「……今のお前なら」
「!」
「今のお前なら、問題無く講義についてこれる。そうやって修練を積んでいけば、お前は間違い無く素晴らしい騎士となるだろう。それでも、やめるのか?」
「………」
驚いた。まさか、ケイン先生の口から引き止めの言葉が出るなんて。
教師としての仕事はきちんとこなしつつも、生徒との間には一線を引いているイメージがあったが……意外と、情に熱い面もあるのかもしれない。
「そう言ってもらえるのは、本当に嬉しいです。でも、もう決めたことなので」
「……そうか」
俺の意思が固いと見るや、ケイン先生は一つ息を吐き。
「お前がそう決めたのなら、これ以上、口を挟むべきではないな。分かった。頑張れよ。例え騎士になれずとも、お前は何かを成し遂げられる男だ。それは、一年近くお前を見てきた俺が保証してやる。だから、自分の信じた道を真っ直ぐ進め」
これまた、今まで見たことの無い優しい表情で、俺のお腹辺りに拳を当て、ケイン先生は俺を送り出してくれた。
「お前の活躍を、心より祈ってる」
□□□
ケイン先生との別れを済ませ、今度は医務室へと顔を出していた。
次は、リーネ先生との別れだ。
「そう……遂に学院辞めるんだ」
リーネ先生は、笑顔で俺の話を聴いていた。笑顔なのに、どこか悲しげで、複雑な表情。
「はい。今まで散々良くしていただいたのに、こんな結末になってしまって申し訳ないです」
リーネ先生は、今、どんな気持ちで、俺の話を聴いているんだろう?
「申し訳ないなんて、そんなこと思わなくていいわよ。むしろ、これで心配事が一つ減るから、少し気持ちが楽になってるわ」
「ははは……それは……どうなんだろ……?」
リーネ先生からしたら、全然そのつもりはないんだろうけど、辞めてくれて嬉しいと言われているみたいで、少し複雑だ。
「でも、急にどうして? あんなに学院に固執していたのに」
「………」
まぁ、当然理由は訊かれるよな。
色々と察して、何も訊かずに送り出してくれたケイン先生みたいな人は、少数派だ。
理由を訊かれるのは覚悟していた。
でも、どう答えればいいんだろうな?
正直に話しても、混乱させるだけで意味無いし。
かといって、嘘をつくにしても、まともな言い分が思い浮かばない。
答えが出ず、曖昧な笑顔を浮かべるしかできない。
「……そっか。答えられないんだね」
そんな俺の曖昧な返しからでも、リーネ先生は俺の気持ちを察してくれて、それ以上言及しなくなる。
「すみません」
「謝らなくていいよ。何か事情があるんでしょ?」
その通りだ、事情がある。
それでも、何も言えないというのは、何か心に来るものがある。しかも、その相手がリーネ先生ともなれば、尚更だ。
「それにしても………そっかぁ。ラクト君も学院を去るんだぁ」
リーネ先生は、その言葉を、物思いに耽るように呟く。
「……も?」
「あれ? あ、そっか。ラクト君にはまだ言ってなかったね」
「?」
「私もね、今期いっぱいで学院を去るの」
「え……?」
一瞬、思考が止まった。
リーネ先生が、学院を去る……? どうして? とても優秀な治癒師なのに。
「最近、やっと手の空いている治療師を見つけられたんだって。来期から、その人がここの保健医として勤めることになるの」
「そんな……リーネ先生は、それでいいんですか!?」
「元々、そういう契約だったしねぇ。 それに、今期いっぱいの猶予も貰えたし。これ以上求めたら、バチが当たるわ」
そう言いながら笑うリーネ先生。しかし、その表情には哀愁が漂っている。
「………学院を去った後は、どうするんですか?」
「ん? そうだね……どこか適当な所を借りて、薬屋でも営もうかなって考えてるわ。ほら、私、治癒士だから。処方するだけじゃなくて、製作するのも得意なのよ」
「……そうですか」
どうして、生徒の怪我に対して的確な処置をしていたリーネ先生が職を追われるのか分からない。そういう契約だったとはいえ、今までこの学院に尽くしてきたリーネ先生に対して、その対応はあまりにも薄情ではないのか。
リーネ先生から職が奪われることに、納得できない。
でも、それはあくまで俺個人の憤りだ。
納得できないからといって、ここで癇癪を起こしても何も変わらない。
