俺は幼馴染みに敗北する
――あと3つ分、神座を好きに出来る、そういうことだよね♪
榊から、わりと大きな声でその言葉が放たれた瞬間、周りで俺たちの様子を伺っていた女性たちは、俺が確認できた限り五人は、目を見開いていた。人生の先輩で彼女達に言うのも何だが、きっとその一瞬で如何わしい妄想でも繰り広げたのだろう。大体、そういうのは男子が、女子に言うべき台詞だと思う。お前は俺の物だ、とか?俺が言うとなんかもうこの世の言葉では言い表せない気持ち悪さが漂いそうなのであくまでも想像だが。時々にしか♪使わない奴は鬼畜。
3つ、好きにされるというのは、される側としては非常に不安である。当然、R-18展開が俺に起こりうるはずもないので、予測されるは酷な命令ばかりである。ここぞとばかりに買い物袋を背負わされたり、朝御飯を作ったりだろうか。予測される線としては。あれ、それって普段となんら変わりない気がする。
「3つも命令できるのかー」
朗らかな笑みで俺に言ってくる榊。こいつ、最近意地が悪くなったのではないだろうか。そう思う。しかしながら、彼女の理論は正論であって、流石の俺も綻びを見つけ出すことは出来ない。冷静さを欠いた時点で俺の負けである。そんなものは聞いていなかった。そう言ったところで、白い地球外生命体の契約を取り付けるマスコットキャラの如く、聞かれなかったから言わなかったと答えるだけだろう。つまり、安直に提案した俺が悪い。
「ま、それは後々考えるとして。はい、神座。あーん」
俺は口を閉じるしかない。このスプーンに乗ったパフェを食べるということは、彼女と関節キスをするということである。さっき、このスプーンで食べてたし。この際、あーんされるのは仕方ないとしよう。幼馴染みだし、実際はやっていないが、昔もやっていた事と考えれば、なんとか納得できる。だが、この年齢で関節キスを気にしないのは不味いんじゃないだろうか。そんなリア充御用達イベント、俺には全く関係ない。が、冷静に考えれば、容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。そんな榊ならば、起こしてもおかしくはないのではないだろうか。そう、ラノベ的に言うなら、ぶっちゃけ榊はヒロインでもおかしくないレベルである。むしろ、序盤に主人公に惚れるキャラにいそうである。
「何て言うか、ヒロインで居そうだな」
「何を今更って感じだね」
つい、思っていたことが口から出てしまったが、榊は得意気にそう返してくるだけだった。どうやら、自覚はあったらしい。それとも、俺が小説のキャラクター見たいに言ったことだろうか。普段、俺はラノベのキャラみたいに~とか言ってる俺はそんな風に見えるのだろうか。粋がってる系のキャラで居そうだな。俺は違うがな。多分。絶対と言えないところがあれである。なんとも情けない。
「さぁ、早く口を開けるんだ!」
「だが、ことわ――むぐぅ!」
「隙ありだよ神座!」
俺が、断るときの最早定番になっているネタを言おうとしたら、口にスプーン突っ込まれました。俺の初関節キスが幼馴染みに奪われた件について。羨ましいと思った奴は手を上げなさい。ちょっと、表出ろや!
しかし、冷静に考えると、関節キスは後に口を着けた人だけがキスをしていることになる。なぜなら、先に口に着けた人は、あとで着けた人には一切関係ないからだ。そう考えると、俺だけ一方的に初関節キスを奪われたということになる。別に、奪い返そうとは思わないが。だが、この幼馴染み笑ってるけど大丈夫なのか。俺は幼馴染みとして、榊の貞操観念が非常に心配である。顔を赤くぐらいしてくれてたら、俺だってそんな心配しないで済むのに……。
「じゃあ、はい神座。次は神座が私にあーんってする番ね」
「それは、命令か?」
「うん。はい、どーぞ」
ぐぐぐと、俺は唸るが、命令と言われてしまってはどうしようもない。むしろ、3つのうちの命令の一つが潰れたことを喜ぶべきなのだ。俺は、彼女が俺に向けてきているスプーンを無視し、彼女のパフェに突き刺さっているスプーンをとる。だが、彼女はスプーンを持っていない方の手でそれを制す。力を加えて動かそうとするが、俺の意思の通り動かない。榊の方が力が強いとかなにそれ泣けるんだけど。
「駄目。このスプーンで」
こののところで語気を強くする榊。
この状況。この状態。俺には何処にも逃げ場はなかった。俺は、ついに観念し、彼女のスプーンをひったくり、彼女の口にパフェを掬ったスプーンを突っ込んだ。
「ん、おいしい」
そう言って彼女は口のはしに付いたパフェをペロリと舌で掬った。そんな彼女の姿に見惚れていると、はっと辺りを見渡す。こちらを興味深く見ている女性が数人。……俺は犠牲になったのだ。女性たちの話題の種という名のな……。
「さて、そろそろ帰ろうか」
「了解」
ちらりと時計を見ると、まだ九時半である。もっと長いこと居た気がするが気のせいだったようだ。精神世界は時間がたつのが遅いようだな。俺と榊は会計を済ませるためにレジに向かう。俺が財布から金を出そうとすると、榊はそれを制する。
「なんだよ?」
「神座の分も殆ど私が食べちゃったし、自分で払うよ」
「……そういうわけにはいかないだろ。金っつーのは大事だからな。俺が払うよ」
「……一万円見せびらかしてる人に、お金大事何て言われたくないけど……。じゃあ、言葉に甘えちゃうね」
もとよりそのつもりである。
始まりはともかく、賭けに負けたのは俺で、その賭けの中身がパフェを奢るなのだから、榊が払わないことになんら問題はない。俺だって何口か貰った訳だし。
「美味しかったね」
「あぁ、そうだな」
会計を済ませ店を出ると榊が話しかけてくる。店を出るときに、女性たちにグーサインを出された気がするがきっと気のせいなのだろう。流石にこのご時世に、そこまでノリのよい女性な中々いないだろう。あーんという羞恥プレイを乗りきった俺はまたひとつメンタルが強くなったかもしれない。こんな風でしかメンタルが強化出来ないなら、俺は豆腐メンタルでも構わないと思った。
「さて、と。次はどこに行く?」
「は?え?帰るんじゃねぇの?」
まだ朝の九時半だが。午前九時半だが。
用事がすんだし帰るんじゃねぇの?
「はぁ……。神座はそういう人間だったね」
「え?何で俺呆れられてんの?」
訳が分からない。用事すんだ、帰る。これが完璧な答えだろう。食べるものは食べたし、後は帰るだけだろう。
「乙女心が分かってないからだよ」
榊はそう言って俺の腕を取り、ゴールデンウィークにも行ったデパートへと向かうのだった。……冷蔵庫の中身なくなってきてたからいいけどさぁー……。俺は彼女に引かれるがままに、あのハーレム男と出会った場所へと向かうのだった。大事な事だから二回言った!
第三十話。
模試とかで遅くなってしまいました。
パフェ食うか食わないかでどれだけ尺食ってんだよって話ですね。
神座くんには無視できない問題なんでしょう。
次回の投稿は二週間いないにできたらいいなと思っています。




