第40話 私、望まぬ下剋上す
今日は更新1話のみです。
「これより好配の儀をはじめる」
当主、明臣のその声と同時に、大広間にお囃子の笛や太鼓の音が厳かに鳴り響く。
吹き抜けになっている為か、大きく大きく響く。
音が、広間の空気を、清浄に神聖な場所へと、変えていく。
広間はおよそバスケットコート2つ分程の広さか。
その床には、大きく描かれた本家本宮の家紋。オダマキの花が可憐に彩る。
その家紋の中央には、ボーリング玉くらいの大きさの水晶が、高さ1メートルほどの台の上に置かれていた。
その水晶の半円を包む布の色は深紫。その水晶が入れられた箱も同じ色で統一されていた。
水晶は不思議な色合いで、透明でありながら、光の加減からか金や紫や青といった様々な色に変化をする。
と、一際高い鈴の音が響いた。
音に合わせて登場したのは、本宮家跡取り、本日の主役の1人である本宮篁である。
深紫を基調にした紋付き袴姿で、堂々と大広間へと入ってくる。
そして水晶が置いてあるところまで来ると、大広間の奥に立つ前当主隆源、当主明臣、そして頭上に白フクロウの雛を乗せた弟の晶露に一礼して、水晶に向き直る。
ここで再び、鈴の音が響く。
入場して来たのは、分家序列第1位の日陽家の次女、日陽楓子9才である。
赤に牡丹の絵柄の着物を身につけて、家紋の円に沿うように反時計回りに、しずしずとすり足で歩く。
次に現れたるは分家序列第2位の水音美妃13才である。
青に桔梗の絵柄の着物を身につけて、楓子に続く。
3番目には分家序列第3位の風祭の娘、続くは序列第4位の木羽の娘、序列第5位の土出の娘が歩き進め、均等に間を開けて家紋縁へと立つ。
ここでまた鈴の音が響く。
最後に現れたのは分家序列最下位であり、灰咲の当主の娘でもない、分家でも末流の娘、灰咲大海、つまり私の登場である。
身に付けているのは、灰の色に鮮やかな深紫のオダマキの絵柄の着物である。私も5人の少女に倣って、家紋の縁に向かって歩く。
好配の儀の立会人である、各分家の当主及び、血縁の者が、部屋の壁に沿うようにある椅子から、こちらを睨む。
おう。予想通りの反応である。
視線が痛いのである。
私は、緑のリボンのメイドさん、野衣さんに、連れられて行った先の部屋で、服を剥ぎ取られ、風呂に入れられ、時間が許す限りに肌を整えられ、頭のてっぺんからつま先まで、磨かれ、飾られた。
ペティキュア、マニキュアは、言うに及ばず、髪も念入りに洗われ、天使の輪よろしく、つやつやつるつるにされて、あげくは高そうな本家所有の着物を着せられたのである。
なんでも念の為にと、分家の家色の着物は、用意してあったということである。
まさかそれが使用されるとはと、メイド長らしき人が、ぽつりと零していたのが印象的だった。
私だって、そう思ったのである!
しかし用意するにしてもだ!
なぜ絵柄が、家紋のオダマキの柄なのだ!
案の定、分家の方々が皆、更に注目しているではないか!
私が先のメイド長さんに、控えめに聞いてみたところ、オダマキ以外の柄もあるとのことだ。では、そちらを!と私が勢い込んで頼んだところ、きっぱり首を振られた。
許嫁候補筆頭であれば、オダマキ柄一択だと。
くっ。私は咄嗟に言い返すことができず、さっさと着せられてしまったのである。
そして今に至る。
更に着付けられている際に、聞いた話によると、他の分家のお嬢様方は、着物一式は各自で持って来ていたそうである。
初見えの前儀で、万が一にでも若君に見初められ、自分が選ばれた際に、好配の儀で困らないようにと。
何それである。みんな選ばれたい願望が、マックスだったってことであるか?!
それとも、万が一に備えて、用意しておくのが常識ということであるのか?
私の家は、普通の家庭である。
万が一に備えて、着物を揃えておくお金などない!
着なかったら、もったいないではないか!
それでもお嬢様方が用意していた着物の柄が、家紋のオダマキではないのは、多少の遠慮があるからであろうか。
そんな事を考えているうちに、私は定位置についた。
私の定位置とは、一番出入り口から近い場所である。
末席と言っていいところだ。よかったのである。
最初だけでも目立たないところに立てるのは、私の心の平穏を保つのに、助かるのである。
本来、好配の儀は、許嫁に決まった女子と若君、前当主や当主、6分家の当主など、本当に内々の数人で行われるそうだ。
そして時間も初見えの前儀ほどの時間はかからず、30分ほどで終わるとのことであった。
ただ、今回は許嫁が、もとい許嫁候補が、6人になったことで、時間はそれ以上かかり、更にそれに伴い、立会人も増えたらしい。
私のせいではないぞ!
