私、時永めぐる(13)は11度目の人生を歩んでいる
私、時永めぐる(13)は11度目の人生を歩んでいる。
なんというかね。もう慣れたものだよ。ここまでの死亡イベントはすべて回避。これはもうあれだね。初見で大苦戦したゲームをRTAで走れるレベルにまでなったっていう感じかな。
あぁ、でも、回避せずに、そのまま受けた死亡? イベントもあるよ。特に死ぬようなこともなく、周囲の人に助けてもらえたイベント。
神隠しイベント後、いじめ主犯格の母親に校門から出たところで首を絞められるなんてことがあったわけだけれど、これまで同様に取材に来ていたマスコミに助けられた。
そういえば、マスコミが役に立ったのって、この時だけだな。それとも、まともな者がたまたまいただけかな? だいぶん前に、マスコミの集まる前で堂々と殺人が行われるのを報道した連中の系譜だというのに、随分とまともな者もいたものだと思う。
ま、私が一切手を加えていない事件はこれだけだ。とはいえ、被害に遭ったのは私ではなく、私に化けた玉様だけれど。
さて、世界線統合の影響が少なくとも私の周囲において顕著に出てきているわけなんだけれども、その原因……いや、原因とは違うか。原因は【ふりだしにもどる】だろうし。
なんといえばいいんだろう。未来予知的な記憶が表に出てきた遠因というのが判明した。断言はできないのだけれど、橋姫様から教えてもらえた。
橋姫様。今回の世界線でも、早々にダンジョンコアを渡して仲良くしてもらっているんだけれども、ダンジョンコアを得たことで予知的記憶がかなりはっきりしてしまったらしく、ヤンデレ度がえらいことになった。
で、これらの予知的記憶が色濃く出た原因というのが、前回私が作ったダンジョンコア。私としてはそんな風には思っていなかったけれど、アレ、天然物ではなく、人工物、ということになるんだよね。私が創ったわけだから。
そのため、天然物は世界との結びつきが強いのに対して、私の創ったダンジョンコアは私と強い結びつきがあるのだそうな。
つまり、私に憑いてる珠ちゃんたちほどではないけれども、私の【ふりだしにもどる】に微妙についてきているらしい。私と融合しているコアが自身に取り込んだひとつは問題ないものの、妲己さんに渡したダンジョンコアが私の死によってパニックを起こしたと、橋姫様から教えてもらったよ。
それらの情報を聞いて、なんとかこの状態を収束させる方法? を閃いたのでやってみたところ、どうにかみんなのおかしなヤンデレ度が落ち着いたようだ。なんの根拠もない思い付きだったんだけれど、やってみるもんだね。
なにをしたのかというと、【理核生成】で早々に理核を一個創った。必要となるエネルギーが少しばかり不安だったけれど、思っていたほどでもなかった。たぶん一夏分の暑さから吸収する熱エネルギーで賄える程度だ。
そして【現実改変】。これでこっちに引っ張られているというダンジョンコアの意識? をそれにぶち込んだ。
結果として、理核……紛らわしいから【人造理核】と呼ぼう、【人造理核】の意識が、赤ん坊レベルから幼児レベルにまで上がった。
主無しの状態のダンジョンコアであるはずなんだけれど、そこに妲己をマスターとしたダンジョンコアの意識? の一部を取り込んだようなことになったため、このダンジョンコアは妲己をマスターとすることとなった。
いや、多分、別の人でもマスターには成れると思うんだよ。でも意識をぶち込んだ結果、それの影響のせいか妲己を“お母さん”なんて呼び出してね。
あっちの妲己、赤ん坊的な意識の【人造理核】を普通に子育てしてたからなぁ。多分、そのせいだ。
で、こっちの妲己ももちろん母性的な部分が強くあるようで、異様な執着をみせることに。……なんだか“破れ鍋に閉じ蓋”みたいな雰囲気があるんだけど、大丈夫かな?
