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私、時永めぐる(16)は11度目の人生を歩んでいる_2


「主様、もうこやつは始末してしまった方がいいのではないか?」


 珠ちゃんが私の殺害の下手人を見るなり、疲れたように云った。


「む? 珠殿、こやつを知っておるのか?」

「ぬ? 本体はこやつを忘れたか? まぁ、小物ではあるからな。容姿も大分悪い方に変わっておるようだしの。また随分と人相が悪くなりおって。

 というかの、なんでもう娑婆に出てきておるのだ? 殺人未遂二回ぞ。たかだか4年程度で出てこれるものかの? 仮釈放なぞ認められんと思うが」

「実害らしい実害がなかったからじゃないかな? 私、怪我ひとつしてなかったから。というかさ、今回の世界線だと被害を受けたのは玉様だし」


 座敷牢に放り込まれている中年女を見る。現在は昏倒してひっくり返っているから静かなものだ。

 ここに私が放り込んだ直後は非常にうるさかったようで、玉様が妖術で黙らせた結果がこれだ。


「で、これは何者なのじゃ?」

「私を2度殺し損ねた女。……いや、2回は成功して“ふりだし”に戻されてんだよね。こう、首をスパーンと出刃包丁で切られたのと、心臓をふたつとも刺されたのとで」


 うん。思い出したくもないな。


「玉様もこれに絞殺されかけて、卒業式の時には襲撃されたでしょ?」

「あぁ、思い出した、あやつか。……またえらく酷い面になったの。あの時の血気盛んな面影がまるでないではないか」


 玉様が呆れている。


 しかし、これまでの死因をふりかえると、一度として同じ死因がないな。……いや、今回は首を切られた時と一緒と見ていいのか? 刃物で切られた……いや、今回は刺されたのか。微妙に違うな。


 ん? なんか玉様が側近に人(狐)になにか指示してるな? なんだろ?


「女神様、ひとまず、これを釈放した者を調べ上げます。女神さまを害した者である以上、軽い罪とはなりません。わずか4年で出てくるはずがないのです」


 ……あ、敬語になっちゃったよ。たまに玉様、こんな風になっちゃうんだよね。立場的には問題だろうに。大丈夫なのかな?


「で、主様、これ、どうするのだ?」


 珠ちゃんが中年女……えっと、合田美代子――だったかな? いじめ主犯格の合田剛の母親を指さした。


「向こうに放り出すよ。きっとまたやらかすだろうし、その度に人生やり直すとかやってられないもん。

 玉様、ちょっと一時的にここをダンジョン化するけどいいかな?」

「構いません。なにをなさるのです?」

「スナッチイミテーターを作ろうと思って。行方不明ってことになると、それはそれで面倒だろうからさ」


 私を中心にダンジョン領域を広げる。えっと、2メートルくらいで大丈夫かな。

 ついでスナッチイミテーターの生成準備。私のとなりに、ちょっとした樹木サイズの豆の木を生やす。こいつがスナッチイミテーターの……母体? だ。


 豆の木はするすると弦を伸ばし、合田の顔面に張り付くと鼻の穴へと弦を侵入させる。このまま鼻腔奥から脳にまで弦を伸ばし、脳から記憶データをコピーするのだ。


 なんで鼻の穴からなのかって? 実は脳って、完全に密閉されていないんだよね。視神経の経路と嗅覚神経の経路がそのまま脳に直通しているわけだからさ。


 ほら、殺人バクテリアなんていう、脳を食い荒らすバクテリアの侵入経路が、鼻腔奥の嗅覚神経の末端だし、恐ろしいことに、脳は結構無防備であるのだ。


 聴覚? そっちは途中に鼓膜があるからね。


 データを収集し終え、豆の木には豆がひとつ実り、ぐんぐんと大きくなっていく。花も咲かずにいきなり実ができるということからも、これが植物ではないというのがわかるだろう。生っている実は、見た目にはでかい枝豆かサヤエンドウかといったところだ。