逆に、リーネ先生を困らせることになる。
自分の力の無さが恨めしい。
「ここに長年勤めてた分、お金だけは溜まってるのよね。だから、辞めても当分は生活に困らないし……何より、この学院で保健医をやっていたって実績は、割りとプラスなのよ。この実績を上手く使えば、客呼びにも苦労しないし。実は、ここを辞めた所で、何も支障無かったりするのよね」
でも、どれだけ悔やんだって、この現状が変わることは無い。
リーネ先生が現状を受け入れている以上、俺にできることは無い。
なら、
「………」
俺がやることは───
「薬屋が開店したら、教えてください」
「───え?」
「必ず、行きつけの店にしますから」
「………あ」
「俺、実は最近、Aランク冒険者になったんですよ。Aランク冒険者行きつけの店となれば、さらに宣伝になりますよね」
「う、うん………って、Aランク冒険者!?」
「そうですよ? 驚きました?」
「うん、驚いた……て、流石に嘘でしょ、ラクト君。流石の私も騙されないよ」
「えぇ? 騙してないんだけどなぁ〜」
「もう! 元気づけようとしてくれるのは有り難いけど、嘘は駄目!」
頬を膨らませて、俺を叱るリーネ先生。
人差し指を突きつけながら怒るその姿に、Aランク冒険者だと信じてもらえずに怒られることに、思わず苦笑いをしてしまう。
「……」
これが、俺にできるせめてものこと。
今まで沢山心配をかけてきたリーネ先生にできる、唯一の恩返し。
「リーネ先生のお店、楽しみに……してますね」
「……うん」
□□□
あれから募る話もあり、リーネ先生と話し込んでいたら、あっという間に日が暮れる時間となってしまった。
「じゃあ……そろそろ行きます」
「うん」
楽しい時間だった。
こんなに楽しかったのは、いつぶりだろ?
名残惜しい気持ちを残しながら、俺は部屋を去るため出口へと向かう。
「───ねぇ、ラクト君」
引き戸に手をかけ、開けようとした所で、再びリーネ先生から声をかけられた。
俺は顔だけ彼女の方に向け、次の言葉を待つ。
「………生きなきゃ、駄目……だからね?」
どこか縋るような声色で、そんなことを言われた。
「死んだら、何も残らないから……失うもの、ばかりだから………だからぁ、生きなきゃ駄目だよっ」
まるで、近くで誰かを失ったことがあるみたいな言い方だ。いや、実際に、失ったのかもしれない。
よくよく考えれば、あんなによくしてもらったのに、俺はリーネ先生のことをほとんど知らない。知らないことばかりだ。
今後、その空白を、少しでも埋められたら───少しでも、リーネ先生のことを知ることができたら、そう思う自分もいる。
リーネ先生との繋がりを無くしたくない、もっと強くしたい、そう思う俺がいるのも確かだ。
でも、今はその時じゃない。
「はい」
死んではいけない、その教えに、俺は笑顔で答えた。
俺はもう大丈夫だと、心配いらないと、その意味を込めて。
□□□
俺は医務室を出た。
そして、学院の廊下を歩く。
楽しかった気分も、歩く度に急速に冷めていく。
思い出すのは、リーネ先生がこの学院を追い出されるということ。
彼女がこの学院を追い出されるのは、彼女自身に問題があったからではない。ただどうしようもない、大人の事情。
それをどうにかできない自分に、どうしても腹が立つ。力の無い自分が、恨めしい。
この考えは偽善だ。整合性の無い、傲慢な独りよがり。
俺が何かをしようなんて考え自体が間違っている。
それでも、この気持ちだけはどうしようもならない。
恩義のある相手が困っていて、そこに手を差し伸べられない。そんな自分が、どうしようもないほど情けなく感じる。
あまりにもイラつきすぎて、ギリッと歯軋りをしてしまうほど、俺の心の中は荒れていた。
と、そうやって歩き続け、遂には男子トイレ近くまで来た所で、
「うらぁっ!!」
声が聞こえてきた。
この声の調子には聞き覚えがある。誰かを虐め、愉悦を感じている時に出る声だ。
しかも、この声の主にも、心当たりがある。
俺は男子トイレを覗く。
そこには───
「あははは! もう抵抗しねぇの??? 抵抗しないとつまんないよぉ〜。……おら、もっと楽しませろっっよぉ!!」