とはいえ、やることは少ないらしいので、メイド長さん曰く、それほど時間は押さないだろうとのことである。
願わくば、そう願いたいものである。
そして今、好配の儀が始まるー。
若君が当主に向かって一礼する。
若君がいるのは、家紋の中央に置かれた水晶の傍、3時の方向にである。
若君は水晶に向き直ると、視線を前に伸ばし、候補の1人である名を呼ぶ。
「分家、土出の娘、土出陸花、前へ」
「はい」
そう返事をして、家紋の中央にいる若君に歩み寄る少女。
小学校低学年位に見えるその子は、おかっぱ頭に橙色にひまわりの模様の可愛らしい着物を来ていた。
若君の前、水晶を間に挟んだ向かい側の位置で、立ち止まった。
「水晶に手を」
陸花さんが若君の指示通りに、水晶に左手を置く。
すると、ぽわっと水晶が光った。
若君はそれに頷くと、いつの間にか若君の斜め後ろに控えていた三弥さんから、オダマキの花を一輪受け取り、それを陸花さんに渡す。
「ありがたき、幸せ」
彼女が恭しく花を受け取り、その姿勢のまま二歩後ろに下がり、そこから左斜め後ろ8時の方向へ前進して、家紋縁少し手前で立ち止まり、当主様たちがいる方向、つまりは前を向いて立った。
これを以下序列4位から1位まで、繰り返し行われた。
「次、分家木羽の娘、木羽寧萌、前へ」
「次、分家風祭の娘、風祭伊吹前へ」
「次、分家水音の娘、水音美妃、前へ」
「次、分家日陽の娘、日陽楓子、前へ」
そして。
「ありがたき、幸せ」
分家序列最上位、日陽楓子さんが若君からオダマキの花をもらい、やっと私の番が来た。
「次、分家灰咲の娘、灰咲大海、前へ」
「はい!」
私は、私の目の前に背を向けて横一列に整列している少女たちを避けるように、床に描かれている家紋の縁を時計周りにそって歩く。
5回眺めてみて思ったのだが、序列が高位になるに連れて、水晶に手が触れた時の、輝きが大きかった。それも、少女たちが持つ異能の力の大きさに、寄るのだろうか。
私は。9時のところで立ち止まると、90度向きを換え、若君の前へと歩み寄る。
「水晶に手を」
「はい」
若君に従い、水晶に手を当てる。
と、ぽうっと、かろうじて光ったか?と、思えるくらいの明るさであった。
「ほぼ、力がないではないか」
誰が呟いたのかわからない、微かな声。
しかし、悪口というのは、なぜか耳がひろうものである。
私には、はっきり聞こえた。
やはりか。どういう仕掛けかはわからないが、この水晶は、異能の力を測る機能があるらしい。
ここで全く光らなければ、許嫁候補から外れることができたのであろうか。
だが、幸か不幸か、水晶は微かに光った。
そう微かに。
これが皆が驚くほどに光を発したならば、今後の私への印象も違ったんだろうがなあ。
私も自身の力の無さに、がっかりである。
若君は私のがっかりさなど無関心で、そればかりか、そうだろうなって顔をしながら、こちらに近づいて来る。
まあそうだろうとは思う。
私は所詮、分家序列最下位の灰咲家の末流の娘である。
私は内心の不満や不機嫌さを、笑顔で隠して、若君に背を向ける。
すると、若君は私の髪、ハーフアップのお団子のところに、オダマキの簪をそっと刺す。
そう、この簪こそが、本家若君の許嫁の証なのである。
本来、許嫁は1人、簪も1つ。
今回は例外で、許嫁候補が6人、簪は1つ。
その為、許嫁筆頭候補である私が、簪を若君より頂いたのである。
私は、若君に向き直り、呟く。
「ありがたき、幸せ」
そこで、当主明臣様が、朗々とした声で告げる。
「許嫁候補筆頭、灰咲大海、一族へ挨拶!!」
私は、再び向きを180度変え、背筋をピンと伸ばした。
そして大広間の中を、ゆっくりと視線を巡らす。
歓迎の意を示している者は、ほとんどいない。
侮蔑、軽蔑、嫉妬、などなど。
まるで、前世の貴族社会に帰ってきたかのようである。
私はすべてを飲み込み、精一杯艶やかに笑う。
「皆々様、許嫁候補、筆頭!灰咲大海でございます!どうぞよろしくお願い致します!」
なってしまったものは、仕方がない。
この地位、私の好奇心を満たす助けになってもらおう!
決して、負け惜しみではないのである!
ここで一区切りです。
皆様、ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!
続きは今月末までには更新したいと思っています。もしかしたら、来月頭になってしまうかもしれません。
頑張ります!
追記(R8/5/30)
皆様、こんにちは。次回の更新ですが、やはり6月上旬以降になってしまいそうです。
申し訳ございせん。なるべく早くに更新したいと思います。
待ってくださっている方いらっしゃるかなあ。
いてくれるとよいなあと思います。