妲己、いかにも狐の妖らしく、シニカルで底意地の悪い性格をしているからなぁ。玉様に拾われてあれこれあって、その性分は善性に傾いてはいるけれど、敵対する者には容赦ないんだよ。
前回の世界線でも若干心配だったんだけれど、こっちの世界線の妲己は完全に親馬鹿になりそうな雰囲気だ。なにせ橋姫様にお願いして幼女型のオートマタの素体を用意してもらって、そこに【人造理核】をセットして娘扱いしている有様だし。
そのためオートマタ型ダンジョンなんていうような変な存在になっているからね。ある意味、私みたいな状態だ。うん。教育はしっかりしないと大変なことになるな。移動型のダンジョンなんて、災害みたいなもんだよ。私がいうのもなんだけど。
「あれがあそこまで可笑しくなるとは思わなんだ」
私の目の前で、玉様が湯呑を手にため息をついた。今日は数日後に控えている、実父による私の売り飛ばしイベントへの対処のための会合だ。とはいえ、さして相談することもないため、ほぼ単なる世間話になっている。
「妲己も私とは別のベクトルで、いろいろと渇望していたからね。なんの打算もなく慕って庇護を求めてくるモノなんてものに遭遇しちゃったんだもの、壊れるのも当然よ」
「あー。なんとなくわかるな。多分、私が干渉しなければ、玉様もあんな有様になってたし。つか、そこから酷い方向に進みまくって、最後には世界を祟るでっかい石になったしね」
「は?」
「あれ? 珠ちゃんから聞いてない? 聞いていないならいいや。おおむね、妲己と同じことになって、最終的には玄翁和尚にでっかい槌でぶん殴られて終わっただけだから。ちなみにその時砕けた破片が珠ちゃんね。私と関わって何度も世界線移動したせいもあって、そこらの大妖怪以上な存在になっちゃってるけど。そろそろ神格を得るんじゃないかな。信仰なんて一切浴してないにもかかわらず」
玉様と橋姫様が顔を見合わせた。
「玉藻は一度、珠緒から己の末路を聞いておいたほうがいい」
「そんなもの知りたくもないのじゃが。そもいまの妾とはかけ離れておろう」
「それでも。珠緒の扱いを間違えると大変なことになる。きっと本質は玉藻の知らぬ玉藻の前のそれと同じ」
「そんな怖がらなくても大丈夫だよ。珠ちゃんいい子だし。って、私よりもずっと年上なんだけれどさ」
お茶菓子代わりの一口サイズの稲荷ずしを口に放り込む。これはいたってスタンダードなものだ。黒糖を使った黒っぽい稲荷ずしは邪道であると私は思っている。
「うーむ……妾の知らぬ術とか知っておりそうじゃな」
「どうだろ? 500年くらい回復のために寝てただけみたいだし。あ、そーだ。珠ちゃん、うちの先祖に拾われて、山神みたいなことをしてたんだよ。でもこの世界線だと玉様討伐されてないから、うちの山、守り神不在なんだよね。まぁ、いなくてもなんとかなってるみたいだけれど。誰か守ってくれたりしないかな」
「めぐるちゃん、またとんでもないことを……」
橋姫様が顔をひきつらせた。
そんなに厄介なことかな。勝手に山にはいって荒らす、馬鹿タレ共に対処してもらうくらいのことなんだけれど。
「橋姫の。これ、戦争にならんか?」
「なると思う。めぐるちゃんは自分のことを正しく認識すべき」
「そんな大げさな」
……なんでふたりはそんな残念なものを見るような目を向けてくるのかな?
「鬼のほうからは、金熊あたりが名乗り出るかな」
「なんで金熊さん」
「ドラゴンの毒抜き技術を詳しく知りたいみたいだし」
あー……。あれ、やり方はフグの卵巣の毒抜きと一緒なんだよね。期間はずっと長いけど。
5年くらい塩漬け、もしくはぬか漬けにするだけなんだけど。そのあと水にぶちこんで塩抜きして、ガチガチに硬くなったお肉がしんなりしたところで燻煙してジャーキーにするんだけど。
正直、難しい作業ってないんだよね。ただ問題なのは、なんでこれで毒が抜けるのか不明ってことだけど。いや、フグの卵巣のほうも謎らしいけど。
ほかにも毒抜きは試したけれど、成功したのはこれだけだったんだよ。灰塗れにして土ん中に埋めるとか、ひたすら茹でるとか色々やったんだけどさ。
「……そもそもの話、毒のない種類のドラゴンを飼育でもすればいいんじゃないのかなぁ。大物の鬼さんに半月くらいダンジョンに滞在してもらえば、ドラゴン一頭生み出すくらいのエネルギーは溜まると思うけど。まぁ、幼体だろうけど」
「……ドラゴン牧場。エサ代が大変そう」
「草食種にすれば問題ないんじゃないかな? ヤギと一緒で雑草処理に便利だよ。ヤギに比べたら匂いも問題ないし」
「データはダンジョンコアに入ってるよね? 後で調べてみよう」