「おいおい、そこら辺でやめてやれよぉ? じゃないと死んじゃうよぉ〜、カマザ君が」
「とか言いつつ、お前も笑ってんじゃん」
愉快に、人を傷つけながら笑っている男が二人。
そして、その二人に好き勝手イジメられているのが───
「………」
以前、俺に何度もちょっかいをかけてきた男子生徒・カマザ=セコだった。
何でイジメる側だったカマザがイジメられているのか、その理由を想像するのは難しくない。
カマザの成績はそれほど良くはない。この学院には弱肉強食の風習がある。万年成績最下位であり、格好のイジメ対象である俺がいなくなったから、代わりに、成績の低いカマザにイジメの対象を定めた───そんな所だろう。
……くだらねぇ。
「おいおいお〜い、カマザくぅ〜ん、バテるの早くなぁ〜い? まだちょこっとイジっただけだよぉ〜? ねぇねぇねぇ〜え?」
「ぎゃははは! お、まだ次の講義までは時間あるよなぁ? よし、やっぱもう少し遊んでこぉぜぇ? なぁ、カマザくぅ〜ん」
……チッ。
「おぉい!!」
「「「───っ!???」」」
俺が声をかけた瞬間、イジメていた二人、以前俺が模擬戦でボコボコにしたダマセとモグ、そして、何故かイジメられていたカマザまでもが肩を跳ね上がらせた。
「っ、お、おぉ、ラクト君じゃ〜んっ……」
「ひ、久しぶり〜……」
俺に対して明らかに苦手意識を持っているのが分かる。笑顔を浮かべてはいるが、ぎこちないなんてもんじゃない。
それでも、彼らにもほんの少しの意地があるのか、それを悟られまいと振舞い続けてる。
俺に対する恐怖心があることを、認めたくないんだろう。
「………」
しかし……。
今まで下に見ていた相手に負けた。
てっきり、敵愾心を剥き出しで接してくると思ったけど、そんな感じは全くしない。
負けたことに悔しいとすら感じる度胸の無いウジムシ共。
ふざけんなよ、こいつら。
何でこんな軟弱者が、この学院にいるんだ?
向ける視線を鋭くしたからか、目の前にいる二人に焦りが生まれる。
「え、えっとぉ……もしかして、ここ使う所?」
「あ……ぁあ! ごめんねぇ〜、邪魔しちゃってさ」
未だに、何で俺が声をかけたかも分かっていない。
周りの雰囲気に流される有象無象。これこそが正しいと周りが言うから、それを信じ込むだけの連中。自分の中で善悪を判断する力も無い、いや、善悪を判断するのも怖いと感じているのか?
だとしても、自分から率先して民を守る騎士、それになろうって連中が、そんな考えでいいのか? 騎士になったとして、そんなことで、多くの民を守るため、動けるのか?
「……チッ」
俺はその場から移動する。
移動先は───
「───!」
カマザの前。
「………ちょ、ちょい〜? そりゃあ……何の真似?」
「え、え? ん〜? ラクト君、何する気なの?」
この実力主義な学院にいながら、俺が弱者を庇うように立ったから、二人が無理解を示してくる。
そりゃ、この学院じゃ、弱気を虐げ、強者を尊ぶことこそが正しいと思われがちだもんな。何も考えないこいつらからしたら、俺の動きは歪だろうよ。
そんなんだからっ、っ。
「……お前らさ、何してんの?」
「「へ?」」
「その程度の実力しかなくて、何してんの?」
一応、俺はこいつらの実力を『測定眼』で観察していた。
そして分かった───こいつらは、四ヶ月前となんら変わっていない。
「えっと……?」
どうせ、言っても変わらないのは分かる。
今、俺が「本気で騎士になりたいなら、もっと勉強して、もっと修練を積まないと駄目だろ」と言ってやった所で、この手の輩は、何も変わらない。
今まで、色々な連中の、色々な醜い所を散々見せつけられてきたからな。なんとなく、それが分かる。
言っても聴かない、なら、俺のできることは───
スキルホルダー:威圧 カチッ
「「「───!?!!?!?」」」
ここにいる俺以外の三人が、一気に顔を青くさせていく。
発動したスキルは『威圧』。
自分の能力値より圧倒的に低い奴らにのみ有効の、牽制『スキル』。
食らった相手は、全身の筋肉が緊張し、震えて上手く体が動かなくなる。また、精神的にも威圧され、萎縮していく。
つまりは、圧をかけただけだ。
それでも、この軟弱者共は、これだけで『殺される』と感じたんじゃないだろうか?
