第42話 私、大いに肩の力をぬく
「はああああああ」
部屋に入った途端、幼児がおよそ吐かないだろう特大ため息。失礼した。
が、許して欲しい。これを吐かねばならぬほどに緊張を強いられていたのである。
なんとも親父臭いが、とめることはできなかった私の心情を察して欲しい。
昔取った杵柄で、好配の儀では、大見得を切った。
切らねばならなかったのである。
戦わずして負けは認められないのである。
しかし、大舞台を下りれば、所詮私はまだ5歳である。
腑抜けるのも致し方ないのである。
本来私が本家本宮家に来た目的は、遠距離ドライブを楽しむ為、そして本家での豪華な食事目的であった。
初の遠出のおでかけ、初本家訪問、そしておいしいご飯を食べて帰宅。
この予定だった筈である。
分家序列最下位の我が家である。
それらの楽しみが分相応であった。
なのにー。
「ねえさま!」
元気な呼びかけとともに、胸に飛び込んで来たのは、本家若君の弟君であられる晶露様である。
「おつかれさまでした!」
避けられるとは露とも思っていない、この信頼。
短い間になぜにこうも獲得できたのか。
それはさておき。
腕の中にいる3歳をぎゅっと抱きしめる。
あ~、癒やしである。
全方位より敵意を全開で向けられた後、この子のぬくもりは癒やし以外の何物でもない。
今はこの信頼を甘んじて受け入れよう。
疲労困憊の私には必要なものであるからな!
なぜここに当然のように彼がいるのかは不問とするのである。
それは私が考えるべきことではないからである!
ここに滞在するのも後わずか。
癒やしを十分に堪能するのである。
「ありがとうございます。晶露様もお疲れ様でした」
「はい!」
は~。可愛い。
<我が輩もがんばったのである。褒めてもよいのだぞ>
晶露さまの頭上にちょこんと埋もれる、ロウが偉そうに要求してくる。
白フクロウの雛、実体は生まれたての妖精である。
元はといえばだなっと文句の1つも言いたいが、そのふんぞりかえる姿もまた癒やしになっており、憤る気持ちが端から消えていく。
疲れもそれに一役かっている。
<ああ、ロウも厳しい視線の中、よく我慢したな>
と、エルフ語で褒めてやる。
<だろうとも>
もう少し謙虚な気持ちを教えねばなるまいが、今はおいておく。
疲れて居る時に、指摘してもろくなことにはならないのである。
「ソファに座って、お茶を飲みましょう」
私はそっと晶露様の身体を離すと、手を繋いでソファへと歩く。
一息つかないとやってられないのである。
そしてなぜか座らずに、ソファの後ろに立つ、父がいた。
おそらく、晶露様が座っていたソファの後ろに立っていて、私が部屋に入ってからもそのまま待機していたのであろう。
なぜに出迎えてくれなかったのか。
まだ、晶露様にたいして緊張しているのか?
はあ。今は突っ込むまい。
「父、座って一緒にお茶を飲もう?」
ただお茶を誘うのみに留めよう。
「あ、うん!」
父は私がそう誘うと、ホッとしたように頷いた。
私の疲れに感謝するのである!父!色々スルーしてあげたのだからな!
本日2話目。
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