第21話 私、叫ぶ。顕現せよ!
私は再び弟君のそばで跪いた。
「弟君、左手をこちらに」
私は、右手の平を差し出した。
弟君は私に向き直り、私の手に左手を載せた。
その小さな手のひらに、弟君自身の髪をそっとのせた。
きらきらして綺麗な金髪だ。
「弟君、よろしいですか。妖精に姿を見せてほしいと願ってください。それと同時に見たい姿を強く頭に思い浮かべてください。小鳥でも、ハムスターでも、弟君が好きな鳥、動物、爬虫類、何でも構いません。できますか?」
「むずかしいけど、やってみる」
弟君は私を正面から見て、しっかりと頷いてくれた。
「えらいですね。やってみようと思う気持ちが大切です」
私はけなげな弟君の姿に、つい立ち上がって、弟君の頭を撫でてしまった。
弟君はぽけっとして私を見つめた後、笑顔をみせて、
「はい!」と元気よく返事をしてくれた。
ふう。一瞬ひやっとしてしまった。
私が弟君の頭に触れたとき、3方向から、鋭い視線を感じた。
当主、前当主、若君である。
感情のままに行動するのは、危険である。
相手は本家の御曹司の弟君である。
その事実を、忘れないようにしなくては。
私は少し口をひくつかせながらも、弟君に安心させるように笑顔を返す。
「大丈夫です。私もフォローしますから」
さて、次は妖精未満だ。
私はおとなしく浮いている妖精未満に、視線を向けた。
<まだ姿をもたぬ、自然の申し子よ。この子の手のひらの上に、来よ>
うう。エルフ語を使うと、ごりごりと体力が取られて行く。
古き言葉は、使う者の体力も削ぐのだ。
頑張れ私、ゴールは近いぞ。
妖精未満は私の声に応え、素直に弟君の左手の平にのる。というか、浮かぶ。
「弟君、今妖精未満が、弟君の左手にいます。目を閉じて、左手に気持ちを集中してください。そして願ってください。姿を見せてほしいと」
弟君は、頷いて、目を閉じた。
私は妖精未満に両手を向ける。
<まだ姿をもたぬ、自然の申し子よ。汝の愛し子と定めし子の守護者にならんとするならば、汝の愛し子の御髪と想像の知と、願望を糧として、形をなせ!愛し子を守護するにふさわしい姿をとれ!>
エルフ語に言霊の力がのるように、ゆっくりはっきりと私は音を発する。
弟君。
妖精未満。
私の気持ち。
が刹那、一つに重なる!
妖精未満が白い光を発する!
出だしは好調!
しかし、力が、まだ足りない!。
パワー不足!
妖精未満を妖精に昇華させるには、まだ力が足りない!
どうする!
私の言霊の力は、微々たるものだ!
それでも!
<顕現!顕現!顕現せよ!!!>
気持ちをのせ、朗々と繰り返す!。
この試みが成功するか否か。
妖精未満が妖精に昇華できるか。
それは妖精未満と弟君の思いの強さにかかっている!。
弟君!私が指示した想像を目一杯膨らませて欲しい!
想像力!
妖精未満も大気から力を取り込み、懸命に形をなそうとするのが見て取れる。
だが、悲しいかなこの地の自然の力、大気にやどる精気はあまりにも微弱だ。
頑張れ!頑張れ!お前の弟君の愛着の大きさをここでみせてみよ!
ああ!私の中にある魔力もどきの力を使えたら、もう少しましになっていたか?
今更である。私は未だ自身の中にある力を知らないのだから!
くそ!準備不足!
突発的事案発生だから仕方ないけど!
こんなことなら、もっと積極的に自身の力を調べておくべきだったか!
今更である!
徐々に、白い光が弱まっていく。
<顕現!>
私は再び、エルフ語を紡ぐ。
しかし、もう体力ぎりぎりである。
単語でしか紡げない!
このままではだめだ!
なにかないか?なにか、なんでもいい!
私は頭をフル回転させた。
考えろ!考えろ!考えろ!
と、その時、ひらめいた。
若君が妖精未満に対して、不満をぶちまけた時。
妖精は若君の怒りに反応して、頭に体当たりをしようとした。
が、大きな圧を感じて、それができなった。
妖精未満に向けての怒りが、若君の中にある何かの力が、拒絶の圧、力になった。
それで妖精は近づけなかったのではないか?武道による気の力か?
若君は、妖精未満の気配を敏感に感じ取っていた。
さらに妖精の愛し子の兄君であるという血のつながりもある。
とにかく、若君になにか力があると仮定して、頼んでみるしかない!
このままではじり貧だ!
試してみるしかない!