一人は震えて後退し出し、一人は腰を抜かす。
それからさらに威圧し続けた結果───
「「う、うわぁぁぁああぁあぁぁあああああ!!!!」」
二人は、カマザを置いて、どこかに逃げていってしまった。
「……ふん」
簡単に敵前逃亡する二人の修練生に呆れてしまう。
こんなのが、栄えある修練塔学園の生徒でいいのか? そう考えてしまう。
まぁ、もう俺には関係の無いことだが。
もうイジメていた二人もいなくなったことだし、俺もここから去ろう───と動き出した所で、
「おい!」
後ろから、怒気を含む声でマサニから話しかけられた。
「……何?」
本当は無視して立ち去りたい気持ちを抑え、渋々だが後ろを振り向く。
俺が視線を向けると、一度肩を跳ね上がらせるマサニ。
強者に対する恐怖が残っているようだ。
しかし、その感情よりも、怒りの感情の方が上なのか、すぐに顔を顰め、俺に鋭い視線を向けてくる。
「……っ、なんのつもりだぁ、てめぇ……!」
「……」
「あぁ? てめぇ……俺よりも上になったからって、調子こいてんじゃねぇぞ……! てめぇなんかに助けられるほど、こちとら落ちこぼれてねぇんだよ!! ぁあ!? 何様のつもりだぁ!! ふざけてんじゃねぇぞてめぇ!!」
マサニは「ラクトなんかに助けられるのは屈辱だ」とハッキリ言ってのける。
なら、イジメられないように努力しろよ、て言ってやりたい気もするが、他ならぬ、自分の力ではどうにもすることができなかった俺がそれを言うのは違う気もして、口から出かけた反論を呑み込み。
「別に、ただの自己満足だ」
何で助けたのか、その理由を正直に告げることにした。
「はぁ?」
「俺は、お前らとは違うと、それを証明したかっただけだ。それ以上でも以下でもねぇよ」
「───!」
それだけ伝えると、今度こそ、その場から去る。
何故、こんなことをしたのか?
イジメられている者の味方になる、弱者に手を差し伸べる──それは、理想の騎士だからできることだ。決して、最強の騎士になったからと言って、できることではない。
俺は、もう、理想の騎士になれないと分かっている。環境が、俺の在り方が、そうはさせないとその道を阻んでくるから。
だから、ハッキリ言って、今の行為はただの時間の無駄だ。
やるべきことではなかった。
だからと言って、イジメを見過ごすことは俺にはできなかった。
理由はハッキリと言えないし、自分でも何故かはよく分かっていない。
それでも、あれを見逃しちゃいけないと本能が訴えた。
俺の心根が、あそこから去ることを許してくれなかった。
心底馬鹿らしいと思う。
強くなって、魔族と戦うと決めたクセに、心の中ではまだ夢を諦めることに整理をつけられていなかったのだ、俺は。
そんなことではいけないと思うから、そんなことでは魔族に勝利するという目標が達成できないと思うから、今一度、心に決めよう。
もう俺は、迷わない。
強くなること、そのことに意識を注ぐ。
それだけが、この国を救う方法だから。それだけが、俺のことが大嫌いな女神に反逆する唯一の方法だから。
それまでは、他の全てを、心の奥底に仕舞っておこう。
俺は顔を前に向ける。
すでに学院の校門前まで来ていた。
そして、校門近くには誰かが立っている。
俺からしたらすでに見慣れた顔になったそいつが、こちらに挑発的な笑みを浮かべて立っている。
「よぉ、心の整理は済んだか?」
何事も見透かしたように語りかけてくるそいつに、相変わらず腹が立つ。
しかも、言っていることがけっこう的を射ることが多いので、質が悪い。
「……はぁ、終わったよ。もう、大丈夫」
「そか。なら、明日はいよいよ竜退治だな。いやぁ〜、どうなるか楽しみだ」
竜─── 一匹で国を壊滅させ、下手をしたら世界の破滅を呼ぶ超危険生物。最早、災害と評してもなんらおかしくない生物でもある。
明日は、それの退治に行ってもらう、と隣で歩くラナーが、つい先日俺に言ってきた。
今の俺なら、竜をも越えられる筈だ、と。
「軽く言いやがって。今日中にきちんと装備を整えないと」
「そうだぞ〜。俺の見立てじゃギリギリだからな。装備の調整をしてなくて負けた、なんてのは笑えねぇぜ?」
「分かってる」
相変わらず、人を苛立たせるのが得意な男だ。
