俺と幼馴染みの駆け引き
「神座! この扉開けて!」
テスト明けの週の日曜日、俺の穏やかな睡眠を邪魔するものが一つ。
言わずもがな、榊による扉強襲作戦。作戦名『駅前に新しく出来たカフェでパフェ奢って作戦』である。作戦に作戦って被っちゃってるけど気にしない。
「開けてー!」
布団に引きこもるが、部屋の中が見えない榊は当然扉を叩き続ける。かれこれもう三十分ぐらい叩き続けている。榊は手が痛くならない体質なのだろうか。俺なんて、拍手十回ぐらいしたらヒリヒリするのに。
「……」
しばらくすると、諦めたのか、扉を叩く音がやむ。ここまでにかかった時間、四十五分。現在の時刻は八時半なので大体七時四十五分から叩きつけていることになる。近所迷惑もいいところである。尤も、そんな概念は残念なことに俺と榊の住むこのマンションには存在しないのだが。
「……神座、お父さんに報告するよ?」
静かに響いたその言葉に、俺は戦慄し布団をすぐさま出て、扉を開け榊の前に現れる。最終手段にして最強の方法、父親を呼ばれるをちらつかされては俺も対応せざる追えない。前も言ったが、彼女の父親は本当に親バカで榊に対して甘い。なんせ、マンションを丸々一つ買い与えている位なのだから。まぁ、それも彼女が父親と離ればなれになりたかったからおねだりして頼んだものなのだが。ちなみに俺がここに住んでいるのは俺が望んだわけではなく、俺の父親が勝手に買っていたものである。
「やっと出てきてくれたね」
「……鎖鎌さんを呼ばれたら困るからな」
俺は不満げに呟くが、その言葉は距離の近い彼女に届いたようで、榊は笑みを浮かべ言葉を発した。
「早く出てこない神座が悪い」
「権力振り回す奴よりかはましだ」
知らない間に俺の幼馴染みはとてつもなく傍若無人になっていました。俺の返答も大概ではあるが。以前は、そんなこと言う子じゃなかったのに……。育ての親みたいなことを考えていると、榊はその楽しげな笑みを皮肉げな笑みに作り替る。俺を見上げている彼女は、髪を切った印象もあいまって可愛らしく写る。美人はどんな髪型でも似合うので特だと思う。柄にもなくそんな風に思考が脱線する。現実逃避の一種である。
「使えるものは何でも使う――じゃなかったっけ?」
「俺、そんなこと言ったか?」
言ったような気もするが言ってないような気もする。どっちだろう。何となく言ってる確率の方が高い気がする。ほら、俺ってそういう人間だし。俺がそう思ったからきっとそうなのだろう。自分より自分のことを深く知っている人間なんていないだろうし。思うに、鈍感とか、自分の感情に気がついていないとかいうのは、気がついていないのでなく、気がついていないふりをしているだけではないだろうか。言うなら、自分の感情に仮面をかけているって言ったところ。俺は自分に正直だが表情筋が仕事してくれないだけであって、別に自分の感情を偽ってる訳ではない。
「言った言った。まぁ、ちゃっかり出てきてくれるところ辺り、神座ってツンデレだよね」
「……鎖鎌さんに報告されるのが嫌なだけだ」
「そういう態度をツンデレだって言ってるんだよ」
何がおかしいのか榊はニコニコと笑う。本心を言ったのに、ツンデレに解釈されるって何。きっと、榊の耳は腐っているに違いない。いや、もしかしたら榊の脳内では父親は物凄い優しい設定になっていて、それゆえに俺が自分の父親を恐れるはずがないと考え、結果、俺が彼女とカフェに行くのを恥ずかしがり渋っていたのは単に恥ずかしかっただけで、結局行くと答えたために俺のことをツンデレと言ったのか?……それは、俺なのだろうか。なんか違う人が混ざっちゃっている気がする。どうせ、脳内妄想なので気にしても仕方ないけど。
「さ、行こっか?」
「待て、俺の腕を取るな、組むな、胸を押し付けるな!わざとやってんのはわかってんだよ!?俺で遊んでそんなに楽しいか!!」
腕の腕を取った榊は故意にその胸を押し付けてくる。落ち着け、大丈夫榊の方を見なければ、俺の美形耐性が効力を発する。よし、大丈夫。俺は昨今の主人公のように腕に伝わってくる弾力に顔を赤らめ動揺するほど柔じゃない。そう、何てったって榊は幼馴染みなのだ。それを意識すれば、この程度の拷問どうってことないぜ!
