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俺と幼馴染みは招待する

 以前も言った通り俺の幼馴染みの杯榊は大金持ちの家に生まれた美少女である。榊の父親といえば、代々続く杯家の資産を一代にして数倍にまで膨らませたやり手の実業家である。いや、元の資産が資産なだけに、やり手では済ますことのできない資産を持っている。実際、彼の資産は石油王にすら張り合える、かどうかはしらないが、とにかくそれぐらい凄い。また、何度も言っている通り、榊は美少女だ。娘は大抵父親にとっては可愛いものだ。彼女の父親、杯鎖鎌(さかま)は榊のことを非常に可愛がっている。が、それを女子が享受できるのは、思春期を迎えるまでだろう。彼の様に、娘を可愛がりすぎた場合、待っているのは娘による反抗である。つまり、何が言いたいのかといえば。


「じゃーん。これが私達(・・・・)の住むマンション」

「え?ここがですか?高そうだけど普通……」


 マンションの前で手を広げている榊の言葉を普通に受け取ったのか、静かに反応する俺を除く帰宅部一同。真実を知らなければ、そんな反応するよな。けど、言葉の意味はちゃんと理解しような。


「お前らは勘違いをしている」

「勘違い?」


 可愛らしく首を傾げる楔。男子なのに、何故可愛い。いや、今はその事じゃないんだよ。


「このマンション、大体榊の所有物なんだよ」


 彼の父親、杯鎖鎌は娘におねだりされて、マンションを買い与えるような男なのだ。


「「「え?え、えぇぇぇ!?」」」


 驚きを隠せない一同。並譜さんも、古幡後輩も叫んでいる。ある程度予測できていたのか、楔は苦笑していたが。あれ?実は分かってた?じゃああの首を傾げるのはわざと?う、うわー。俺が女子だったら、絶対落ちてたわー。男でよかったー。


「一部は神座のものだけどね」

「違う、俺の父親のだ」


 さて、杯家が凄いのはさんざん言った。では、振り替えって我が家、簪家について語ろうか。俺、簪神座はぶっちゃけ、普通の人間であると自負している。いや、俺が普通でないというのが事実だとしても、榊という完璧に近い幼馴染みがいる時点で、普通を脱却することは出来ないのだ。では、俺の父親は凄くないのかといえばそう言うわけではない。むしろ、できすぎるレベル。鎖鎌さんほどではないにしろ、俺の父親はそこそこの企業家であるのだ。そこそこであるがゆえに、簪家は杯家と企業連携をしているところもある。榊とほぼ同時期に俺が生まれたというのも大きかったかもしれない。つまり、俺自身、余り語ることもないし、語ろうとも思わないし、まず聞かれないのだが。


「簪先輩って、お坊っちゃまなの……?」

「まぁ、あながち間違いではないと思う」

「なんで、そんな自信なさげなの?」

「一つ屋根の下……」


 古幡後輩はマンションを見て、ポツリとそんなことを呟く。おい、お前今、頭の中で何を想像した。一つ屋根の下と言っても、俺と榊は住んでいる階層がそもそも違うので、いかがわしいことは何もない。大体、俺は、榊から俺の父親が買い取った、僅かな部分で暮らしているんだから、間違いなど起こりうる筈もない。勿論、俺の命が危ないので、起こすつもりも毛頭ないが。


「大体、俺はもっとあばらみたいなアパートでいいつってんのに、息子の誕生日プレゼントと入学祝を兼ねてマンションを買うって、常識はずれもいいところだぜ」

「まぁまぁ。あれは、私のお父さんが提案したみたいなところもあるし」


 そうなのだ。元々、俺はもっと安っぽい何処にでもあるようなマンションに住む予定だったのだ。それなのに、鎖鎌さんが俺の父親にマンションを売り、それを買いやがったから、契約する予定だったマンションの契約を切り、ここに急遽変わったのだ。それが一年前の話。このマンションも榊の為に建てられたようなものだしな……。


「俺、一人暮らしがしたかったんだけどな……」


 このマンションに移り住んでから、時々、榊が俺の住んでいる部屋に降りてきて、食事を一緒にとる。当然、食事をとるだけだ。それ以外には何もない。疚しいことなど一つもない。これは、マジで。鎖鎌さんが怖いから。


