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交際ゼロ日からの、契約結婚 ~夫が抱える25の嘘~  作者: 当麻月菜
交際1日目

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3

 完敗して言葉を失う真澄の前に、菜穂子は立つ。


「あのね、まあ君。突然だけど私たちって結ばれる運命じゃなかったんだと思う」


 鈍器で殴られたような衝撃が真澄を襲った。まさか、こんなことを言うためにわざわざここに来たというのか!?鬼か。


「っ……!!いきなりやって来て随分なことを言うな」


 精一杯虚勢を張った真澄を、菜穂子は穏やかな目で見つめる。


「うん。随分なことだよね。でも、まあ君はその運命を変えるためにずっと頑張ってくれてたんだよね」

「っ……!!」

「まあ君があのマンションから居なくなってから、私ね不思議な夢を見てたの。5歳の私が9歳のまあ君と、夏休みの間ここ……おばあちゃんちの近所で一緒に遊ぶ夢」

「嘘だ」

「嘘じゃない。まあ君、絵が上手でさ、私の似顔絵描いてくれた。虫取りも本当は嫌だけど付き合ってくれた。私の両親とお兄ちゃんと一緒に花火だってした」


 懐かしそうな顔で菜穂子が語ったのは、全て繰り返す人生の中で起きた出来事だ。


 驚きつつも、真澄の頭の中で、今頃になって菜穂子がそんな夢を見るのか、という疑問がわく。


「最初はまあ君が恋しくてそんな夢を見てると思ったの。でも違った……これは、別の私が過ごした日々なんだよね?」

「……違うと言ったら?」


 質問を質問で返す真澄に、菜穂子は肩をすくめる。


「もうっ、そう言うと思った。ま、いいよ。私、知ってるから」

「何を知ってるんだ?」

「智穂さんが教えてくれたの。まあ君が同じ人生を何度も繰り返してるって。そしてまあ君は何度も私に告って振られてるってこと」

「なっ……!」


 最悪だ。勝手に黒歴史を語るなんて情報漏洩にも程がある。


 怒り顔を隠せない真澄を見て、菜穂子は頬をポリポリと搔きながら、しゃがんで目を合わせる。


「まぁ……あの、ごめんね。んーごめんっていうのも失礼か。っていうか、私もね智穂さんからその話を聞いた時、信じられなかった。私がまあ君を振るわけないし。だからといって智穂さんが嘘を吐いてるってわけでもないし。で、色々考えて、考えて、答えがわかったんだ。まあ君は私たちの運命を変えるために、何度も人生を繰り返してくれたんだって」


 晴れやかな顔をして、凄い事を言ってくれる。真澄は今、自分がどんな顔をしているのかわからない。


 ただ一つわかるのは、これまで歩んできた人生は決して無駄ではなかったということ。


 おそらく繰り返す人生の中、真澄は模索しながら少しずつ運命を変えていったのだろう。神の領域ともいえるそれを、想いの強さだけで成し遂げたのだ。


 これまでの苦痛も、恐怖も、遣る瀬無さも──神だか何だかわからない試練だったということなら、何もかも全て納得がいく。


「はは……とんだ無茶ぶりだったな」


 肩を震わせ片手で顔を覆う真澄の頬に、幾つもの涙が滑り落ちていく。


 そんな真澄の頭を菜穂子はギュッと抱え込む。菜穂子も泣いていた。


「ごめん、ごめんね……!まあ君にだけ、辛い思いをさせちゃって!」

「馬鹿!違うっ」


 そうじゃない。自分の方が強くそう願ったから、神は自分を選んだのだ。


 神が気まぐれに与えた試練は、真澄だからこそ乗り越えることができた。


 そう伝えたくても嗚咽が邪魔して声にならない。せめて馬鹿と言ってしまったことだけでも謝りたいのに。

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