私は両手を妖精未満に向けたまま、静かにそばで見守っていた若君に顔を向けた。
「若君!私の補助だけでは、妖精が形をなすことは難しいようです!パワーが足りない!!どうか!若君のお力をお貸しいただけないでしょうか!?」
「どうすればよい?」
おお!私への不平はなしだ!やるべきことの質問だけを聞いてくる!
若君!流石!
私も端的に頼む。
「私と同じように、弟君の手のひらにある髪に、両手をかざしてしてください!そして強く念じてください!妖精よ!弟の願う姿に形をなせ!と!」
「了解した」
若君が私の言った通り、両手を弟君の髪にかざす。
<願う!妖精よ!顕現せよ!>
なんと!若君は私が望む以上のことをしてくれた!!
エルフ語、マスターしたのか!?
刹那。
若様の両手から力が放出した。
私とは比べられないほどの言霊の力だ!
「わああああああああっ!」
まぶしい!!そしてすごい質量である!
これならいける!
前世で感じた懐かしい世界樹の聖なる力に似た何かが、若様の手から放出されている!
「いける!!」
私はもう一度、エルフ語で願いを繰り返す!
絞り出すように!
<まだ姿をもたぬ、自然の申し子よ!汝の愛し子と定めし子の守護者にならんとするならば、汝の愛し子の御髪と想像の知と、願望を糧として、形をなせ!愛し子を守護するにふさわしい姿をとれ!!今ここに!顕現せよ!>
そこで、若君が私を真似てエルフ語を発した!
<顕現せよ!!>
短いが、力強い、エルフの言葉だ!言霊だ!!
すごい!若君覚えてしまったのか!天才か!?
力ある者が発する言葉は更に効力を増す!
増して!
<力は満たされている!守護する正しき姿になれ!>
増して増して増して!!
最後の一押し!
<<顕現せよ!!!>>
私と若君の言葉が重なる!
重なって!力となって!!
妖精未満は一際明るい光を発する!!!
その光が凝縮し、妖精未満に集まり、集まって!
そして!
そして!
姿をもたなかった、自然の申し子は形を成し始める!!
弟君の左手にのる髪を取り込み、光と風が渦巻く。
いいぞ!いい感じだ!
もう少し!頼むぞ!!
愛されやすい形になれよ!
そうだな。私の好みとしては鳥がいい!。
フクロウなんてどうだ!賢そうだし!可愛いぞ!
私が最後に強くそう願ったからであろうかー。
光が凝縮して、凝縮して、やがてぽんと現れたのはー。
小さく白いまるまるとした鳥の雛。
「ぴゅい」
可愛く首を傾げる姿がプリティーである!
「出た!」
出たとは適切ではないかもしれないが、それが私の正直な気持ちである。
出た!出てくれた!成功だ!
はあ、やれやれだ!
弟君の左の手の平にのる、ちんまい雛。
「白いフクロウの雛か?」
その若君の声に、私はぎくりと身をすくめた。
えっ。私の願いでこの姿になったんじゃあるまいな?やめてほしい!
「晶露、お前はフクロウが好きなのか?」
「フクロウさん?きらいじゃないよ?」
この弟君の返事に疑問が膨らんだのか、再度若君が問う。
「晶露、おまえが願った姿はなんだった?」
「えっと。ハムスターさんかな。かわいいから」
若君が犯人を見据えるように、私を見つめる。
「そなたの願望か?」
いや、少し思考がすべったというか。
ほら、成功しそうだったからつい、ね?
私が盛大に視線を泳がせていると、弟君が、右手でそっと雛の頭を撫でた。
通常のフクロウの雛よりはずっと小さい雛。
若君が視線を戻し、弟君が嬉しそうに雛の頭を撫でているのを眺める。
ふう。追求を諦めてくれたらしい。
若君が弟君の手の中にいる雛を見て、呟いた。
「これが悪さをしていたのか?」
「ぴゅい!ぴゅい!」
途端、抗議するように鳴く雛。それだけでなく、羽を広げ、片足まで上げている。
「いえ、この妖精は弟君を守っていたのでございます」
私はすかさず切り返した。
それと雛よ。おとなしくしておれ。
じゃないと、若君に処分されてしまうぞ!
「森の賢者と言われるフクロウ、弟君にお似合いではないかと」
私は自分の過失を取りなすように、そっと付け加える。
<さあ、弟君にご挨拶を>
妖精未満から妖精にランクアップし、姿を持った妖精に促す。
弟君に撫でられて、気持ちよさそうにしていた雛が、ぴっと背筋を伸ばす。
「ぴゅいぴゅい!!」
と、元気よく挨拶をした。
さっきと同じじゃないか?
って、話せないのか!
もう一段階、必要か?
とは思うものの、私はもう限界だ。
ほっとした途端、ぐらりと視界が揺れた。
だめだ!立ってられないー。
私はその思考を最後に、意識がとんだ。
私、頑張った……。
主人公第一の見せ場でしたね。
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