「簪先輩……」

「おい、古幡後輩なんだその目は。どうして俺をそんなゴミを見るような目で見てるんだ?」

「いや、杯先輩にやらしいことしてるんじゃないかと不安で……」

「はっ、そんな心配は無用だな。なぜなら!!俺は榊には体術で一切勝てないからだ!」


 ふっ、これぞ完璧な理論。

 自分の無実を手っ取り早く証明するには、それを否定するのではなく、それが行えない根拠を幾つもあげていく方が説得力がある。出来ないと最初から否定するのではなく、その行動をするための基礎ができない、故に、それが出来ないと証明するのだ。例えるなら、数学の二次関数を最初から出来ないと否定するのではなく、式の意味が分からないか、だから二次関数が分からない、と言った感じだろうか。うん?伝わりにくい?……理解してくれ。俺が発言したあと、しばらくの間、俺は皆に暖かさと冷たさが入り交じった目で見られた。ちょっと、複雑な気分だ。俺、一応帰宅部の副部長なんですけど……。誰も俺に敬意を払っていないのは何故だ。


「ていうか、榊ちゃんなんで私に教えてくれなかったの?」


 諏佐原が、榊に詰め寄る。そりゃ、これだけ家がでかければ、教えてほしくもあるだろう。いつでも遊びに行けそうだし。今日はどの部屋で遊ぶ?みたいな。


「仲良さそうだな二人とも……」

「……神座にはそう見えるんだ?」


 俺の呟きを、聞いた楔が訝しげな目線を向けてくる。なんか、俺、今日はよく人に見られるな。よせよ、照れるだろ?……気持ち悪いな。まぁ、五月病のせいだろう。うん、全部五月病が悪い。俺は何も悪くないはずだ。


「た、助けて!!神座ぁー!」

「並譜さん任せた」

「え、え!? 私ですか!?」


 なんか、俺は疲れた。照りつける太陽に体力が消費されていく。こちとら、サッカー部を辞めて一年以上が過ぎてんだぞ。体力の無さなら誰にも負けない自信がある。そんな理由から、諏佐原から榊奪還作戦を並譜さんに一任したのだが、どうやら一人では荷が重かったらしい。動揺している。


「古幡後輩。お前は、並譜さんのサポートな」

「えー?僕もするんすかぁー?先輩一人でやればいいじゃないすか」

「お前は榊を助ける義務があると思うが?遅刻の危機を救われたんじゃなかったのか?」

「……はぁ、分かったっす」


 そう、古幡後輩は、榊のあの意味不明な頭を使いすぎる計算によって導き出された自宅から、高校までの最速ルートのお陰で、今までアクシデントが起きた場合、間に合わなかったのが、確実に間に合うようになったのだ。その事をいたく感動している古幡後輩を見た俺は、いつかその恩を返させる時を狙っていたのだ。そして、それが今、この時である!


「神座ぁー……」


 俺は、幼馴染みに懇願するように俺の名前を呼ばれても、決して動揺したりしない。何故なら、俺が介入することによって、空気が著しく悪くなるから。大体、本当なら榊一人でも抜け出せる筈なのだ。というわけで、今回は俺の出番なし。任せたぜ、後輩ズ。


「諏佐原先輩、話が進まないので、杯先輩を離してあげて下さい」

「それで、杯先輩は、どうして僕達をここに連れてきたんですか?」


 鮮やかでもなんでもないほぼ単独にしか見えない連携プレーで、榊を諏佐原の魔の手から救い出す、並譜さん。一人で十分だった。普通にナイス単独プレーだった。俺の隣では、楔がほっと一息ついている。大方、諏佐原が、榊にいらんことしなくて安心しているのだろう。


「勿論、家で遊ぶためだよ。神座、神座。あのポーズ」

「え?あの恥ずかしいポーズするの?てか遊ぶためなのかよ」

「早く」

「おぉ、分かったよ……」


 俺は片腕でマンションの入り口を指し示し、もう片方の腕は胸の方へ折り畳む。ホテルマンみたいな感じを想像して頂ければよろしいかと。俺は、榊に促され、いつか使うかもと言われ練習してきたあの台詞を口にする。


「「ようこそ、いらっしゃいませ」」


 俺と榊は声をシンクロさせて彼らを我が家へと招待した。

第十二話。

神座と榊さんは同棲(笑)してました。

一つ屋根の下なのに、そんじゃない感じたっぷり。

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