俺と幼馴染みは談笑する
ボーイッシュ系少女――空谷穹。
以前も説明したが、俺の記憶の整理や、新しく榊に教えて貰った情報なんかもあるので、もう一度説明しておこうと思う。
所属は俺と同じ2年2組。クラブはソフトボール部に所属していて、運動神経で言えば、諏佐原は榊にも引けをとらないほどの才能の持ち主である。また、勉強面においてもそれなりに優秀で、毎回テストの上位陣に名を連ねる優秀な生徒でもある。幸崎とは、幼稚園からの付き合いらしく、大体12、3年位の幼馴染みである。最初の幸崎のハーレム形成者にして、さりげなく自分をアピールする天才でもある。……尤も、俺の見る限りで身長が低いせいか幸崎に妹としてしか見られておらず、効果があるようには思えないが。
そして彼女、僕っ娘である。現代のラノベ社会において、一定以上の順位に割り込んでくる僕っ娘である。幼い頃には自らの事を僕と呼んでいた少女達も次第に私と自称を改めていく中、いまだにそのアイデンティティを保っているということは素直に尊敬するし、榊の反応からも分かるように空谷は普通にいいやつである。なんというか、苦労人である。長いこと幸崎のハーレムに携わっているからか、自分が暴走して他人に迷惑をかけることはほとんどないし、周りをよく見て行動することが出来る人間だと思う。幸崎のハーレムの尻拭いをしているのも大抵彼女である。楔といい、空谷といい、幼馴染みが変だと苦労するようである。
「それで?どうして俺達に攻撃してきたんだ?」
「え?いやぁ。あれは攻撃のつもりじゃなかったんだけどなー」
空谷がそう言うので、榊と共にジト目で見つめてやった。流石に元気溌剌な彼女でも、決まりが悪くなったのか目線を反らして語り出す。
「う、うぅ。僕何て二人きりになったことないのに、二人でデートしやがってリア充爆ぜろと思いまして…」
「つまり、逆恨みって訳だね」
「ご、ごめんなさい。ほんの出来心だったんです!」
「……あぁ、そうか。反省してないってのはよくわかった」
大体、二人きりでデートってどういうことだよ。……あ、なるほど。幸崎の事か。珍しく二人きりだもんなあいつ。金髪の美少女と。だから、腹いせで俺達に飛びかかって来たと。というか、空谷が二人きりになったことないというのは以外だ。一番長い間一緒にいるから、何度も二人きりになったことぐらいあると思ったんだが。と、そこまで考えたところで、ふと彼女が飛びかかって来た方向を考える。あれ?幸崎達は俺達の隠れている棚の前側にいる。それに対して空谷は俺たちの後ろから飛びかかって来た。つまり、幸崎達は見えないはずなのだ。それなのにどうして彼らが二人きりでデートしている等と分かったのだろう。最初は一緒にいて、それから途中で別れたとかか?まさか、俺と榊がデートしていたと考える馬鹿なんていないだろうし。
「あ、駄目だ榊ちゃん。神座くん全く理解してないよ」
「……神座が理解していないのはいつもの事だから気にしてないよ」
「というか、幸崎のところの行かなくていいのか?」
「え?あ、うーん。どうしようかなぁ?あの後輩ちゃんさぁ、この前光輝が不良から助けてあげてたんだけどさ、それから一回も個人イベントがないんだよね。流石にそれは可愛そうだからさ。今日は皆と相談して譲ってあげることにしたんだよ」
「へぇ、やっぱそういうのってやるんだ?」
俺がそう尋ねると、彼女は少し寂しげに首を横に振る。その哀愁漂う姿から俺は楔に負けるとも劣らない、並々ならぬ苦労人の気配を感じた。
「中学校上がるまではこんな事もなかったんだけど。上がってからかな、光輝を独り占めしようとする独占欲の強い娘が現れちゃってね。独り占めされるのは嫌だから、仕方なく僕が皆をまとめてルールを作ったんだよ」