「いや、違うよ神座。遊んでるんじゃない、弄んでるんだ!」
「世のたぶらかされる男子に謝れぇ!」
最近、俺の幼馴染みが俺に冷たい。誰か、俺のこの心情を小説にでもしてくれないだろうか。
「ふぅ、中々にお洒落な店じゃねぇか」
「うん、神座の視点から見たお店の雰囲気なんてどうでもいいからさっさと行こう」
あれ?おかしいなぁ?
何時もならば軽口が返ってくるところなのに、今日は何時になく冷たい。俺が何かをやらかしたのだろうか。いや、きっとパフェを前にして俺に構っている余裕がないだけだろう。きっとそうに違いない。こう言うと俺が構ってちゃんみたいに聞こえるが断じて違う。
「すいません、二人です」
店内に進んでいく榊に付き従うようにして俺は進んでいく。正直、俺一人ではこんな店には来なかっただろうなーと、カラフルな店内を見てそう思う。榊が席についたので、俺もそれに向かい合うようにして座る。正面から榊を見るのは久しぶりな気がするな。何時もは机から斜めに立っている榊をみているだけだったからな。
「……すいません、これ二つ下さい」
「かしこまりましたー」
水を運んで来たウエイトレスにメニュー表を指差して注文する榊。気のせいかウエイトレスがにやついていた気がするがまぁ、気のせいだろう。メニュー表を見せてもらったが、別にラノベにありがちな恥ずかしいメニューでもなかったし。冷静に考えたらそこまでありがちではないか。
「それにしても榊、見られてるな」
「ふっ、私は美少女だからね!」
「そうだな、美少女だな」
「ふぇ!?ほ、ほんとにそう思う?」
顔を真っ赤にして俺に言及してくる榊。ふっ、自分で言ってて自滅してたら苦労はないな。だが、ショートカットの榊に対する美形耐性が完全に育ってない俺では、顔を赤くしアセアセする榊の可愛らしさにノックアウトされそうになっていた。あぁ、これが本当の自滅って奴か……。俺、落ち着け。戦争では冷静な奴が最後には笑う。コミュニケーションとは言語の戦争だ。つまり、冷静になった奴がコミュニケーションを制する。
「はっ!ま、まぁ、私が可愛いのは当然だけどね。美容にも気を使っている
し」
「そんな話初めて聞くけどな」
「周りの人は私が可愛いから私に注目し、神座のことを釣り合わないとか思っているに違いない」
「それはただの事実だ」
「…卑屈もそこまで行くと笑えないね」
体を机に預け、呆れたように俺を見上げる榊。漫画だと背景にガーンとか入ってそうな雰囲気だ。ちなみに、精神を落ち着けた俺に動揺はない。冷静になった俺に死角はないのだ。
「お待たせしました、パフェ二つでございます」
ウエイトレスの人がそう言って俺たちの前にパフェを二つ置いていく。俺が、スプーンを取ってさっそく食べ始めようとすると、榊が何やら言いたげにこちらをジーっと見つめている。あまり、見つめられているのもいい気分ではない。俺はそういう視線には不慣れなのだ。
「……なんだ?」
「あーんしようよ」
冷静な俺に死角はない。
「スイマセン、チョット、オッシャッテイル、イミガ、ワカリマセン」
「だから、あれだよあーんってやつ。神座のスプーンでパフェの一部を掬って私の口に突っ込むやつ」
冷静な俺に死角は……。
こいつは一体何がしたいのだろうか。カップルでもあるまいのにそんなことするわけない――俺の場合、誰かと付き合っても絶対にそんなことはしないと決めているが。榊は説明したきり、口を開け続けている。俺の背中を冷や汗が伝う。端から見ればリア充御用達イベントでしかないが、俺にそれをする勇気はない。いや、あの、へたれとかじゃないんすよ。俺の初あーんは彼女にあげると決めてるんですよ。何て心の中で軽口を叩いても状況が変わるわけもなく。本当にどうする、どうするよ、俺!
第二十八話。
最近、ネタが切れてきたので、次回の投稿は二週間以内が目標です。
よろしくお願いします。