 ちなみに、こんな生成の仕方になってしまったのは、昔見た洋画が原因だ。こんな風に人と入れ替わる異星人の侵略兵器……だったかな? それをそのまんま真似たのだ。


「主様。いまも思うのだが、これはどうなのだ? なんで豆……」

「あー。うん。それは私も思うんだよね。でも元ネタが強烈に頭に残っちゃっててさ。未来的SFチックな円筒形のカプセルなんてのも考えたんだけれど――」

「――けれど?」

「いや、魔法的なことに科学の塊みたいなので生成するのがどうにも合致しなくてさ。結果として映画で見たコレになっちゃったんだよ。魔法陣で召喚するみたいな方向性だと、時短するようなものだからコストが倍くらいかかるしさ」

「あー……。だが儂、そのSF映画とやらは視たことがないのだが」

「一番最初の人生で見たやつだしね。珠ちゃんと会う前だよ。100年以上も前になるのか。だっていうのに、このサヤが割れて人が出てくるシーンだけは強烈に頭に刻まれててね。映画自体のストーリーは覚えてないのに。覚えてないってことは、あんまり趣味に合わなかったか、単純に面白くなかったんだろうなぁ。……この世界線でもあるかな? いや、アメリカがかつての世界の半分以下になってるし、映画産業もヨーロッパ勢が中心みたいな感じだし、なさそうだなぁ。……コア、持ってる?」


《一応、あります。後ほど視ますか?》


「そうだね。ついでだしハリウッド映画も適当に視てみようか。この世界線だと映画の都は存在してないしね」


 そう応えたところで、豆がパキッと乾いた音を立てて割れ、中からスナッチイミテーターが現れた。


 全裸の女性。そしてクローンと違うところは、オリジナルとまったく同じであるということだ。黒子の位置はもとより、そのプロポーションはもちろんのこと、古傷などの傷跡も含めてまったく同じだ。


「うん。彼女にはこっちで普通に生活してもらおう。特に命令することもないし、法令を遵守して、つつましやかに生活してくれたらいいや。

 で、オリジナルの問題児は、大事な大事な息子のところに送ってあげよう。

 せっかくだからあの馬鹿を壁からひっぱりだして、心臓を戻してやるか。壁にいるより、あの世界で生きるほうのがよっぽどつらいからね」



 ★ ☆ ★



■【ダンジョンコア(異世界)】


 女神さまが帰還された。


 まさかまたそのお姿を見ることができるとは。感無量とはこのことだろう。


「久しぶり。国の方は問題ない? さすがにおかしな状況に気が付いて騒いでる馬鹿が、内乱とか起こそうとかしてない? まぁ、それはそれでいいんだけれど、どうせ権力掌握とか、銭勘定が目的だったりするんだろうなぁ」


 最初のお言葉がそれであった。あぁ、なんという慧眼。


 既に我が【ジッグラト】のあるアーロガン、隣接するクピドゥス、セロス、デジールの四国の状況は最悪だ。私は特になにもしてはいないが、スナッチイミテーターがコピーした指導者の能力通りに活動した結果だ。


 いや、いわゆる取り繕うような行為も一切しなかった結果といえるだろう。変化する状況に合わせ、応変に対応できなかったわけであるから。


 まっとうな政治のために、賄賂の類を消しただけで瓦解するような国家など、あるだけ害でしかなかろう。


「女神様、この世界線でのここの【ダンジョンコア】には、黙示録を仕込んではあるのかの?」

「黙示録? やってないよ。以前やらかしたときは、かなり腹に据えかねたからだし、発動条件も私が殺されたらだからね」


 女神さまの言葉に驚愕した。私に目があれば、まさに見開いていただろう。


「主様。せっかくだし、仕込んで置いた方がよいのではないか? ほれ、この世界の者どもなど、それこそ地球の神話にあったソドムとゴモラの民と似たようなものであったではないか」

「いや、確かに酷かったけどさ。よくもまぁ、社会が成り立ってると感心するレベルではあったけれど。……暴力主義みたいな社会形態だったしねぇ」

「よくもまぁ、それで国家が成り立っておったな……」

「私が渡り歩いて感じた限り、見せかけだけだよ。大昔の日本と一緒かな。まぁ、国家として支配するには、遠隔地の地方にまで目が届かないからね。そういったところが好き放題するのは……ねぇ」


 なるほど。意図的に文明社会をリセットし、こちらで制御……教育しなおすということか。

 黙示録については、宗教においてはつきものであるからそのデータはある。女神さまの行った黙示録がいかなるものであるかは不明であるが、いずれも神罰であることには違いない。