言葉がいつも挑発的で、まるで怒らせるのを狙っているようにも見える。もしそうなら、俺はこいつのペースに乗せられていることになるな。そう考えると、尚更ムカついてくる。最早、怒りのループだ。
怒りが湧きすぎて、もう言葉にもならん。
溜め息が出る。
そんな俺の気持ちを分かってるのか分かってないのか、俺を見てラナーは笑い。
「ささぁ、お前にはもっと強くなってもらう必要があるからな〜。もう十分S級クラスにはいるだろうが、それじゃあまだ足りねぇ。この先に行く覚悟も……できてるよな?」
「………当然だ。お前が言ったんだ、“最強”になれ、と。なら、お望み通りなってやるよ。お前を軽く捻られるぐらい、強くな」
「おお〜、そりゃ楽しみだ」
ラナーは一層楽しげに笑い、また前を向いて歩き始める。
皮肉を込めての言葉だったのだが……伝わっているのか伝わっていないのか。
本当、こいつの相手をしてると疲れる。
「でも、それには実力が全然足りてねぇぞぉ? そうなりたいなら、もっと積極的にレベルを上げてもらわないとぉ〜」
「五月蝿い、分かってるんだよ、そんなこと」
いつものように一言どころか二言も三言も多いラナーにうんざりしつつ、俺も前へ向いて歩き始める。
そうさ、こんな所で足踏みなんてしていられない。
俺はなる───“最強の騎士”へと。
この国を救って、俺にふざけた運命をプレゼントしてくれた女神様に、これからも反逆しながら中指を立ててやるのさ。
……なんか、今振り返ると、ラナーと接している内に、随分と口が悪くなったような気がする、俺。
まぁいいか。
俺は、それを自分で気付くと共に、それが少しおかしくて、笑みを浮かべるのだった。
□□□
こんなことになるなら、あの時、もっと強く止めておくべきだった。
知っていた。私は知っていた。
彼が、目標のためなら、自分の命すら懸けて挑んでいく人だと、私は分かっていた。
なのに───止められなかった。
なんて馬鹿なんだろう、私は。
こんな風に後悔するなら、あの時、例え恨まれることになろうとも、止めるべき、だったのに……っ。
あぁ……神様。
どうして、彼にばかりこんなことをさせるのですか?
酷い、酷いっ……こんなの、あんまりじゃないですかっ。
どうして……どうして……っ!
───っ!!
この世界は、どうして、こんなにも、優しくないのですか!?
応えて、ください……っ、神よ……!
皆様、初めまして、または、お久しぶりです、狐です。((^ω^≡^ω<ピギャアアアアアアアア!!!
この度、レベルアップするだけで最強に!? 無事完結する運びとなりました(と言っても、第一部『完』しただけですけど)。
完結に伴い、早速ですけど、『お知らせ』に移りたいと思います。
お知らせ(」^o^)」ェェェェェェエエ!!!!!!
実は私、夏頃(?)になりますが、小説家大賞2020にて、(別サイトの作品ですが)受賞することができましたぁぁぁぁぁ∠(゜Д゜)/イェイ!!(゜∀゜ノノ"☆パチパチパチ★フォ━━━━ヾ(*●Д●)ノ゛━━━━!!!!
いやー、ありがたい限りです。テンションぶち上げです。爆上げ爆上げ、爆上げ\( 'ω')/ジャァァァァァ!!!!
それで、そちらの作品に集中しており、また、普通に今年卒業生ということで忙しくしており、けっこう久しぶりな投稿に………申し訳、ございませんでしたぁぁぁぁぁぁぁm(_ _)m!!!!!!
これからも、上記にある都合で忙しくなるため、一先ず、第一部のみですが、完結という運びにさせていただいた次第です、はい。
この先の展開については、またやる気が出て、時間が空いたら、または、けっこう好評でしたら、完結を外してまたやろうかなぁって思ってます、はい(笑)。
この物語の主人公であるラクトは、実は、別作品に登場予定でもあるキャラだったので、最終部『完』までやりたかったのですが………今は、一先ず、別作品に力を注ごうと思います。
ここまで読んでいただいた方、誠にありがとうございました。ラクトの物語は、楽しんでいただけましたか?
一先ず、ラクトの物語はこれにて終了ですが、また、彼の物語を見つけたら、読んでいただけると嬉しいです。
それでは皆様、また機会がありましたらお会いしましょう。狐でした。





