人は簡単に死ぬということ
「あ…、あああああぁぁぁ!?」
「オーデンス!?」
痛い痛い痛い痛いいたいいたいイタイイタイ…、イタイってなんだっけ…。
だめだ、頭の中がどんどん真っ白な渦に飲み込まれていく。
体の全細胞が悲鳴を上げている。
僕はただ必死に悲鳴をあげて痛みを紛らわすことしかできなかった…。
「オーデンスしっかりして!ど、どうしよう。血が止まらない、このままじゃ…」
「ううぅ…!」
「もう終わりだ…。貴様が黙って従えばこいつはこんなことにはならなかったのだ」
「く、くそう…」
痛みが治まってきたが、このままじゃ僕は極度の出血過多で死んでしまうだろう…。
やっぱりアイリを守ることはできないのか…。
それにしても、さっきのは攻撃だったのか?
何も見えなかっな…。
そして僕はゆっくりと膝を地面につけた。
「オーデンス!いやぁぁ!死んだらいやよ!お願い、私を置いてかないで!」
「はは、僕がアイリを置いていくわけないだろ…」
すこし楽な体制で寝たいだけだよ…。
僕は体が徐々に地面と近づくのを感じた。
そして意識がだんだん遠のいていくのを感じたが、もう体が動かなかった。
指一つすら動かせそうにないや…。
僕はそこで考えるのをやめた。
「お、オーデンス…?」
返事をすることはできなかった。
「オーデンス、返事してよぉ…」
アイリはまた泣いていた。
僕と喧嘩して泣いていたわけでもなく、入学が決まって嬉しくて泣いていたわけでもない。
アイリは本気で僕のことで泣いてくれているのがわかった。
嬉しいという感情が湧いたが、そこで僕はゆっくりと目を閉じた…。
「大切な女のためにこの俺に立ち向かい死ねたのなら本望だろう」
「ねぇ?オーデンスを助けられないの!?私ちゃんと言うとおりにするから!もうひどいこと言わないから!だからオーデンスを助けてよぉ!」
「死んだ者は生き返ることはない。それがこの世の理だ」
「うええええん!誰か助けてよぉ!やだよ、こんなの嫌だよぉ…」
オーデンスの手が徐々に冷たくなっているのを触れて感じ、アイリは初めて人の死の瞬間を目の当たりにしてしまった。
「貴様にとっても大切な奴だったか。それはすまないことをしたな」
その男はアイリをゆっくりと抱きかかえた。
アイリは抵抗しなかった。
いやしなかったのではなく、できなかったのだろう。
それだけオーデンスの死はアイリの心にとって大きな衝撃だったのだろう…。
アイリは泣き続けていた。
「ふん…、これが命令だとしてもやはり子供をさらうのは心苦しいものだな…」
その男は何もないところから大きな羽を出現させて、それを広げて飛び去ろうとしたその時だった。
「!?…、どういうことだ…」
その男は驚愕していた。
いくつもの死線をかいくぐり、何人もの人を殺め、いつしか自分も死のオーラを纏えるようになったその死神と呼べる男ですら予想できなかったことがそこに起きていた。
その男の足を誰かが掴んでいたのだ。
そう誰か…、先ほど死んだと思われていた人、腕が無くなって数分以上は経っているのにもかかわらず、残されたもう片方の腕がその男の足首を強く掴んでいたのだ…。
「貴様は確かに死んだはずだ…!」
「オーデンス!?」
ずっと寝ていたアイリも、オーデンスの異変に気付き正常な判断を取り戻した。
だが、オーデンスは黙ったままだ。
ずっと黙ったままうつ伏せで倒れている。
オーデンスの無くなった右腕は依然そのままであり、血はいまだに流れ続けていてオーデンス右腕周辺に大きな血だまりができていた。
通常なら死んでいる。
なのにオーデンスの左腕だけはその男の足首を強く握りしめていた。
絶対に連れて行かせないという強い意志を感じた。
「一体どこにそんな力が残されているというのだ…」
「…」
返事はない。
呼吸の音もしない。
まるで左腕に生命が宿っているようだ。
「諦めが悪いやつだ…。死んでも死に切れんか」
「なら、その左腕も切り落としてやろう」
「だ、だめ!やらせないんだから!」
アイリは必死に抵抗する。
「(絶対にやらせない…)」
オーデンスが生きているかもしれない。
もしかしたら助かるかもしれない。
そんな希望にすがるしかなかった。
アイリはただ無我夢中で魔力が集中しているその男の手に嚙みついた。
「貴様もか…。だが無駄な抵抗だな」
「無剣」
「!?」
見えない。
触ろうとしても実体がないのか触れられない。
だけど確かに奴の手の中には剣があった。
「な、なによそれ!卑怯じゃない!」
見えない剣など止めようがない。
「卑怯か…。確かに子供相手に使う技ではないな。だが、俺はどう思われようと気に留めん」
そして剣をゆっくりと高く上げた。
「オーデンスよ、その守ろうとする意志は敵ながら賞賛に値する」
「だがそれもこれで終わりだ…」
その男は剣を振り下ろそうとした。
「だめーーー!」
アイリは瞬時にオーデンスの前に出てその一撃を身を挺して守ろうとした。
「(こいつの狙いは私!なら私に危害が及ぶような攻撃はしないはず!)」
だがその男の剣はアイリをなぜか通過した。
「(え…?どうして)」
その男の振り下ろす手は止まらなかった。
「(オーデンス!)」
「ガキィィィィン」
それはなにかの弾ける音だった。
その男の剣はオーデンスには届いていなかった。
それどころか、その男は数歩のけぞった体制で後退していた。
「え…何が?」
アイリは困惑していた。
オーデンスはあのまま切られるはずだった。
オーデンスはとどめを刺されるはずだった。
だけど、その男は後退をしていて、驚愕の表情をしていたのだ。
「どうなっている!?」
アイリはその男の視線の方向にゆっくりと顔を動かした。
オーデンスは先ほどのようにうつ伏せではなく、膝をついて立ち上がろうとしていた。
だがそれよりも印象的だったのはその男の足を掴んでいた左手から魔力が流れており、そこから厚い壁ができていた。
「これは…初級魔術魔力障壁。でも…」
「なぜ俺の無剣がたかが初級魔術などに防がれのだ…?」
「(そうよ、魔力障壁にそんな防御力は無い。どうなっているの…?)」
「あれ、僕生きてる…?」
「オーデンス!?目を覚ましたのね!」
「アイリ?良かったまだ連れていかれていなかったんだね」
「え?と…当然じゃない!」
その男は歩き出した。
先ほど後退した数歩分を詰めた。
そしてオーデンスも徐々に立ち上がり、腕をなくしたということをまるで無かったかのようにピンピンしていた。
オーデンスとその男は向かい合った。
「貴様何者だ…。死んだはずのやつが立ち上がり、さらには初級魔術で俺の無剣を防いで見せた。ありえないものを俺は立て続けに見せられたわけだ」
「それはわからない。わかるのは僕はアイリを死んでも守ると誓ったんだ!立ち上げれる理由なんてそれで十分だ!」




