第54話 私、聞き苦しい言葉を発する
私と父の短い会話が終えたところで、前当主、隆源様が口を開く。
小声とはいえ、この近さである。何を話したかは定かでないにしろ、話をしているのはわかったのだろう。それを見逃しかつ咎めず待ってくれたのは寛容とみるべきか。
「灰咲の娘よ、先に来ていたそなたの父には、もうすでに話をしてあるが、今一度話してやろう。」
そう思った矢先、カチンときたのである。
私の名前は大海である!父の名は近平である!
名をちゃんと呼んでほしいものである!
名を呼ぶ価値もないということであるか?
一々癇に障るお人ある。
「昨日は晶露が大変だったのだ。泣いて泣いて、食事もとらぬ。一向に眠らぬ。そなたに会いたい。そなたに会いたいと叫んでな」
繰り返し言おう。私の名は大海である。
「誰がなだめても、泣き止まない。困り果てたぞ。どのように手懐けたのだ」
晶露様はペットや従魔ではないぞ!その言い方はどうか!
ふう、冷静になれ。
でなければ、言葉を聞き逃す。
「ま、想像はつく。そなたに救われたことが、晶露の心に響いたのだろうて」
違うのである。それは一因ではあるが、大元の要因ではないのある。それがわからぬから、見下している分家序列最下位の娘の力を借りねばならぬような腑抜けたことになっているのであるぞ、前当主よ!
私も貴方の名など呼ばぬのである!
決して意地を張っている訳ではない!
話を戻す!
晶露さまが私に求めたのは、寄り添う気持ちである!
貴殿は、本家の方々は、誰もこの子の寂しさ孤独さをわかってあげてなかったのである。
若君でさえも、それが足りていなかった。
しかし、若君にそれを押しつけるのは酷である。
若君とてまだ7歳である!
大人が配慮、最大の配慮をすべきであったのである!
常日頃、ちゃんと絆を結んでおけば、ここまで私に執着することもなかったのである。
猛省して欲しい!
ずばり貴方たちの子育ての怠慢、貴方たちの責である!言えんがな!
本家全員減点10である!あ!先程8点、いや9点か?減点してしまったのである!
どちらにしても点数はもうマイナスになるのである!
「そなたが来たことで、晶露はそこで大人しく寝ているが、またそなたが帰れば、同じ事が起る。それを何度も繰り返したならば、晶露は疲弊して体調を崩す。晶露は本家の次男、大事な身体である」
跡取りの若君にもしもの事があった時のスペアとしの大事さであろう。
血を繋ぐ義務が本家にあるっていうのか。
貴殿の考えはわかっているぞ。顔にはださんがな。
「晶露が健やかに成長する為、できる対策ならば即とらねばならぬ」
健やかにね。身体だけではなく心にも気にかけて欲しいものである!
「わかるか?」
こちらこそ問いたい!晶露様の気持ちがおわかりかと!
もし貴殿ら本家の大人の誰かが、晶露様に寄り添っていたならば、末席の末席の娘に晶露様は救いを求めなかったであろうな!
だから私の答えは否である!
わかりません!言い訳ばかりで、まったくわかりませんな!
だが、言葉の意味はもちろんわかっているとも、貴殿らの怠慢を私に押しつけようというのであろうよ!その予測がつくのがつらい!
早く述べればよい!印籠を渡せ!と叫びたいのである。
私のこわばった顔に何をみたのか、前当主!
大きく頷いたよ!
「そうか。わかったか。ならば、飲んでくれるな?」
だから何を?!
提案の中身を言え!
幼児に頼むのがいやだと?言葉にしたところで、これは頼みではなく命令であるくせに!
いくら私とてそこまでは見通せぬのである!
それともそれほど言いにくい提案なのであるか?!。
あるいはもう父に話したから、私には経緯だけ話して後は省略か?!
私は当事者ぞ!いくら幼児といえども、提案内容も聞かず、頷くものか!
いや、普通の幼児ならば頷くのか?
この際普通の幼児の判断はおいておく!
私は頷かない!
そして我が母だって、提案内容がわからないままであるのである!
保護者の1人である母にも説明なしで、諾を求めるのか!我が母がよそ者だからであるか!!
私が怒りにまかせて、追求しようとしたその時。
「わかりました。謹んでお受けいたします」
「ええっ!」
父が三つ指ついて、頭を下げたよ!
本家の方々の前だけど、声を上げても仕方ないのである!
「って?!」
母を見ると、母も父と同じく頭下げたのである?!
「げえ!」
下品だけど!まさに私の心情は、げえ!って感じである!
そこまで本家の威光は浸透してるのであるか!
驚愕の真実である!