「異世界召喚なんてものを完全に消しさらねねばならぬのであるし、それにはスナッチイミテーターだけでは難しかろう。どこに秘匿されておるのか探しきれぬ。ならば、すべて破壊しつくしてしまうのが手っ取り早いと思うがの」

「あー。召喚のことをすっかり忘れてたな。他にもあるって考えるのが自然だよねぇ。……ノアの箱舟的なことでもして、いくらか生き残らせればいいか」

「女神様、黙示録とは、どういったことを行うのじゃ?」


 背の高い、異様なほどの力を持った女が女神さまに訊ねた。力だけをみれば女神様以上、それをいえば、女神さまに仕える獣の尻尾を持つ幼女がとびぬけた強さを持っているが、それでも彼女らを従えているのは女神さまだ。


 この関係性を不思議に思うが、女神さまがここで成したことを鑑みれば、それも得心するというものだ。


「黙示録はそれなりに簡略化したよ。

 まず蝗害で食糧事情を破壊。

 ついで火竜7頭による火災。これは蝗の処理とついでに町の破壊ね。ちなみに7頭なのは、1頭だと忙しすぎるから複数頭。で、7つの大罪、7つの美徳にあやかって7頭。

 つぎが洪水。大嵐は、天候操作なんてやらかすと冗談じゃなしに自然サイクルを壊しかねないから、大雨に合わせて、山に大量の水を転移させるなりして引き起こす。これで火災鎮火ね。そのために、蝗害と火竜のタイミングを計らなきゃいけないから、一番面倒かな?

 最後に、こういった災害の後って宗教がこれ幸いとあれこれ大嘘騙ってロクでもないことを始めるから、天使の姿のモンスターを大量に放って、そいつらを絞殺して回って終了。後は野となれ山となれってね」


 ……女神様、さすがにダメ押しの天使は問題なのでは? いえ、宗教がロクなことをしないのは同意しますが。実際、この国も政治と宗教が結託してましたし。


「とりあえず、データを渡しとくね。それと、私が連れてきたあの女と、左から2番目のガキ。あの鼻の脇に大きな黒子のある小僧ね。あれを解放して女と一緒に外に放逐して。心臓は……いいや、両方ともこっちで保管して、心臓をつぶさない限り死ねないようにしといてよ。こっちの世界で生き地獄を見てもらおう。餞別に銀貨100枚くらい渡して」

「主様、随分と過保護ではないか」

「私たちとちがって、身を守る術なんてないからね。かといって、あっさり賊に殺されてもつまらないし。ということで、よろしく」


 おぉ。女神さまより直々の使命。内容は……大分こじんまりとしたモノではありますが、精一杯励みましょう。

 えぇ、決して死なせることなく、苦難に満ちた人生を送らせましょう。


 そして渡された【黙示録】のデータを確認。……お、おぉぅ。これはまた。それにしても火竜と天使のデザイン、そしてなによりその性能が素晴らしい。ここまでとくればコストもさぞかしと見たものの、予想の半分以下とは。かつてのぼんくらマスターが生み出したドラゴンなど、まさに品質不良の劣等品もいいところだ。


 さすがは女神様。よし、さっそく準備にとりかかるとしよう。


 あとは【黙示録】の開始時期を決めなくては。


 近く、アーロガンを皮切りに、民衆運動が激化し革命にまで発展するはずだ。それに合わせ、雨季の時期をみつつ開始すればいいだろう。


 人間どもは一度苦難の底に落ち、助け合わねば生き延びられない状況になるのがよいのだ。さすれば正しく人と為れるハズだ。


 女神さまがこの世界の人間を毛嫌いしていることを私は知っている。ならば、それを正すのが私の仕事だ。


 最下層である私の元より、女神さま方は表層の【壁の広間】へと移動した。これから、あの罪人どもを処するのだろう。

 牢獄から解放というのに、処するというのはなんとも皮肉なことだ。


 まぁ、奴らは女神さまを直接害した連中だ。


 どうあろうと、しっかりと地獄を味合わせてやろう。寿命で逃げられると思わぬことだ。


 私は新たにスナッチイミテーターの設計を始めた。




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わー、なんか彷徨えるオランダ人みたいのやる気だー
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