「それがいいと思う。前の世界線で、おっちゃんたちが面白半分で限定販売したドラゴンジャーキーがアスリートに爆売れして、生産に問題がでてたから」
橋姫様と玉様が顔を見合わせた。
「あれはなにをしでかしておるんじゃ。いや、先の話であろうが」
「でもなんでアスリートに刺さったのかしら?」
「合法的なドーピング的な?」
橋姫様と玉様が同時に うわぁ……と声を上げた。
「あれ、そんな効果があるんだ」
「ゲームなんかにあるバフ効果みたいな感じかな? 薬物的なモノじゃなく、魔法的なモノだから、ドーピング検査に引っかからないんだよね。とはいえ、大した効果じゃなんだけどなぁ。効果時間もいいとこ5分くらいだし」
「いや、短距離競技だのには効果抜群なのでは? 柔道などの格闘技系の試合時間はたしか5分ではなかったか?」
「そうはいっても、直前に食べることができるとは思えないけど。バフが切れると一気に通常に戻るから、却って問題だと思うんだけれど、マイナス方面に」
「揺り返しとか、反動っていう感じかしら?」
「単にお酒のおつまみ的につまんでる分には、問題ないんだけどね。バフ効果を期待して体を動かしたりしてるとどうしてもね。
あと多分、これも薬酒と同じ効果があるんじゃないかな。効果のほどはかなり弱くてたかが知れてると思うけれど」
「原材料費が薬酒より高価な時点で、商品としてはどうかと思うわね。薬効をもとめるんじゃなく、単なる嗜好品かしら。珍味的な」
「前回の世界線で確認はしていないんだけどさ、ある男性アスリートが突然陸上の複数種目で記録を塗り替えまくるっていうことがあってね。で、丁度その頃、とあるアスリートが定期購入の契約をしたって話があったんだよ。だからもしその記録更新をしたアスリートと、ドラゴンジャーキー定期購入契約者が同一人物だとしたら問題だと思う」
「必死にみせかけの公平性を保とうとしている連中が哀れじゃな」
「みせかけの時点で思惑が知れる。却って面白い」
橋姫様はなかなか酷いことを云う。
まぁ、スポーツ業界なんて酷いしね。アスリートなんて国家からしてみれば使い捨てみたいなもんじゃないのかなって、私なんかは思えるし。国家の威信、栄誉的な? そういや今は禁止されてるらしいけど、自己輸血なんかは後々厄介なことになるらしいしね。単純に寿命が縮むみたいだし。まだ違反にされてなかった時期にそれをしていたメダリストが早世した事例もあるしね。
「お山のほうは天狗にでも打診する。鬼と狐狸連合にはダンジョンコアが渡っているから。それじゃ、そろそろ本題の方の確認をしよう。玉藻、そっちの手筈は問題ない?」
「うむ。狸共が張り切っておる。我らが目立つことで、馬鹿どもの騒ぎを大きくするのであれば、できるだけこじんまりと事を抑える予定じゃ」
「いや、普通に暴れてほしいんだけれど。下手に予定が変わっちゃうと、対処が大変なんだよね。そもそも連中、ロケランとか持ってきてるし」
「でも次の死亡イベントで修学旅行の飛行機爆破とかされたら、私たちでも対処できない」
「あ、それなら大丈夫だよ。“私の乗る飛行機に爆弾的爆発物が存在するならば、それらはすべて不発である”って現実改変するから。ふふふ。これならうっかりエンジンを止めたりもしないから万全」
そう答えたところ、ふたりは絶句した。
「あらためて、とんでもない能力よね、【現実改変】」
「うむ。女神さまでよかった。ほかの輩であればなにをしでかすか想像もつかん」
「ん。めぐるちゃんはいい子」
「……いい子かなぁ。普通、いい子は世界を滅ぼしたりしないと思うけど」
「それはあの世界の人類が悪い。あの王様の言い分は酷かった」
いやまぁ、そうだけどさ。
「ま、マスコミが大々的に騒ぐような形にはせぬが、情報は放っておいても知れるからの。心配はなかろう」
「面倒ごとを呼び寄せる方向で気を揉むことになるとは……」
疲れたように橋姫様が茶をすする。
「まぁ、矢面に立つのは妾じゃ。うまいこと目立たぬように済ませる」
「面倒くさいのは鹵獲した潜水艦の移動くらいね。出来は信用ならない代物だから、天狗たちをあまり乗せたくないわね。海坊主でも動員できない?」
「河童にでも聞いてみるか。同じ水妖じゃからな。確か伝手を持っているはずじゃ」
海坊主! いるんだ! って、そうだよね。九尾に鬼、天狗といるんだもの、ほかにも妖怪さんはいるんだって。
せっかくだし、今回の人生は妖怪さん巡りでもしてみようか。夏休みあたりに。
あぁ、でも。迷惑にならないようにはしないとね。私、交流をもちたいというよりは、ちょっと見てみたいなっていう感覚だしね。




