第98話 私、しおりの予定を切り上げる
待ったをかけたのは本家子分の松也さんである。
「なんでしょう?何か問題がありますか?」
松也さんにも、予め遠出のしおりの内容は把握してもらっている。
午前中での取り込みは限界であったが、昼食を取ったことで、エネルギーも補充したのである。
早く戻って、ゆりのきの巨木のお側に侍りたいのである。それだけでも、力に影響があろう。
邪魔はしないで欲しい。
「買い物に思いの外時間を取られた為に、もう御苑に戻る時間はないかと」
「え?」
「午前中の御苑での滞在も時間が押しておりましたから」
「うーむ」
木への往復に時間がかかったか。我らは幼児、足も遅いのである。
そして水筒の購入にも時間をとられてしまったからな。
しかし、しかしである。
滅多に遠出ができないから、時間がおしても、もう一度ゆりのきの巨木の元に戻りたいのである!
私は松也さんをなんとか説得しようと口を開き書けた。
が、松也さんのほうが少し早かった。
「晶露様もお疲れの様子です」
「え?」
その指摘に隣にいる晶露様をみると、確かに疲れが見える。
「ぼく、まだだいじょうぶです!ぜんぜんげんきです!」
そう言葉で強がって、元気アピールに手を振ってくれるが、力がない。
初めての遠出である。緊張もしていたのであろう。無理をさせてはいけない。
私は自分の欲望を切り捨てた。
「わかりました。今日はこれで帰りましょう」
私はすぐに決断した。
晶露様に無理させてまで、自分の我を通すつもりはないのである。
「ねえさま!ほんとうにぼくだいじょうぶですから!」
「そうですね。それでも、元気なうちに帰ったほうが、今日を振り返った時に、よい思い出になりますから」
「でも、しおりのとおりにしたいです」
晶露様が、しょんぼりぽつりとこぼす。
「ふふ。お出かけではアクシデントもあるのが普通ですから。次にまたお出かけする時に、その反省を踏まえた上で、またしおりを作りましょう?今日は初の遠出だったのですから、少し詰め込みすぎたのかもしれません。私も少し疲れました」
「‥‥わかりました」
晶露様は渋々ながら、頷いてくれた。
先程の言葉はやはり強がりだったのだろう、晶露様は車に乗るとすぐに寝息を立て始めた。やはり疲れていたのである。
そういう私も、つられるように眠ってしまった。ロウもへそ天のままである。
私たちが、次に目覚めた時には本家の玄関であった。
私たちは幼児。疲れて眠るは自明の理である。
幼児の特権でもある!
無事にお家に帰って来ました。お疲れ様でした。