と、空谷は言った。やはり何処か寂しげと言うか、憂いの表情を浮かべながら。
残念ながら、俺は余り他人の感情を推理するというのが得意ではないし、関わりのない俺が推測することなどそもそもが失礼かもしれない。空谷は、幸崎のハーレムの所でもわりかしましな方、幸崎も間接的に関わっていたあのときの事件で危害を加えられかけた榊に謝ったのは、ほとんど関係のない空谷だけだったからだ。だから、俺は幸崎のハーレムにはもったいない人物だと思うが、個人の感情に文句を言った所で意味などありはしないだろう。それで、効果があるとするのならば、最初からその程度だったということだし、惚れた弱味という言葉なんて生まれはしないだろうからだ。考えに耽っていたせいか、空谷が俺に話しかけてくる。
「やっぱり、神座くんはあのときの事気にしてるの?」
どうして、今その話題をする。
勘なのだとしたら、俺はもう女子を敵に回したくない。女の勘って、本当に怖い。俺が分かりやすいだけなのかも知れないけど。だが、気にしているのか。そうだな。
「そうだな、当然、気にしてる。いまだに女々しく引きずってるよ」
「神座!」
「……そうだよね。謝って許して貰えるような事じゃないもんね」
「けど、空谷が悪い訳じゃないだろ。なぁ?」
「あ、うん!そうだよ。それに、私は神座と違ってそういうのは割りきってるからね。神座は女々しいか仕方ないって割りきった方がいいよ」
酷い言われようだ。
ま、空谷に罪はないので、これ以上罪悪感に苛まれても俺が罪悪感を感じるっつー話だ。そう、俺って超、繊、細!だから。少しでも罪があるやつに擦り付けるのは全く良心が痛まないが、全く罪のないやつに謝られると、逆に罪悪感感じちゃう繊細なタイプだから俺。
「う、うん?うん。分かった!」
榊が自分より身長の低い空谷の頭を数回撫でると、気持ち良さそうに目を細めされるがままになっている。これが、俗にいうナデポという技術なのだろう。それを素でする榊にマジ脱帽。素手で素でするという言い回しも考えたが、どうも不評な気がしたので、心の奥に閉じ込めておくことにした。しかし、身長差があるので、姉妹にしか見えない。美少女が二人並ぶと、系統が違っても姉妹に見える。今、そんな風に思った。撫で終えられた空谷の表情からは憂いや、寂しげと言ったマイナス方面の表情は鳴りを潜め、嬉しそうな笑みだけが浮かんでいた。
「えっと、じゃあね! お似合いな御二人さん!」
空谷はそういうと、幸崎の方へと向かって行ってしまった。丁度、ラッキースケベのイベントを起こしていたので、それの成敗と回りのお客さんへの謝罪だろう。事が終息していく一部始終を見終えた俺は榊の方へと振り向く。
そこには、頬を朱に染めた榊の姿が。何で榊はからかわれていることに気が付かないのかね。俺と榊がお似合いだなんて、あるはずがないのに。案外、女子にとってはこの優秀な幼馴染みは弄られ体質なのかもしれない。普段は俺にそんな表情見せないくせに。
「あー、幸崎なんてもの見たから目が腐るわー。帰ろーぜ榊」
「……、う、うん。今日はもう帰ろうか!」
何時もより語気強めに言う榊の手を引いて家に帰ることにする。本当、幸崎とかさっさとくたばればいいのに。寿命あとどのくらいかな。嫌なことを思い出したせいで気分は最悪だったが、榊の表情を見たら少し回復した。少なくとも、今日、パフェを奢った位の価値はある表情だったから。カフェにはまた行ってもいいかもしれない。……でも、このデパートには二度と来ないと心に誓った。
第三十二話。
ぎりぎり連日投稿。
受験勉強したくないと考えていたら、何時の間にか出来上がっていました。
次回の投稿も二週間以内が目標。




