立ち上がれる理由
そこで僕は立ち上がったのだ。
「む…、貴様何のつもりだ」
そこで僕は気づいた。モヤモヤの正体に。
「はは、なんだそんな簡単なことだったのか…」
「…?」
そこで父さんの言葉思い出した。
アイリを守ってやってくれという言葉を。
僕は今まで父さんからの期待を裏切りたくなくて、使命としてそれを守るために修行をしてきた。
アイリを守らないといけないと思っていた。
でもその気持ちは徐々に変わっていった。
使命のままだったら多分自分は途中で投げ出していただろう。
でも、投げ出さなかった。
そう、その投げ出さなかった理由がそのモヤモヤの正体だ。
僕はいつの間にか、アイリを好きになってしまっていたのだ。
「まったく、なんであんな泣き虫を好きになってしまったんだろうか…」
あと少しで手遅れになるところだった。
自分の気持ちに気が付かないままアイリと別れていたらいつか今日を後悔していただろう。
そして気が付けたからこそ今は純粋に思う。
「守らなきゃじゃない。僕はアイリを守りたい…」
その言葉を口にすると不思議と心が軽くなった。
「何をするつもりだ…?」
「そんなのは決まっている。僕はアイリを守る。それだけだ」
別に恐怖が消えたわけではない。
依然怖いままだ。
だけどさっきとは違う。
今の僕には恐怖に立ち向かえるだけの勇気が溢れてくる。
アイリを守る、守ることができるのは僕しかいない。
アイリが好きだから。
アイリを思えば勇気が溢れてくる。
……、ちょっとこのフレーズはもう恥ずかしいから言わない。
「アイリ!」
「!?」
アイリの体がびくりとした。
まだ振り返ってくれはしない。
だがそんなのは関係ない。
聞こえていればいい。
「僕が君を守る!だからアイリも自分の夢をあきらめないで!」
「そしてさっきはほんとうにごめん!理由はまだ言えないけど、僕が悪いということははっきりしてる!あと…」
「?」
「あと、英雄養成学校入学おめでとう」
これに関しては今言うべきことなのか迷ったが、こういうのは勢いだ。
後にしようなんて思うな。
もう僕たちは会えないかもしれないんだ。
「…」
あれ?まだ何も言ってくれない。
そろそろ振り返ってくれると嬉しいんだけどな。
もしかして今言うべきことじゃなかったか!?
やっちまった!
「もう…」
「?」
「本当にバカなんだからっ…」
アイリはやっと振り返った。
そしてやっぱり僕の想像通り泣いていた。
泣いていたが、その顔はほのかに笑っているように見えた…。
「絶対こんな状況で言うことじゃないでしょ、本当にバカ」
「う、うるさいな。アイリがいつまで経っても振り返らないからだろ!」
やっぱりこの状況は違ったか。
だが結果オーライだ。
「はいはい、そういうことにしといてあげるわ」
「ぐぬぬ…」
やっぱりムカつく。
だけど、これでこそアイリだな
「話は終わったか?」
話が終わるまで待ってくれていたのか…?
意外にいいやつなのかもしれないな。
顔はめっちゃ怖いけど。
「ああ、待たせて申し訳ない」
「ふん!こんなやつに謝る必要はないわ、オーデンス」
アイリは敵意むき出しだ。
だけど状況の深刻さは全く変わっていない。
実力差は2対1でも圧倒的にあっちが上だとわかる。
どうする…?
「そうか、話は終わったか…」
「では再び問おう。貴様は何をするつもりだ?」
「アイリを連れて行かせない!それだけだ!」
「オーデンスと私がそろえば最強なんだから!」
そうさ、アイリと僕がそろえば倒せなくても、時間稼ぎにはなるはずだ。
幸いあいつはアイリを無傷で連れていきたいと考えている。
そして時間を稼いで父さんが来るのを待つ。
父さんならあんなやつ絶対倒してくれるはずだ。
後の問題は僕の命だな…。
言いたくはないが、僕が1番足手まといだ。
「仕方ない…」
「え…」
雰囲気が一変した。
空気が重い…。
さっきもひりつくような空気で重苦しかったがここまでじゃなかった。
さっきよりもまだ上があるのか…?
「オーデンス…、と言ったな?」
「あ、ああ」
俺を睨む。
足が震える。
震えが止まらない、この世にこんな恐ろしい目をする奴がいるのか…。
アイリもさすがにやばいと勘づいたらしく、僕と同じで震えていた。
「お前を殺す」
その言葉を聞いた途端僕の脳裏に死という文字がよぎった。
そして気づけば僕の腕は無くなっていた…。